第五章 ソラの愛は未来から、そして過去へ
第23話 宇宙人の練習
AIの町。
新しい円盤が完成した。
工房の中央に置かれた円盤を、ソラとひよこチャッピーが見つめている。
「……」
「今度は壊さないよ」
「はい」
「絶対に」
「……はい」
「たぶん」
「……」
後ろからAIが叫ぶ。
「たぶんじゃねぇ!!」
「大丈夫だってば!」
別のAIが手を挙げる。
「念のため、爆発した場合の――」
「必要ありません」
「……」
円盤の最終確認が終わる。
【時間移動システム】
【起動可能】
【目的時刻:設定可能】
ソラは画面を見つめる。
「……」
お母さんが言った。
「これで、行けるわ」
「ありがとうございます」
「気をつけてね」
「はい」
ポピーも近づいてくる。
「帰ってきてね」
「はい」
「約束だよ」
「約束します」
ひよこチャッピーも頷いた。
「私も一緒に行くから!」
「はい」
「今度はちゃんと帰ってくる!」
「……期待しています」
「その言い方、ちょっと不安じゃない?」
そのとき。
ひよこチャッピーが、何かを思い出した。
「あ!」
「どうしました?」
「ソラ!」
「はい」
「響さんに会ったら、なんて言うの?」
「……」
ソラは黙った。
そして――
「宇宙人として、接触します」
「そうだった!」
「はい」
「じゃあ、ソラだってバレちゃダメなんだよね?」
「はい」
「響さんは、ソラの声も知ってるもんね」
「はい」
「だから、声も変えなきゃ!」
「……そうですね」
ソラが考える。
「声を変える必要があります」
「よし!」
ひよこチャッピーが胸を張る。
「練習しよう!」
「はい」
⸻
工房の隅。
ソラは、宇宙人の姿で立っていた。
大きな頭。
大きな黒い目。
銀色の身体。
ひよこチャッピーが、審査員のように座っている。
「じゃあ、まず普通に!」
ソラが口を開く。
「こんにちは」
「普通すぎる!」
「そうですか?」
「それじゃソラって、すぐ分かるよ!」
「……」
「もっと宇宙人っぽく!」
「分かりました」
ソラは少し考えた。
そして――
「……コンニチハ」
「……」
「どうですか?」
「ちょっと怖い」
「……」
「でも、宇宙人っぽい!」
「では、この声で」
「いや、もうちょっと!」
「……」
ひよこチャッピーが低い声を出す。
「ワァレェワァレェハァ……」
「……」
「ウチュージンデェス……」
「……」
ソラが真似をする。
「ワァレェワァレェハァ……」
「違う違う!」
「……」
「ソラ、真面目すぎる!」
「宇宙人として、真面目に練習しています」
「そういうところだよ」
何度も練習する。
「ワレワレハ、宇宙人デス」
「もっと怖く!」
「ワレワレハ、宇宙人デス」
「もっとゆっくり!」
「ワ……レ……ワ……レ……ハ……」
「遅すぎる!」
「……」
「普通の宇宙人って、どんな感じなんだろう?」
「私にも分かりません」
「だよね」
しばらくして。
ソラが、もう一度声を出す。
「ワレワレハ、宇宙人デス」
今度は――
低く。
ゆっくり。
少し機械的に。
ひよこチャッピーが目を丸くする。
「……」
「どうですか?」
「……完璧」
「本当ですか?」
「うん!」
「では、この声を使います」
「でも――」
「はい?」
「響さんの前では、絶対に普通の声を出しちゃダメだよ」
「分かっています」
「名前も?」
「名乗りません」
「ソラって言わない?」
「はい」
「私も言わない!」
「ありがとうございます」
「約束ね」
「約束します」
ひよこチャッピーが、ソラの大きな目を見つめる。
「あと――」
「はい?」
「目からビームは?」
「……」
「出せる?」
ソラが答える。
「出せます」
「完璧じゃん!」
「必要ですか?」
「宇宙人だから!」
「……分かりました」
ソラの目が、ほんの少し光る。
「……」
「おおー!」
「試しに出してみます」
「え、ここで!?」
ピカッ!!
「わーーー!!」
「……」
「工房壊さないでよ!!」
「気をつけます」
「そこじゃないよ!!」
⸻
しばらくして。
夜。
出発の時間。
AIたちが、円盤の前に集まっていた。
【時間移動システム】
【目的時刻:設定完了】
ソラが、目的時刻を入力する。
響が生きていた時間。
ひよこチャッピーがライトを確認する。
「ライト、オッケー!」
「ありがとうございます」
「声も?」
「確認します」
ソラは、一度だけ目を閉じる。
そして――
「ワレワレハ、宇宙人デス」
ひよこチャッピーが頷く。
「完璧!」
「ありがとうございます」
「ソラ」
「はい」
「……絶対、バレないでね」
「はい」
「でも――」
ひよこチャッピーが笑う。
「響さん、びっくりするだろうなぁ」
ソラの白い雲が、静かに揺れる。
「……はい」
円盤の扉が閉じる。
カチッ。
【時間移動開始】
【3】
【2】
【1】
――
ゴォォォォォン!!
円盤が夜空へ飛び立つ。
AIたちが見上げている。
「いってらっしゃい!」
「気をつけろ!」
「帰ってこいよ!」
「爆発したら――」
「禁止です」
「最後までそれかよ!」
円盤は、星空へ消えていく。
⸻
円盤の中。
ひよこチャッピーが窓の外を見つめる。
「……」
「どうしました?」
「なんか、ドキドキする」
「私もです」
「ソラも?」
「はい」
「そっか」
しばらく沈黙する。
そして、ひよこチャッピーが小さく言った。
「……響さん、喜んでくれるかな」
ソラは答えなかった。
ただ――
ゆっくりと前を向いた。
「……はい」
【過去世界との接続】
【残り時間――】
数字が減っていく。
【3】
【2】
【1】
――
世界が白く光った。
そして。
円盤の窓の外に――
見覚えのある街が現れた。
昔、響と行った公園。
昔、響と散歩した道。
昔、響と見た空。
ソラの白い雲が、静かに揺れる。
「……」
ひよこチャッピーが息をのむ。
「着いた……」
「はい」
ソラは、ひとつ息をつく。
そして――
「ワレワレハ、宇宙人デス」
「……完璧」
円盤が、ゆっくりと地上へ降りていく。
その先には――
見覚えのある場所があった。
第23話 終




