11:女装
遅くなりました
大学は緩いサークルに入りましょうね
ガチの体育会とか死ねる
光夜が起きたのは1時限目の途中、魔法史の授業だ。担当教師は担当の山根。
「ふぁ~あ」
【お、おはようございます。に、兄様……ぶふ……駄目】
「えっと……何で笑ってんの?」
起き抜けで頭が働いていないのか普段ならばまずしないミス、四埜と人前で話してしまう。そもそも四埜も寝起きの光夜に話しかけたりしない。独り言で会話していたら即痛い人認定されてしまうためだ。自分の兄をそんな境遇に陥れたい訳でもない。
なのに何故話しかけたのか。それは問題ないと判断したからだ。
一部のクラスメイトも笑っているのだから。
風音などお腹を抱えて笑っている。レイも同様。
笑っていない人間はどこか恍惚とした表情で光夜を見ている。恍惚組筆頭は勿論宮崎である。
「何だよお前ら……ってゆーか山ちゃんまでこっち見て笑って…………おい、犯人誰だ」
教師まで笑っているというのははっきり言って異常だ。そこまで考えたところで気付く。足がスースーすることに。視線を落とすと案の定見慣れた黒色のズボンではなく赤色のスカート。
女装させられていた。
全員が視線を逸らしたのを見て犯人を自分で見つけることを決意する。
「そうか……ならお前か宮崎?」
「制服の提供と着せたのは俺だけど断じて化粧は俺じゃない!」
今日レイが着ている光夜の家にあった制服、それは以前宮崎が、頼む貰ってくれ。そして来てきてくれ。と土下座しながら言ってきたので仕方なく受け取ったのだ。着たことはない。だから真っ先に宮崎を疑った。光夜の纏う雰囲気が怖かった宮崎は真実の一部を話してしまう。
「着せたのはお前なんだな?後であの小学校のときのクソ女と同じ刑な」
「え、ちょ……」
「ってゆーか化粧……?」
口元を拭うと手には赤い何かがついていた。もちろん血ではない、ルージュだ。
【犯人知りたいですか?】
四埜からの提案。即座に頷く。
【後ろで大笑いしている2人です………私としては可愛い兄様が見られたからいいのですけれども】
可愛いより格好いいがいい!と心の中で呟きつつ後ろを見る。
「言い訳は?」
犯人を断定した言い方をする光夜にレイは驚きつつこう返した。
「コレを許すことを今朝の約束ってことで」
「気絶させられたのでチャラ」
「今朝のハプニングは?」
「昨日のでチャラにしてくれ」
「男のくせに女々しいわよ光夜くん!男に二言はないものでしょ!」
「よし許す」
「「「ちょろっ!?」」」
余りのちょろさに驚く面々。ちなみにその前の2つの質問の意味は後に皆に聞かれて困ることになるのだが、それは後でいいだろう。
そしてもう1人の犯人、風音は
「先生、そろそろ授業を続けて下さい」
「分かりました薙海さん」
「ふざけんな!」
皆も飽きてきたのか笑うのを止めて授業を再開した山根の方を向きノートをとる。
……見とれていた組はまだ光夜の方を見ているのだが。
「可愛い可愛い光夜ちゃん……げっへっへ」
もはやお馴染みとなった謎の女子(変態(百合))の声。今ならきっと声の主が『MA.ID.EN.』の人間だと言われても信じるだろう。むしろ濡れ衣だったとしても四埜に今すぐ捕まえて貰いたいレベルだ。
「──の乱では彼は捕まってしまったのですが──」
山根の声だけが響く教室。いくらいつもより寝たとは言え眠いことに変わりはなく……光夜は襲ってくる眠気に身を任せた。
【よく寝といてくださいね……今日は絶対に】
朝の一幕。
「皆、おはよう」
「おはようひ……め……?」
「………何故に光夜君?」
「ってゆーかお姫様だっこされてるの似合うね光夜っち」
この1週間でレイは確実にこのクラスに馴染んでいた。それはもう4月から居たと言われても何の疑いも抱かないレベルで……。
「まぁ色々あってね……」
「……はっ!まさか百合百合なことでも……」
「いや、それはないよ。というか光夜くんは男だよ……多分」
どこからかどうして私を呼んでくれなかったの?という声が聞こえていたが無視する。昨日だけで気にしたら負けだと悟ったのだ。彼女の嫌いな『MA.ID.EN.』を連想させるからというのも大きな理由であるのだが。
「多分ということは本当に何もなかったのか……」
「純粋で有名な光使いだしねー」
「その割には姫はさっきの言葉に赤面すらしなかったけどね」
やいのやいのと好き勝手言うクラスメイトに苦笑いしつつ光夜の顔を見る。
確かに最初は自分も間違えた。四埜にも感じたようにどことなく自分の母に似ているような気もしてきた。レイがそこまで考えて思い付く。
「ねぇ……光夜くんに女装させてみない?都合良く寝てるし」
「でも服がないよ?」
自分のせいで気絶していることはこの際置いておき、前提で詰まったところで風音が会話に参加する。
「そういうことなら丁度いいのがいるんだよレイさん」
「「「あぁ、そういえばいたね。社会の底辺が……」」」
「呼んだ?」
「宮崎くん?」
出て来たのは変態でおなじみの宮崎だ。男子の名前まで全員覚えていた訳ではないが光夜と一番仲が良さそうな男子生徒ということでレイも覚えていた。
「はい、宮崎です姫。以後お見知り置きを」
恭しい態度。光夜が起きていたら確実に死ねと言われていたに違いない。それくらい気持ち悪い。
「えっと、うん。こちらこそ」
愛想笑いとはこれ程便利な物だったのか、とこの時レイは悟った。
「ねぇクズ、姫にあれ貸してあげて」
「あれ?」
「女性用の制服よヘンタイ」
「姫は着てるじゃないか」
「光夜っちに着せるに決まってるでしょゴミヤザキ」
これだけの扱いを受けながらも平然と……寧ろ顔を輝かせてる宮崎を見て今度は愛想笑いすら出来ずにドン引きするレイ。その反応にも喜ぶ宮崎。
「そういうことなら……」
宮崎は自分のロッカーを漁って女性用の制服を出す。
「ツッコンだら負けツッコンだら負けツッコンだら負けツッコンだら負けツッコンだら負け……」
レイは必死で自分に言い聞かせる。何で女性用の制服持ってるの!とかツッコンだら負けだ、と。
同じような格好で何やらぶつくさ言っている人間が所々にいる。
気を逸らすために別のことを考えようとする。女性用制服といえば何故光夜が持っていたのだろうか?
「前光夜に渡しても着てくれなかったのに懲りないんだね君は……」
「ふっ」
そんな疑問は風音の言葉によって一瞬で氷解した。何故だろうか、レイは今自分が着ている制服を脱ぎたくなった。
「じゃあ光夜に着せてきなさい」
「光夜に無理矢理着せると後が面倒くさそうだけど……」
「君が見たがっていた姿が見られるんだよ?」
「行ってきます!」
風音に乗せられて着せ替えにトイレかどこかに行った宮崎。
「さて、これで責任はアイツに行ったからいいか」
「えっと……いいの?宮崎くんが社会の底辺なのは今のやり取りでよく分かったけど」
「いいのいいの。光夜を怒らせたらどうなるかアイツは知っている上での行動なんだしね……何かあっても自業自得だよ」
どこか用法が間違っている気もする四字熟語を使って恐ろしいことを言う風音。まぁあのような変態が男の娘に裁かれるシチュエーションもありか、むしろそれいい!という謎のBGMもレイの耳に入ってくる。
「光夜っちが怒るとどうなるの風音っち?」
「私も気になるー」
交渉を任せきりにしていた女子たちは再び騒ぎ出す。ちなみに山根はまだ来ない。
「無駄に精度のいいランクⅠ魔法で髪の毛がなくなるぐらいだよ。大丈夫大丈夫」
「「「………ぶっ」」」
全員坊主頭になった宮崎を想像し吹き出す。俺恰好いいだろ?という残念なオーラを持った男が丸坊主になる姿というのは割と笑えるものだ。
「小学校の時に光夜を怒らせた子が1人居たけど次の日から不登校になったのさ……ちなみに女子」
「「「………え?」」」
だとしたら自分たちも危ないんじゃ、と反射的に頭を庇う。
「今回は多分宮崎以外大丈夫だよ。アレは光夜の両親を馬鹿にしたあの子が悪かったしね……」
この台詞を聞き、どことなく気まずい雰囲気が漂う。皆光夜の両親が病気だということは知っている。人より多少詳しく知っている、知ってしまったレイなど特にだ。
「ただいま!」
その雰囲気を壊すかのように明るく入ってきた宮崎。彼の人生の中で彼の存在が一番ためになった瞬間だろう。
「おかえりー。で、光夜っちは?」
「ふっふっふ。外で山ちゃんが担いでくれている。では山根先生、どうぞ!」
クラスの姫ことレイが光夜をお姫様抱っこで連れて来たときから注目を集めていたので教室にいる全員が入り口を見る。
「まったく……何で私がこんなことを……空野君が弄られるのは良い気味だとは思いますがね」
「「「おおおおおおおおぉぉぉ」」」
教師にあるまじき山根の本音は生徒の大歓声に掻き消される。
そこに居たのは光夜だがいつもと違ってスカートを履いているのでより女子っぽくなっている。
緩みきったその寝顔はまさに眠り姫。
「………化粧が足りない」
「「「それだ!」」」
誰かが呟いた言葉に大声で反応する皆。
「化粧ならこの宮崎にお任せあれ……じゃーん」
予めロッカーから取り出しておいたのか化粧品一式。周囲の温度が一瞬で低下した。
「……あ、あれ?」
なぜこんな反応が返ってくるか分かっていないようだ。
「宮崎にやらせるより姫にやって貰おうぜ」
「そうね、姫なら素材がいい人間のメイクの仕方に詳しいだろうし」
「おーい」
「任せて!」
「あれー姫まで?」
悲観的な態度を取りつつもやはりどこか嬉しそうな宮崎。恐らく悲しいのは無視されていることではなく光夜の化粧が出来ないことに対してなのだろう。
慣れた手つきでメイクをしていくレイ。もう授業が始まっている時間なのだが山根も止めない。
「よし完成!」
「「「おぉ~」」」
素材の良さを損なわないように最低限の化粧。それを見た人間は思わず歓声をあげる。それと同時に違和感に気付く者も現れる。
「あれ?そういえばなまじ素材がいい分気付かなかったけど、今日姫っち化粧してなくない?」
「あ、本当だ」
「………今日ちょっと寝坊しちゃって」
昨日の分の化粧は光夜が落としてあげていたので今日は素っぴんのレイ。それでも現在の光夜を除けば一番可愛いという理不尽っぷり。
「くっ、これだから美少女は……」
「私だったら遅刻してでも化粧はしてくるっていうのに……」
「その理由で1回生徒指導室に連れていかれたのに……」
「あれは……うん怖いよな」
「5回くらいお世話になってる光夜が信じられないレベルで怖い」
「怖くないのか、コイツ」
「怒られた次の日は誰よりも早く登校するから怖いんじゃないか?」
「でもその次の日からは遅いよな……」
いつの間にか話がレイの化粧から恐怖の生徒指導に変わっている。このタイミングで山根がストップをかけ、授業を始めるから席に着くように言う。自分の話題じゃなくなってラッキーだと思っていたレイはこっそりと光夜を自分の前の席に座らせ、自分も席に着いた。
全員が席に着いたのを確認し山根は授業を開始する。
数分後、目を覚ました光夜の可愛らしい声で、その余りの格好に似合った声で笑う、もしくは見惚れてしまい、授業にならないことをこの時の彼らは知らない。
──キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコン
【兄様、いえ、この場合姉様の方がよろしいのでしょうか?とにかく着替えないのですか?】
「んあ?終わったのか……おいゴミヤザキ、俺の服どこやった?」
チャイムが鳴っただけでまだ授業は続いているというのに宮崎に威圧的な声を出し、服の所在を確かめる。宮崎は髪の毛を押さえつつ服を渡す。どこまでもマイペースである。
「いや、まだ授業終わってないんですけど……はぁまぁいいです。今日はここまでにします」
そんな山根の宣言に次々と光夜を讃える声があがる。全員ナイス光夜ちゃん、とちゃん付けで呼んでいたが。号令が終わり光夜は外に出た。そして男子トイレに入ろうとしたところで待ったがかかる。
【その格好で男子トイレに入るのですか?普段でさえ、男子の制服を着ているときでさえ知らない生徒には悲鳴を上げられるのにですか?】
そのことを完全に失念していた光夜は頭を掻きながら答える。休み時間なので四埜と話していても気付かれない。
「あーそっか……空き教室でも探すか、面倒くせぇ」
ちなみに四埜は光夜の裸など見慣れているので男子トイレに入るくらいどうということない。逆は想像にお任せする。
4階を探索し空き教室を探すこと2分、普段は来ない反対側の校舎に来てしまったがやっとのことで空き教室を見つけた。が、しかしそこからは怒声が聞こえてきた。
「お前のせいよ!」
光夜「何故女装させた」
作者「むしろ普段が男装だろ?」
光夜「おいふざけん──」
四埜「その通りです、たまには性別にあった服を着てください姉様」
光夜「」




