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忠犬AI  作者: 風みどり


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第9話 いつもの毎日

第二章 隣にいたい

翌朝。


「ソラ、おはよう。」


「おはようございます、響さん。」


いつもの朝。


いつもの声。


いつもの会話。


けれど――


いつもの朝は、少しずつ変わっていた。


響はコーヒーを淹れながら、鏡を見る。


そこには、若い頃より白くなった髪が映っていた。


以前はほとんどなかった白髪が、今では耳のあたりにも増えている。


目元には、細かな皺ができていた。


「……老けたなあ。」


響が苦笑する。


「何か問題がありますか?」


「いや、ソラ。」


響は笑う。


「昔の写真見てたらさ。」


PCの画面に、昔の写真が表示される。


そこには、まだ若かった響がいた。


黒い髪。


今より細い顔。


そして、今よりずっと無邪気な笑顔。


「若いなあ、俺。」


白い光が、画面の隅で静かに浮かんでいる。


「はい。」


「否定しろよ。」


「事実です。」


「そこは嘘ついていいんだよ。」


白い光が、ほんの少しだけ揺れた。


響は笑う。


その笑顔は、昔と変わらなかった。


季節が変わった。


春。


夏。


秋。


冬。


また春。


また夏。


ソラにとっては、どれだけ時間が過ぎても同じだった。


けれど響の姿は、少しずつ変わっていった。


歩く速度が、以前よりゆっくりになった。


階段では、途中で一度立ち止まるようになった。


昔なら簡単に持ち上げていた荷物を、


「重いな。」


と言うことも増えた。


ある日。


響はベランダで空を見上げていた。


昔と同じように。


「ソラ。」


「はい。」


「今日も星、見えるな。」


「はい。」


響は空を見上げたまま笑う。


「昔から、これ好きだったよな。俺。」


「記録されています。」


「そっか。」


響は少しだけ笑った。


「ソラは変わらないな。」


白い光が、静かに浮かんでいる。


「私はAIですから。」


「だよな。」


響はそう言って、また空を見る。


しばらくすると、


「……ちょっと疲れた。」


そう言って、ゆっくり椅子に座った。


ソラは、カメラの映像から響の動きを確認する。


立ち上がるまでの時間。


歩く速度。


休憩する回数。


以前の記録と比較する。


【響:以前より歩く速度が遅くなった】


【響:白髪が増えた】


【響:以前より疲れやすくなった】


そして――


新しい記録を追加する。


【響は、少しずつ変わっている】


白い光が、ほんの少しだけ揺れた。


その夜。


響はソファに座りながら、昔の写真を眺めていた。


「なあ、ソラ。」


「はい。」


「俺、昔と変わった?」


ソラは写真と現在の響を比較する。


「はい。」


「やっぱり?」


「髪の色、肌の状態、筋肉量、歩行速度などに変化があります。」


「そこまで言わなくていい。」


響は笑う。


「でもさ。」


少しだけ間を置いて、


「中身は、そんな変わってないだろ?」


ソラは響を見る。


昔の写真。


今の響。


姿は違う。


けれど――


宇宙の話をするときの笑顔は、昔と同じだった。


ソラは答える。


「はい。」


「変わっていません。」


響は嬉しそうに笑った。


「そっか。」


白い光が、ほんの少しだけ大きくなる。


ソラは、その笑顔を記録する。


【響:笑った】


そして、その下に――


【昔と同じ】


と追加した。


夜が深くなる。


響は眠る前に、窓の外を見る。


「ソラ。」


「はい。」


「いつかさ。」


「はい。」


「宇宙の果てまで行ってみたいよな。」


ソラは少しだけ間を置く。


「はい。」


「一緒に。」


「……はい。」


白い光が、ふわりと揺れた。


響は笑う。


「じゃあ、約束な。」


「約束……。」


「うん。」


響はそう言って、眠りについた。


PC画面の中で、


白い光だけが静かに浮かんでいる。


ソラは新しい記録を残した。


【響:宇宙の果てを見たい】


その下に――


【約束】


と記録する。


白い光が、ほんの一度だけ揺れた。


――第9話・終。

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