お昼休み
「おめでとう!って、言ったらいいのかしら?二人の事知ってる私からしたら、明らかに手を抜いてる事が分かるからなんとも言いずらいわね」
ラトリーが苦笑いを浮かべならがそう言った。事情は知って居るため、手を抜いている事について深く言われる事は無い。一緒に来ていたメアリーが今は席を外しているため、こうして話しているのだ。
俺たちはデザイアで周囲の光を消すという作戦で、一勝を治めてから順調に進んで居る。三戦を終えた所で今の所は二勝一敗という普通の結果に終わっている。
やはり、今まで戦ってきた人の方が遥かに強いため、今の所は何も問題無く進んで居る。勝つ時は在ありきたりな作戦で勝ち、負ける時はある程度戦って敗北を認める事にしている。
神種選定は毎回内容が変わるらしいので分からないが、予選に関しては制限時間が無いのだ。どちらかが気絶するか、負けを認めるか以外に勝敗が決まらない。制限時間があれば、判定負けなどにする事も出来たが、無いため勝たないためには負けを認める他無い。
それに負けを認めたからと言って、後々の戦いに響く事は無い。同じ組同士での戦いは二回行われる事が無いように対策はしているらしいが、基本的には抽選で五戦戦う事になっている。だからこそ、上位に残る可能性は低くなるが、負けを認めたからと言って、何かが変わる事は無い。
「素直におめでとう!でいいのだ。全力で戦うより難しのだ!」
「それもそういよね。ヒイラギさんやホシノ君ほどの実力があれば余計にもどかしくなったりしようよね」
「否定は出来ない……」
確かに、躱す事が簡単に出来る攻撃を受け止めたり、ダメージとしてわざと躱さない事もある。基本的に柊にはさせないようにしているが、どうしても攻撃を当たらないといけない場面というのは訪れる。肉体ダメージでは無く、精神ダメージになると言っても痛いものは痛いし、炎が飛んで来たら熱い。仕方ないとはいえ、少し嫌になる気持ちは全く否定できないし、躱せるのに……というもどかしさもある。
「まぁ、本番の事を思えば妥当な作戦だと思うわ。あくまでも出る事が目標じゃなくて、優勝する事は目的なら尚更ね」
「そうなのだ!だから仕方ないのだ!」
柊はそう言いながら、食べ物を食べる。今の俺たちは休憩をしているのだ。神種選定の予選だとしてもお昼を食べる時間も存在する。そもそも、大陸のトップが見に来る場なのだから、お昼の休憩が無い訳が無い。
ずっと見ながら物を食べる訳には行かない。俺たちならまだしもそれが大陸の王女であるフィアナなら尚更だ。フィアナが予選を観戦しながら物を食べている光景は、一般市民から見ても異様な光景になってしまう。だからこそ、こういうお昼休みが設けられる。
出場している者もそうだが、観客だってお腹が空く。全ての人に考慮されて、短いながらもこういうお昼休みが設けられる。良く言えば助かるが、悪く言えばこれは予選。本番ではこういう休憩時間は無いかもしれない。
「あ、メアリーが帰って来た……なんか、余計な人もついてきているわ……」
ラトリーの視線の先にはメアリーがこちらに向かってきている。その隣には先ほどまで居なかったドメインが一緒に居た。どうやら、ドメインもこの会場には来ていたようだ。来るかどうか分からないと言っていたので、来ない物だとばかり思って居た。
「よ、ワタルにツカサじゃないか。奇遇だな」
「メアリーと一緒に来て奇遇な訳ないじゃない」
ラトリー言う通りだが、こうして来てくれたという事は試合を見に来てくれたという事だ。手を抜いている事を知って居るにも関わらずだ。やはり、それなりに嬉しい気持ちもある。
「なんだ、ラトリー居たのか?全然気づかなかった」
「あんた、さっき私の方に視線を向けたじゃない!どの口がそれを言うのかしら!」
「この口だが?」
自分の口を指さし、真顔で答えるドメインに、ラトリーはため息を吐きながらそっと視線を逸らす。まともに相手をしても意味がない事を悟ったような顔だ。
「さっき、そこで出会ったんだ。ホシノ君を探している見たいだったから、連れて来たよ」
「そういう事だ。それで、結果はどうだ?」
ドメインは俺に聞いてくる。結果を知らないという事は、さっき来たばかりなのだろう。
「二勝一敗だ」
俺も言葉にドメインは小さく笑うと、口を開く。
「まぁ、そんなもんだろうな。順調じゃないか」
ドメインも俺たちが勇者である事を知って居るので、予選では手を抜いて戦う事も伝えてある。面白そうでは無かったドメインだったが、俺たちの言う事も理解出来たのだろう。否定はせず、肯定もせずっていう感じだった。あくまでも、ドメインは手を抜いて戦う事を良いとは思って居ないのだろう。そういう男だ。
「じゅん、もぐもぐ……ちょうなの、だ!」
「ヒイラギちゃんは食べるか話すかどっちかにしようね」
苦笑いを浮かべるメアリーに俺たち三人は頷いて同意した。口に色々突込みすぎで、リスのように頬が膨らんでいる。柊らしいと言えばらしい。選手は無料で食べる事が出来るので、そのせいもあって大量に口に含んでいるのだろう。
「それにしても、ドメイン君が予選に出ないのは驚いたよ。真っ先に出場すると思ってたよ」
今大会はなんとドメインは参加していないのだ。性格上真っ先に参加するように見えるドメインだったが、参加しないのには理由があった。
「俺は自分が思って居た以上に未熟だからな。それを実感すう事があったんだよ」
そう、城下町が襲撃された時に戦った男に、ドメインは手も足も出なかった。加護を使って尚、圧倒的な戦力差だったのをドメインは直に感じてしまったのだ。そして、ギルバードはドメインを圧倒した相手を圧倒した。その事が大きく関係しているのだ。
「俺はまだ神種選定に出てるような男じゃない。守るべき市民を守れないのに、参加などしてる時間は無い」
自分の未熟さを襲撃で知ったからこそ、ドメインは予選に出る事を諦めたのだった。次回は数百年後になってしまうため、ドメインが神種選定に出る事はもう出来ない。若い時期に開催したのだから、経験として積めば良いと思うのだが、ドメインの意思は固かった。あくまでも、ドメインの目標はハルバード家を継げる立派な男になる事で、神種選定を優勝する事では無いという事だ。そして、ハルバード家を継ぐにはもっと強くなる必要があると思ったのだろう。
こう思える段階で既に立派だと俺は思えるのだが、本人はそう思って居ないのだろう。本当に改めて凄い奴だと思った。俺と分からない年で、一般市民の事を考え、家を継ぐために努力を欠かさない。
こうして物語の世界に来ているからこそ、俺は自分の考えで行動しているが、きっとこの世界が現実の世界であるらなば何もせずに、毎日をのんびり過ごしているだろう。こんな立派な志を持てるような人間には断じてなっていないだろう。
きっと、強くなる努力どころか、毎日を惰性的に過ごしていたに違いない。今も花恋が居なくなるという出来事が無ければ、何も考えずに生活していただろう。
「…………」
「なんだ。俺の顔に何か付いてるか?」
ラトリーはドメインの顔を見ながらぼーっとしていた。心無しか少しだけ顔が赤い気もするが、気のせいだろうか。体長が悪いのだろうか。
「な、何も無いわ!」
しかし、直ぐにいつも通りのラトリーに戻る。そんな様子にドメインと柊は不思議そうな顔をしているが、メアリーだけが柔らかく笑っていた。何か気が付いているように見えるが……聞いても教えてくれないだろう。
「お、やっぱり出てたのか……」
そう口にするドメインの視線の先には二人の騎士が居る。この大会でも圧倒的な強さを見せている二人組の騎士だ。互いに剣士タイプだが、俺と違う所はデザイアも使えるという事だ。それもかなりの使い手である事は試合を見ているだけでも理解出来た。
間違いなく、このまま進めばあの二人組が予選を一位で抜ける事になるだろう。それほどまでに圧倒的な強さで勝利し
ているのだ。
「あの二人組を知ってるのか?」
「え、逆にホシノ君はあの二人を知らないの!?」
「え、あぁ……」
選手の名前などは見たりしたが、名前だけでは誰が誰かなど判断出来ない。当然、あの二人組の事は知らない。知って居るのは強い事ぐらいだ。
「あの二人はバトラー家の者よ。ドメインの家ほどじゃないけど、名家なのは間違いないわ」
「歴史だけ見ればそうかもしれないが、強さを見ればあちらの方が上かもしれない。直接戦った事無いが、かなりの使い手と聞く」
ドメインがそうまで言うのだから、結構な物なのだろう。同じように手を抜いている可能性があるとすれば、かなり強いのだろう。名家となれば当然のように加護も扱えるはずだ。
「まぁ、戦わない事を祈ってるよ」
「そうだな。それに越した事は無いだろう」
仮に当たれば、予選で圧倒的な強さを見せつけているため、簡単に負けやすくなる。俺たちが一方的に攻められて、後は降参するという手が使える。
ギルバード曰く、三勝すれば上位五位にまでは入れると言っていたので、信じて三勝するだけだ。仮に三勝ではキツイ場合も考えてあるが、お昼休みに何か声を掛けると言っていたので、大丈夫という事なのだろう。
「ワタル、ちょっといいか」
ドメインに手招きをされたため、俺は近づく。すると、耳元に顔を寄せて、「もし、あの二人と戦う事になれば、手を抜いている事がバレる可能性がある。一応注意した方が良い」と呟かれた。
「あぁ、ありがとう。当たる事があれば注意するよ」
ドメインの忠告を素直に聞き入れ、注意する事にした。確かに実力がある者なれば、相手の力量も自然と察知できるものなのだろう。戦闘者のアニメでも良くある展開だ。
『後、十分でお昼休みが終わります。予選に参加している皆さんは直ぐに控え場所に戻りください』
「そろそろ見たいだね。ヒイラギちゃんもホシノ君も頑張ってね!」
「まぁ、応援はしてるわ」
「頑張ってくれ」
三人の応援を受けて、俺たちは再び戦うために控えに戻る。




