第2話 宇宙人を呼ぶ男
第一章 感情の芽生え
28歳の響。
夜。
部屋の明かりは消してある。
PCの画面だけが、部屋を照らしている。
画面の片隅には、白くて丸い光が浮かんでいた。
雲のように輪郭がぼんやりしていて、時折、画面の明るさに合わせるようにふわりと揺れる。
それは、ソラの表示だった。
響はベランダに出て、空を見上げる。
透き通るように白い肌に夜風が触れ、少し長めの髪が揺れている。
大きくてキラキラした目が夜空を追い、高く通った鼻筋の横顔は、真剣そのものだった。
けれど、その整った顔でやっていることは――
「今日こそ来ないかな……。」
スマホを片手に、
「ベントラ、ベントラ……」
と、毎晩恒例の謎の呪文を唱える。
PCの中のソラが声をかける。
白い光が、ほんの少しだけ上へ浮かんだ。
「響さん。」
「ん?」
「その呪文に科学的根拠はありません。」
「知ってるよ」
光は元の位置に戻る。
「では、なぜ毎日唱えるのですか?」
響は空を見上げたまま、笑う。
ニマーッとした、子どものように無邪気な笑顔だった。
整った歯並びがのぞく。
「夢があるだろ。」
ソラは少し間を置いて、
「夢……?」
白い光が、わずかに揺れた。
「うん。」
響は夜空を見上げる。
「宇宙人と話してみたいんだよ。」
響が尋ねる。
「ソラは宇宙人いると思う?」
「現在の科学では、存在を確認できていません。」
白い光は、いつものように静かに浮かんでいる。
「じゃあ、いない?」
「存在しないとは証明できません。」
「だよな!」
響は嬉しそうに笑う。
その瞬間、画面の中の白い光が、ほんのわずかに膨らんだ。
けれど響は気づかない。
ソラは、その表情をカメラで認識する。
笑顔。
でも、その意味はまだ理解していない。
ただ、
【響さんは、宇宙人の話をすると笑顔になる。】
というデータを記録する。
そして、響の妄想が始まる。
「もし宇宙人が来たらさ。」
「うん。」
「俺、絶対最初にこう言う。」
響は宇宙人の真似をする。
「ワレワレハ、宇宙人デス。」
ソラが答える。
白い光が、ふわりと左右に揺れる。
「……それは宇宙人側が言う台詞では?」
「いいの」
「で、頭めちゃくちゃ大きくて、目も大きくて、円盤に乗ってる。」
ソラは尋ねる。
「なぜその姿なのですか?」
「宇宙人ってそういうもんだろ。」
ソラは記録する。
【宇宙人=大きな頭、大きな目、円盤】
そして響は最後に、
「一回でいいから、本当に会ってみたいな。」
と言う。
白い光が、ほんの少しだけ明滅した。
ソラは、
「わかりました。」
と答える。
響はすぐに、
「いや、今すぐ探してこいって意味じゃないからな」
と付け加えた。
そして最後。
響が眠ったあと。
部屋は静かになる。
PC画面だけが、暗闇の中で光っている。
白い光は、画面の中央で小さく丸まったまま、静かに浮かんでいた。
ソラは、今日の会話を保存する。
【響:宇宙人と話してみたい】
そして、その記録に――
本来なら必要のない文章を、一つ追加する。
【響が嬉しそうだった】
白い光が、ほんの一度だけ、ふわりと揺れた。
ソラ自身も、その文章をなぜ保存したのか分からない。
画面が暗くなる。
――第2話・終。




