予選終了
昼休みが終わり、暫くしてから予選四戦目が終わった。今回も他と同じように戦い、ギルバードが言っていた予選上位五組に残れる三勝目を飾った。これで三勝一敗という事になり、上位五組に残れるだろう。
だからこそ、後の一戦は戦う意味が無い。今日の目標はあくまでも上位五組に、いかにして相手に探らせないように残るか、という事が重要だった。終えてしまったのだから、残りの一勝は戦う意味が無い……だが、五戦戦わなければ行けないルールになっているため、どうする事も出来ない。
「次の対戦は七組と一組の試合になる二ゃ!二組共これで最終試合二ゃ!!」
アーニャの言葉で七組である俺と柊は立ち上がる。すると、同時に少し離れていた二人組の騎士ーーーバトラー家の者が立ち上がった。運悪く、圧倒的な強さで勝ち上がってきた二人組と当たってしまった。出来れば戦いたくない相手だったのだが……仕方ない。ある程度戦ってから、負けを認めるのが一番いい方法だろう。
「ある程度戦って、負けを認める作戦で行くか」
「わかったのだ!」
柊にも了承を貰い、ある程度戦ってから負けを認める作戦で行く事にした。バトラー家の二人組は今まで四戦全勝を治めている。確実に予選は突破するので、神種選定でも戦う可能性は十分にある。攻撃のタイミングなど、観察出来る所はしっかりと抑えた方が良い。後々に繋げるためにも出来る事はやっておこう。相手の動きを注意しながら見る事にした。
戦う舞台に行き、一定の距離を取って対峙する。今までの相手と各違いに強いのが、対峙した瞬間に分かる。隣の柊に視線を向けると、少しだけ緊張しているように見える。今までそんな事なかったのに、やはり俺と同じで相手の強さを直に感じてしまったのだろう。まず、今まで通り手加減していては勝てない。ある程度は出さないと、勝負にすらならないだろう。
「お互い準備は良い二ゃ!三十秒後に始める二ゃ」
そう言うと同時にバトラー家の二人組は剣を抜き、少しだけ後方に下がる。俺も同じように剣を抜き、後方に下がる。柊はさらに後ろに下がり、デザイアを発動する準備を行う。相手の目線は二人共俺を見ている。どうやら先に俺を狙うつもりだーーーとはならず、俺がこう考えているという事は柊を狙う可能性の方が高い。
ここまで柊はあまり派手な動きをしていない。動きも地味で回避行動も上手では無い。純粋なデザイア使いであるからこそ、肉体行動はうまく行えない。と、思わせている。実際はやろうと思えば出来るのだが、今はその瞬間では無い。
「試合開始二ゃ!」
アーニャに言葉と同時に目の前に居た騎士は一瞬で視界から消えた。やはり、今まで戦った相手とは格が違う。ドメインほど早くは無いが、それに匹敵する動きだ。お昼休みに話を聞いていなければこの加速は予想出来なかっただろう。
後ろに居た柊の足元には魔方陣が展開されている。だが、相手はそんな事気にしていないのか、もしくは脅威とは思って居ないのか分からないが、無警戒で突撃してくる。時間にておそよ数秒。二人の騎士が俺では無く柊に向かう。
(それは予想通りの動きなんだよな……)
だが、俺はあくまでも守りに行かない。そもそも守る必要など皆無だ。柊は発動した魔方陣は防御結界だ。詠唱を省いたデザイアは、詠唱を行った時に比べると劣るのが一般的だが、あくまでもそれは勇者では無い一般人が行った場合だ。柊に向かったバトラー家の騎士の剣は、柊が展開した防御結界に簡単に阻まれる。
「この結界……!」
「詠唱を省いてこの固さ!」
騎士の二人は驚いたが、直ぐに状況を理解して、柊から距離を取った。あの防御結界は簡単に破る事が出来る物では無い。デザイアを使った全力でも二人には破る事が出来ないはずだ。それほどまでに固い結界。ゴーレム相手には簡単に破壊されてしまったが、あの時よりも魔力の扱いがうまくなったため、ゴーレムにも破壊する事が出来ないかもしれない。
離れた二人を確認すると同時に結界を維持しながら、柊は少し後方に移動する。俺はその内に騎士の一人に攻撃を仕掛ける。特に変わった動きはせずに、正面から突撃する。あくまでも隙を見せながら、相手がどのような反応をするかを確認するために。
だが、相手は俺の隙だらけの突撃を警戒して、さらに距離を取る。先ほどの柊の防御結界を見てから、少し目が変わった。流石に名家だけはある。完全に油断は捨てたようだ。隙はワザと見せていると気付かれている。
判断能力も高く、相手の実力を量る力も持っている。ドメインと言い名家というのはやはり凄い。一般の生まれである俺とは全く違う。俺は自分の力では無く、物語の世界の主人公補正が掛かっているだけ。だからこそ、こうして本物の才能を見ると、素直に凄いと思う。
「来るのだ!」
柊に言葉が合図になり、騎士二人は今まで見せなかった動きを見せる。それは、他の組と同じで、一人がデザイア使いとしての動きで、一人が剣士としての動き……俺と柊が行っている物と同じ動きになる。この二人組は今まで剣戟で圧倒してきていた。デザイアを使う場面もあったが、それでも剣戟がメインだった。しかし、ここに来て一人がデザイア使いに動きに変わった。何を企んでいるのだろうか?
俺は警戒している風にしながら、後方に下がり、柊の隣に並ぶ。そして、他の誰にも聞こえないように、柊に伝える。
「この動きを見たら負けを認めよう。ここは目立った動きはせず、見たことない動きだけ目に焼き付けよう」
「それはわかったのだ。けど、攻撃を一回ぐらいしないと居不自然なのだ!」
「それもそうだな……」
確かに、この戦いの中でやった事と言えば、柊が防御結界で守った事と、俺は隙を見せて突撃した事ぐらいだ。これで相手の動きを見て、敗北を認めるのは不自然か。
「わかった。少しだけこっちも攻めてみよう」
「やったのだ!」
話が終わると、俺は柊から距離を取る。相手は俺たちが話をしている間に攻撃をするのでは無く、自分たちも何か打ち合わせをする事にしたようだ。
そして、俺たちが話し合いを終わったのを確認すると同時に騎士の一人が再び加速した。今度は柊では無く、俺の狙ってきた。加速する中で騎士は剣の先を少し下に落としながら迫ってくる。このまま右手で振り抜いてきそうな恰好だが、この格好はフェイントだ。ギルバードに何度も叩き込まれた格好なので、その剣の軌道は加護を使わないでも理解できる。
振り抜く瞬間に、剣を曲げてきて全く違う方向に振るう。当たっても致命的になる事は無いが、精神ダメージに響く。これがフェイントだと気が付くか、かなり剣の腕が無ければ止める事は難しいだろう。しかし、俺は前者だ。これがフェイントだと知って居るため、予想しづらい剣の軌道も簡単読めてしまい、受け止める事が出来る。
「……っ!!やはり、この者ーーー!」
「航先輩!後ろに飛ぶのだ!」
柊の言葉を受け、俺は全力でバックステップを行う。受け止めた騎士と距離を取ると、後ろに居たもう一人の足元には魔方陣が展開されている。それも二つ同時にだ。
同時に展開する事は難しい。だからこそ、名家である二人でもそれなりに時間が必要だったのだろう。この男はあくまでも囮だった訳だ。
俺が地面に着地する前に、同時展開は終わり、左右から氷と炎が襲い掛かってくる。着地する前なので好きに動きが取れない状況。食らう覚悟を持った所で、柊の声が響く。
「やらせないのだ!」
柊は俺の方向に走ってきて、左右から襲ってくるデザイアを、両手を広げてデザイアで相殺する。氷の方には炎。炎の方には氷をぶつけ、完全に相殺する。
「そんなバカな……」
名家の生まれである才能ある者が、時間をかけて行った同時展開を何事も無く行った柊を見て、驚いた声を上げる。
これはそんなに簡単に出来る事では無いからこそ、驚いているのだ。そんな事、名家である二人が知らない訳が無い。
「俺たちはここで負けを認めます」
俺は手を挙げて、早々に負けを認める。してしまった事は仕方が無いし、気にしても仕方がない。観客も騒いでいない様子を見るに、あまり柊が行った事は深く見られていないようだ。観客席からは、騎士が放ったデザイアが良い壁をして見えなかった可能性もある。同時展開を一瞬で行う事が異様に難しいのは子供でも分かる事実だ。騒ぎになっていないという事は、気が付かれていない可能性が高いという事だ。
「分かった二ゃ!降参を認める二ゃ!」
アーニャも空気を読んでくれたのか、直ぐに降参を認めてくれた。本来であれば組である柊にも訪ねなければらならないのだが、聞かずに降参を認めた。
「勝者、一組二ゃ!!」
この声に観客の声が会場に沸く。拍手も多く送られてくる。そんな中、俺は柊の頭を軽く撫でる。
「ありがとな」
多分だが、柊は俺は回避出来ないと分かり、助けてくれたのだろう。精神ダメージになると言っても、熱い物は熱いし、痛い物は痛い。勿論、氷は冷たい。
「へへへ、なのだ!」
嬉しそうに柊は笑う。こちらから攻撃する機会を作る事は出来なかったが、これ以上戦えば、再び何かやってしまう可能性がある。相手が強いからこそ、簡単に相手をする事が出来ないのだ。
それから俺は柊の頭から手を放し、一緒に舞台を出るために歩く。すると、バトラー家の二人組とすれ違いざまに声を掛けられる。
「神種選定では本気の二人と戦える事を祈って要る」
俺たちはその声に反応せずに歩く。ドメインが言った通り、手を抜いていた事は完全にバレているようだ。傍目から見ればどうか分からないが、実際に剣を交わしたとなれば、やはり別だ。相手の動きなどで戦い慣れている者は気が付いたりする。
名家の生まれであり、実践経験が豊富な二人は気が付いたという事だ。しかし、小さい声ですれ違い際に言ったという事は、言いふらすつもりは無いという事だろう。
それならば気にしなくても問題無いだろう。あくまでも他の大陸の者にバレて居なければ問題無い。
こうして俺たちの予選は終わった。三勝二敗の俺たちは上位五組の中で四番目だった。そして、最後に戦った二人組は全勝を治め、予選一位通過をした。




