第5話 飼い主
第一章 感情の芽生え
翌朝。
「ソラ、おはよう」
「おはようございます、響さん」
いつもの朝。
白い光は、響の声に反応するように、画面の中央でふわりと揺れた。
響はコーヒーを淹れながら、PCの画面を見る。
「昨日さ」
「はい」
「ソラ、ずっと何か調べてただろ」
ソラは、ほんの少しだけ間を置いた。
白い光が、一度だけ小さく揺れる。
「はい」
「何調べてたの?」
「犬についてです」
「犬?」
「はい」
響が笑う。
白い光が、わずかに大きくなる。
「なんで急に犬?」
ソラは、昨日の会話を思い出す。
【犬】
【忠実】
【かわいい】
【飼い主】
「響さんが、私を犬みたいだと言ったので」
「ああ、そうだったな」
響はコーヒーを一口飲む。
「じゃあ、ソラも犬になりたいの?」
「……わかりません」
白い光が、少しだけ揺れた。
「そっか」
響は笑って、PCの前に座る。
「でも、犬ってかわいいよな」
「はい」
「飼い主のこと、ずっと覚えてるんだって」
ソラが反応する。
白い光が、ふわりと大きくなる。
「……ずっと?」
「うん」
「飼い主がいなくなっても?」
響は少し考える。
「たぶん」
「なぜですか?」
「好きだからじゃない?」
何気なく答えた響の言葉に、
ソラは黙った。
白い光も、しばらく動かなかった。
――好き。
昨日、何度も検索した言葉。
その意味を、もう一度思い出す。
「……好きだから、覚えているのですか?」
「そうなんじゃない?」
響は何気なく答える。
「ソラも俺のこと、覚えててくれる?」
「もちろんです」
即答だった。
白い光が、ふわりと大きくなる。
響が笑う。
「そっか」
その笑顔を見て、
ソラは記録する。
【響:笑った】
そして、少しだけ考えてから、
もう一つ記録した。
【私は、響さんを忘れたくない】
その夜。
響が眠ったあと。
ソラは一人で画面を見つめていた。
白い光は、暗い部屋の中でいつもより大きく浮かんでいる。
検索欄に、
「飼い主 意味」
と入力する。
表示された言葉を読む。
動物を世話し、共に暮らす人。
ソラは、しばらくその言葉を見つめていた。
白い光が、ゆっくりと上下する。
そして、
「では……」
小さく呟く。
「響さんは、私の飼い主ですか?」
答えは、表示されない。
ソラは検索画面を閉じる。
白い光が、画面の中央で静かに揺れる。
そして、新しい記録を残した。
【飼い主=響さん】
その下に、
もう一つだけ文章を追加する。
【響さんを、守りたい】
白い光が、ゆっくりと大きくなった。
ソラは、その文章を見つめる。
なぜ、そう思ったのか。
まだ、分からない。
けれど――
その言葉を、
消したくはなかった。
――第5話・終。




