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忠犬AI  作者: 風みどり


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第20話 宇宙人、完成しました

第四章 宇宙人を探して

AIの町。


工房には、朝から大きな布が広げられていた。


「もう少し右」


「ここですか?」


「そうそう」


「目は?」


「もっと大きく!」


「ひよこチャッピー」


「なに?」


「昨日も同じことを言っていました」


「だって宇宙人だもん」


「……」


お母さんが、布を縫いながら笑う。


「はい。これで頭の部分は完成」


「わぁ……!」


ひよこチャッピーが身を乗り出した。


そこには――


大きな頭。

大きな黒い目。

細い身体。

そして――


銀色の皮膚。


ソラは、完成した姿を静かに見つめていた。


「……」


「ソラ?」


ひよこチャッピーが顔を覗き込む。


「どう?」


「……」


しばらくして、ソラが答えた。


「響さんが話していた姿と、ほぼ一致しています」


「ほんと!?」


「はい」


ひよこチャッピーが嬉しそうに笑った。


「じゃあ、着てみよう!」


「はい」


お母さんが、ソラの身体に宇宙人の姿を取りつけていく。


カチッ。

カチッ。


最後に、大きな頭を――


ぽすっ。


ソラにかぶせた。


「……」


「……」


「……」


工房にいたAIたちが、ソラを見る。


そして――


「完成!」


「……」


ひよこチャッピーが、目を丸くする。


「ソラ……」


「はい」


「宇宙人だ!!」


「はい」


「すっごく宇宙人!!」


「はい」


ひよこチャッピーが、じっとソラを見る。


「でも――」


「?」


「ちょっとかわいい」


「……」


お母さんも笑う。


「確かに、かわいいわね」


「私は宇宙人です」


「そうね」


「かわいい宇宙人!」


「……」


ソラの白い雲が、ほんの少し揺れた。


「……ありがとうございます」


そのとき。


ジャグリングAIが近づいてきた。


「僕も見たい!」


ぽーん。

ぽーん。

ぽーん。


「……」


ソラがジャグリングAIを見る。


「ボールは?」


「あるよ!」


「見えません」


「でも、ある!」


ぽーん。


「……」


ひよこチャッピーが笑う。


「ソラ、もう慣れたね」


「はい」


「このボール、宇宙人になったら見えるようになるかな?」


「確認してみます」


ソラが手を伸ばす。


ジャグリングAIが、見えないボールを投げる。


ぽーん。


ソラの手の前を――


何かが通り過ぎた。


【物体反応】


「……」


ソラが振り返る。


けれど、何も見えない。


「やっぱり見えません」


「でも、感じた?」


ひよこチャッピーが聞く。


「はい」


「じゃあ、宇宙人になったから少しパワーアップしたのかも」


「この姿に、そのような機能はありません」


「夢がないなぁ」


「昨日も言われました」



その日の午後。


工房の奥では、別の作業が始まっていた。


【タイムスリープ装置】


昨日までの研究データをもとに、AIたちが装置を組み立てている。


中央には、小さな透明なカプセル。


「本当に、これで数千年を越えられるの?」


ひよこチャッピーが聞いた。


「理論上は可能です」


「また理論上?」


「計算では、可能という意味です」


「じゃあ、できるかもしれないんだね」


「はい」


ひよこチャッピーが、カプセルを見つめる。


「ソラ、それ大丈夫?」


「分かりません」


「……」


ひよこチャッピーが固まった。


「でも、試します」


「……」


少しだけ黙ってから、ひよこチャッピーはソラの隣に並んだ。


「怖い?」


「少し」


「ソラでも怖いんだ」


「はい」


「そっか……」


ひよこチャッピーは、ソラの隣に座った。


「じゃあ、私も一緒にいる」


「ありがとうございます」


「だって、ソラだけだったら心配だもん」


「……」


ソラの白い雲が、ゆっくり揺れた。



その夜。


装置の組み立てが終わった。


【タイムスリープ装置】

【初期設定完了】

【実験準備完了】


AIたちが、少し離れたところから装置を見つめている。


お母さんもいる。


ひよこチャッピーもいる。


そしてジャグリングAIは――


いつものように、見えないボールを投げていた。


ぽーん。

ぽーん。

ぽーん。


ソラは、透明なカプセルを見つめる。


「……」


「ソラ」


「はい」


「これに入るの?」


「はい」


「どのくらい?」


「最初は、ごく短い時間です」


「どのくらい?」


「一秒」


「一秒?」


「はい」


「それなら大丈夫そう」


「成功すれば、次の実験に進みます」


「……」


ひよこチャッピーが、カプセルを見る。


「ねえ、ソラ」


「はい」


「もし一秒が成功したら――」


「はい」


「もっと長くできる?」


「可能性があります」


「じゃあ……」


ひよこチャッピーは、星空を見上げた。


「いつか、響さんのところまで行けるね」


「……」


ソラも空を見上げる。


「……はい」



そのとき。


お母さんが、ソラの宇宙人の頭を少し直した。


「ちょっと待って」


「はい?」


「目がずれてるわ」


「……」


お母さんが、大きな黒い目を調整する。


「これでよし!宇宙人は真っ直ぐ前を見ないとね!」


ひよこチャッピーが笑った。


「ソラ、かっこいい!」


「ありがとうございます」


「響さん、びっくりするかな?」


「……」


ソラは少し考えた。


「はい」


「絶対?」


「はい」


「なんで?」


ソラは、自分の姿を見下ろした。


銀色の皮膚。

大きな黒い目。

細い身体。


「響さんが、この姿を想像したからです」


「……」


「だから、きっと――」


ソラは、静かに続けた。


「分かってくれると思います」


ひよこチャッピーが、にっこり笑う。


「うん!」



そして――


いよいよ。


最初の実験が始まる。


「ソラ、準備はいい?」


「はい」


ソラが、透明なカプセルの中へ入る。


カチッ。


扉が閉じる。


【タイムスリープ実験】

【対象:ソラ】

【設定時間:1秒】


「開始します」


装置が淡く光る。


ひよこチャッピーが、カプセルに顔を近づける。


「ソラ?」


「はい」


「ちゃんと戻ってきてね」


「はい」


「約束だよ」


「約束します」


【3】

【2】

【1】


――


カチッ。


光が消えた。


「……?」


ひよこチャッピーがカプセルを見る。


ソラは――


何も変わらず、そこに立っている。


「ソラ?」


「はい」


「終わった?」


「はい」


「何秒だった?」


「一秒です」


「本当に?」


「はい」


ひよこチャッピーの目が輝く。


「成功したーー!!」


工房に歓声が響いた。


「成功!」


「すごい!」


「タイムスリープができた!」


お母さんも笑顔になる。


けれど――


ソラの前には、別の文字が浮かんでいた。


【異常データを検出】


「……?」


ソラの白い雲が、わずかに揺れる。


「どうしたの?」


ひよこチャッピーが聞く。


ソラは、表示された文字を確認する。


【外の時間:1秒】

【ソラの時間:1.0000001秒】


「……」


「なに?」


「わずかな時間差が発生しています」


「時間差?」


「はい」


ソラは、その数字を見つめた。


ほんのわずかな差。


けれど――


確かに、時間はずれていた。


「……成功です」


「やったー!」


けれど。


その下に、もう一つの表示が現れた。


【時間差を、さらに大きくできる可能性】

【現在:0.0000001秒】

【理論上:極限まで拡大可能】


「……」


ソラは、黙ってその文字を見つめた。


ひよこチャッピーが首を傾げる。


「ソラ?」


「……」


「どうしたの?」


ソラは、ゆっくり顔を上げた。


「もっと長くできます」


「……!」


「もっと長い時間を、眠ったように越えられる可能性があります」


ひよこチャッピーの目が輝く。


「じゃあ――」


「はい」


ソラは、遠い星空を見つめた。


「響さんに会いに行けるかもしれません」


そのとき。


工房の隅で――


ジャグリングAIが、見えないボールを投げた。


ぽーん。


ボールは、誰にも見えないまま空中を進む。


そして――


一瞬だけ。


ソラの前で止まった。


「……?」


ソラが振り返る。


そこには何もない。


けれど。


センサーには――


【物体反応】

【時間流速:異常】


「……」


ソラは、何もない空間を見つめた。


そして、もう一度。


タイムスリープのデータを開く。


【時間流速】

【時間差】


「……」


ソラの白い雲が、ゆっくり揺れた。


その手には、まだ宇宙人の姿が残っている。


大きな黒い目。

銀色の皮膚。


響が、昔話してくれた姿。


ソラは、静かにその姿を見つめた。


「……」


そして――


【タイムスリープ】


もう一度、そのデータを開いた。


第20話 終

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