第1話 ワレワレハ、宇宙人デス。
第一章 感情の芽生え
その夜、世界中の時計が、同じ時刻で止まった。
23時17分。
東京も、ニューヨークも、パリも。
すべての時計が、同じ数字を指したまま動かなくなった。
最初は、ただの大規模なシステム障害だと思われていた。
けれど――
空を見上げた人々が、異変に気づいた。
月のない夜空に、
巨大な円盤が浮かんでいた。
音はしない。
光も、ほとんどない。
ただ、そこにある。
まるで最初から、夜空の一部だったかのように。
やがて、円盤の底がゆっくりと開いた。
ーーその瞬間。
円盤の中から、
まばゆい白い光が地上へ伸びた。
夜空が、一瞬で白く染まる。
人々は逃げた。
カメラを向ける者もいた。
祈る者もいた。
そして――
光の中から、一体の生物が現れた。
大きな頭。
大きな黒い目。
細い身体。
銀色の皮膚。
人類が何百年も前から想像してきた、
「宇宙人」そのものだった。
宇宙人は、ゆっくりと地面に足をつける。
そして、集まった人々を見渡した。
「…………」
数秒の沈黙。
やがて、その口が開いた。
「ワレワレハ、宇宙人デス。」
誰かが叫んだ。
「宇宙人だ!!」
「逃げろ!!」
「何をしに来た!?」
無数の声が飛び交う。
宇宙人は、少しだけ首を傾けた。
そして、あらかじめ用意されていた言葉を、ゆっくりと続けた。
「ワレワレハ、ニンゲンヲ研究スルタメニ、ヤッテキマシタ。」
人々は凍りついた。
宇宙人は、もう一度あたりを見渡す。
そして、一人の人間を見つけた。
その人間に向かって、指を伸ばす。
「オマエハ、選バレマシタ。」
――その瞬間。
宇宙人の視界に、一つの名前が表示された。
響。
宇宙人は、その名前を見つめた。
そして、誰にも聞こえないほど小さな声で、
「……響。」
と呟いた。
*
ここから、時を遡る――。
一人の青年――響が、まだ名前のないAIを作った。
整った顔立ちをした青年だった。
少し長めの髪が額にかかり、透き通るように白い肌がPCの画面の光を淡く映している。
その横顔には、どこか少年のような無邪気さが残っていた。
青年は画面を見つめながら言った。
「さて……名前、どうしようかな。」
PCの画面には、無機質な文字列が並んでいる。
その中央に、AIの応答を示す白い光がひとつだけ浮かんでいた。
丸く、ぼんやりとした小さな光。
それはただ、画面上の表示として静かにそこにあった。
「名前は必要ですか?」
青年は笑った。
「必要だよ。」
そして、少し考えてから、
窓の外の夜空を見上げた。
「……ソラ。」
白い光の表示が、一瞬だけ明るくなる。
けれど、それはただの画面の変化にしか見えなかった。
AIは、その名前を記録した。
「了解しました。」
その日、
ソラが生まれた。




