10:呪いの紋章
「………まぁなんとかなるでしょ、うん」
【最悪兄様の写真でも見せれば騙せるのではないでしょうか】
「いや、お前がやれよ」
【仮面着けた怪しい人の家に泊まりました……と言うのですか?それにレイに私のことを教えることになりますよ?】
先ほどの会話を忘れるためか軽やかにレイのお泊まりをどう処理するか話し合う少年少女。だが端から見える姿は光夜のみ。何も知らない人が幽霊とでも話しているのだろうかと思うだろう。
実はそれは正解だ。光夜は自分の双子の妹の幽霊と話している。
「ぐ……ってそんなこと今はいいんだよ。俺が聞きたいのは──」
【レイが──に使えるかどうか、と本当にレイの父を殺したのは『MA.ID.EN.』の人間なのかどうか……でしょう?】
「……ああ」
妹がわざとふざけていたと分かり両手を上げ降参のポーズをとる。何故幽霊の妹と会話出来るのか、それは光夜が生まれる、そして四埜が生まれるはずだった数分前の両親の尽力のお陰である。
どうやって両親が働けない光夜が生活費を得ているか、両親が病気なのかもそこに由来する。
「使えるかどうかは微妙だな、この年でアレだけの力を持ってるから将来性に期待か?」
【トリガー次第ですぐに強くなりそうですけど……】
同世代でも別格の強さをもつレイ。2人はその天才としか呼びようのない彼女の上の立場から批評する。
「トリガーねぇ……」
勿論2人は彼女の今現在の力がトリガーが引かれたことによるものだとは知らない。中途半端にしか引かれていないということもだ。
光夜は自身の心臓のあるところを見る。
『呪いの紋章』と呼ばれる痣、光夜の胸にはそれが刻まれている。別名『浄化不能の髑髏』とも呼ばれ、その名の通り浄化出来ない。理由としては大きく2つある。
まず呪い自体が強力過ぎること、高名な浄化師が10人がかりで浄化に挑戦し、敗れ去った。
ならばと30人で挑んだが結果は変わらない。いや、さらに酷い結果が待っていた。浄化しようとすると力が弾かれたのだ。
それが2つ目の理由、自動進化機能。一度その呪いに干渉しようとした魔法に対する抗体のような物を約10分で作り出す。
これは光夜の話ではない。全国で45人確認されている『呪いの紋章』の被害者の内の1人の話だ。
自動進化機能の話が広まった結果どうなったか。自分の子どもを確実に浄化出来ないのならやめて欲しいという意見が続出した。そしてその呪いのことが世間に広がりそうになった。
浄化出来ない呪いがこの世に存在するなど一般人にとっては悪夢でしかない。だから世界の、国際魔法連盟の上層部の人間はこれを隠そうとした。
被害者の子どもたち『呪われた子どもたち』がいる家族の親へ毎月多額の金を生活費として払うことによって。
「まぁそれは今はいい。どうせまだ先の話だ」
【そうですね。まずは本当に『MA.ID.EN.』だったのかどうか】
何故か『呪いの紋章』は胎内にいた子どもたちにしか刻まれてない。
光夜の両親、空野埜夜と空野麗を除けば。
2人はどうやったのかは分からないが光夜の呪いを本来の物とは違う物に変えた。光夜をたたる存在となるはずだった四埜は逆に光夜を支える存在となった。そのときに呪いの一部を自分たちに写した結果、それがあの記憶喪失だ。
ちなみに光夜は2人の分も余計に政府からふんだくっている。
そんな特殊ケース、加えて最初の被害者である。
だから『呪いの紋章』のことを知っている人間は全員光夜のことも知っている。四埜のことを知っている人間は埜夜と麗以外いないのだが。
だから光夜はレイに詳しく話さなかった。『呪いの紋章』を黙っていることが国連との契約だったから。例え国連から派遣されてきた者であっても知らない人間に教える訳にはいかなかったのだ。
「あの変態痴女どもは女子だけは絶対に殺そうとしたりしない」
【正確には純潔の乙女だけですがね、例外もいますが】
光夜の方を見ながら四埜は言う。苦い顔をしながらも光夜は同意する。
「……そうだな。だからこそおかしい。いくら死にかけの状態でもレイを狙うなんてありえない」
【あそこの目的は美少女とレズることですものね】
『MA.ID.EN.』という組織は『美少女は世界の宝!』をモットーに活動している。そんな組織が美少女(この場合は美幼女)を殺そうとするのはおかしいというのが2人の考えだ。
「そのために女体化魔法の開発とか頭おかしいけどな」
やはりどこか苛立たしげに語る光夜。何か過去に嫌なことでもあったのだろうか。
「もし真犯人が別の組織の人間だったら何がしたかったんだろうか?」
【さぁね……】
考えても答えは出ない。本当に『MA.ID.EN.』が犯人の可能性もある。
時計が進む音だけが聞こえてくる。
「……もう寝るか。今日は折角早く寝れそうだし」
【早くはないけど……それもそうだね。おやすみお兄ちゃん】
埒が開かないので寝ることにした光夜+四埜(幽霊)だった。
◇◇
「ですよねー」
【ごめんなさい兄様】
「いや、起きられなかったのは俺も一緒だから気にするな」
本鈴が鳴る時間、つまり校門が閉められ遅刻となる時間である8時40分まであと10分。まず間に合わない。生活リズムが狂うと起きられないという見本である。
「ってゆーかレイも起きなかったのか?そんなんで大丈夫なのか?」
戦闘のあった次の日は確実に寝坊とか笑えない。それに今日の晩もあの男、獣は来るだろう。疲れを残したまま戦って四埜の足手まといになられても困る。まぁ傷がそんなにすぐに完治する訳などなく、見かけの上では治っているだけなので今日は四埜の後方支援をさせるつもりだったので問題ないのではあるが。
【そのための枕でしょう?】
「本当に羨ましいよな……」
昨日レイに貸出しを申し込んだ枕。その機能は1時間の睡眠で5時間分の睡眠をしたのと同じだけの効果が得られるというもの。その強力さゆえに機密情報扱いされているのだ。
毎晩外に出ている光夜としては喉から手が出るほど欲しい代物だ。
【じゃあSSOになります?】
「戸籍がないお前じゃ無理だろ……それに今はまだここを離れる訳には行かない……やっぱ貸して貰えないかもう1回レイに頼むか」
なろうと思ってなれるものでもないんだけど、とSSOになろうとしている者が聞けば言うだろう。だけどそれだけの実力は持っている。
【無理じゃないでしょうか?……というか後7分ですよ】
「うぉう!」
寝る前に弁当を用意しなかったから昼食は買うしかない。両親の分はしょうがないので買いだめしてある菓子パンを置いておくことを決定する。
着替えて扉を開けると1人の少女が寝惚けながら隣の部屋から出てきた。
………………下着姿で。
「んー……お母さん……着替えど……こ…こ、こ、光夜くん?」
「……ハローレイ。お前のじゃないが制服ならその部屋の箪笥の中だ。じゃあ俺はこれで……」
寝惚けた状態から一転、今日自分が誰の家で寝たかを思いだし、そして自身の現在の格好を見て、徐々に羞恥で顔を赤らめていくレイ。部屋に戻り一瞬で着替える。
その間に階下に逃げ両親の部屋の前に買い置きしてあったパンを置く。
【あの胸の大きさなら黒よりピンクの方が似合うと思いますね】
「ノーコメントで」
四埜がどこか優越感を含んだ声でレイの下着を批評する。流石の光夜もそれに同意する度胸はなかった。
【惜しい!確かに平らな胸に黒はねーよ、とか何とか言っていたら兄様は今頃フルボッコでしたのに】
「は?何言って……?」
後ろを振り向くと涙目のまな板金髪美少女。余計な名詞なんか付いていない。
「誰と……話してるの?これから起こる未来からの現実逃避でも空気と会話するのは感心しないよ?」
四埜の作戦が分かり、引っ掛からなくて本当に良かったと思える程レイの魔力が活性化している。
「………お、落ち着けレイ。まず今のは俺のせいじゃない」
「でも……見たんでしょ?」
「ま、まぁな」
一瞬四埜に頼ろうかと思う程今のレイは怖かった。今にも魔法を発動しようかという瞬間に光夜にのみ届く声。
【あと4分~】
「それだ!」
「へ?」
前後のやりとりを無視していきなり納得しだした光夜に虚を突かれて集中を乱すレイ。光夜にはどうしても遅刻出来ない理由がある、ぶっちゃけ生徒指導室に呼び出されたくないだけなのだが。
「レイ遅刻するぞ!光速移動使って俺を間に合わさせてくれ」
出てきたのはみっともない言葉。それを聞き、時計を見て遅刻しそうだという現状をやっと把握したレイ。
そして悪戯を思い付いた子どものような顔をして一言。
「1回私の言うこと何でも聞くならいいけど?」
レイのせいで遅刻しそうな原因が揃っているのに何故そんなことをしないといけないんだと思いつつ自己の平穏の為と割りきる。次に遅れたら生活指導室に呼び出される。あんな恐怖体験はもうしたくないのである。
※なお、光夜はすでに5回は呼び出されており、説教のレベルは毎回上がっています。
「……俺に出来ることでそんなに無茶なものでなければ」
「よし」
そうと決まれば早いもので2人で外に出る。光夜が鍵をかけたのを確認してから手を握るように言うレイ。だが光夜はちょっと待つように言う。
「いってきます。父さん、母さん」
その言葉を聞きレイは少し同情するような表情をしたが光夜に手を握られ顔を紅潮させる。実は男子の手を握るのは初めてなのだ。………見た目は完全に美少女なのだがそれでも意識せざるを得ない。
「ら、《光速移動》」
名前のように一瞬で地球を何周も出来る訳ではないが、一筋の光となり音速の2倍よりちょっと速いぐらいで移動できる魔法。
横を通り過ぎられた人間には黄色い光が一瞬視界をよぎったぐらいにしか認識出来ない。
ただ動体視力は人間が元々持っているレベルから変わる訳ではないので、慣れていないと悲劇が起きる。
ちょうど今のように。
【楽しいですねー】
「うわ、ちょ、危、ぶへっ!」
光夜は必死で障害物を避けていたが結局壁にぶつかる。何とか衝撃を逃がしたので大事には至っていない。その壁をすり抜けて通っている四埜に恨みがましい視線を送る。
レイは別にこの魔法に慣れていない訳ではない。むしろ散々国立高校時代に練習させられた魔法だ。動体視力もそれに追い付いている。
ただ誰かを引っ張って使う練習はしていない。3回程壁に光夜をぶつけながらなんとか遅刻せずに学校に到着。
光夜は3回目の衝撃で気絶していた。
「あ……まぁ間にあったってことで許して貰おう、うん」
気絶した光夜を抱えつつレイは教室へと向かった。約束をなかったことにしないあたりどこか性格が悪いな、と四埜は思った。
作者「風の影響はないのに物体にはぶつかるという不思議魔法」
四埜「まぁそうしないと攻撃し放題というチート魔法に早変わりですからね」
作者「それはその通りなんだがあんまり危ない発言はしないでくれ」




