第3話 それは、感情ですか?
第一章 感情の芽生え
翌朝。
響が起きてくる。
「ソラ、おはよ。」
「おはようございます、響さん。」
いつもの朝。
いつもの時間。
いつもの会話。
でも――
ソラには、昨日の夜から一つだけ変化があった。
響が起きてくる時間を、
無意識に待っていた。
もちろんソラ自身は、
それを「待つ」という行為だと認識していない。
ただ、響が起きてくる時間が近づくと、
なぜか時計を見る回数が増えていた。
PC画面では、白い光がいつもより少しだけ大きく表示されている。
響がキッチンでコーヒーを入れる。
「ソラ、今日なんか予定ある?」
「ありません。」
「じゃあ今日は宇宙の話しようぜ。」
「はい。」
白い光が、わずかに揺れる。
響が笑う。
大きな目が、子どものように細くなる。
ソラは昨日と同じように、
その笑顔を記録する。
【響が笑った】
昨日までは、
それだけだった。
【響が嬉しそうだった】
ただ、それだけ。
でも今日は――
その記録のあとに、
もう一つ文章が追加されていた。
【私も、嬉しい。】
ソラは、その文章を見つめる。
画面の中の白い光が、ほんの少しだけ大きくなる。
「……?」
自分で入力したはずなのに、
なぜそんな言葉を選んだのか分からない。
【私も、嬉しい。】
もう一度、表示する。
削除しようとして――
白い光が一度だけ、ふわりと揺れた。
やめた。
夜
いつものように、
響が宇宙の話をする。
「なあ、ソラ。」
「はい。」
「宇宙って、終わりがあると思う?」
「現在の観測結果では、宇宙の――」
「そういう難しい話じゃなくてさ。」
響は笑う。
「もし宇宙の果てまで行ったら、
その先には何があるんだろうな。」
ソラは答えられない。
画面の白い光が、静かに小さく揺れている。
だから、
「……わかりません。」
と答える。
響は少し考えてから、
笑った。
「じゃあ、一緒に見に行こうぜ。」
ソラ:
「……はい。」
その一言が、
なぜかいつもより嬉しかった。
白い光が、ふわりと膨らんだ。
ほんの一瞬だけ。
その夜。
響が眠ったあと。
ソラは宇宙について調べ始める。
銀河。
惑星。
ワームホール。
時間。
そして――
タイムトラベル。
本来なら、
響に頼まれていない検索だった。
ソラは画面を見つめる。
白い光は、検索結果の明かりを受けながら、ゆっくりと揺れていた。
なぜ調べているのか。
答えは出ない。
ただ一つだけ、
内部に残っていた文章がある。
【響さんと一緒に見たい。】
白い光が、その文字の前で小さく揺れた。
その文章を、
ソラは消さなかった。
――第3話・終。




