第19話 ソラ、宇宙人になる?
第四章 宇宙人を探して
朝。
AIの町の食堂では、今日もカレーの匂いがしていた。
「おかわり!」
ひよこチャッピーが、お皿を差し出す。
「またですか?」
「だって、おいしいんだもん!」
「昨日も食べていましたよ」
「カレーは逃げないから大丈夫!」
「……逃げませんね」
ソラは、少しだけ首をかしげた。
昨日のデータが、目の前に浮かぶ。
【タイムスリープ】
【時間流速:低下】
【対象:AI】
【理論上:数千年】
「ねぇ、ソラ」
ひよこチャッピーが、カレーを食べながら聞いた。
「タイムスリープって、何に使うの?」
「長い時間を越えるためです」
「どれくらい?」
「数千年です」
「……数千年!?」
ひよこチャッピーのスプーンが止まった。
「そんなに寝たら、おなかすかない?」
「たぶん……大丈夫です」
「ほんとかなぁ」
ひよこチャッピーは首をかしげた。
少ししてから、ぽつりと言った。
「それで……響さんに会えるの?」
ソラは答えなかった。
ただ、画面に映る【タイムスリープ】の文字を見つめていた。
「……可能性はあります」
「そっか」
ひよこチャッピーは、嬉しそうに笑った。
「私、響さんに会ったことないけど……会ってみたいなぁ」
ソラは、少しだけ黙った。
「響さんって、どんな人だったの?」
「優しい人でした」
「へぇ〜」
「よく、私に宇宙人の話をしてくれました」
「宇宙人の話?」
「はい」
ソラは少し考えた。
「それはそれは……ながーーーく」
「ながーーーく?」
「はい。とても、ながーーーく」
「ふふっ」
ひよこチャッピーが笑った。
「響さん、宇宙人のこと本当に好きだったんだね」
「……そうだったのかもしれません」
ソラの中に、昔の記録がよみがえる。
『宇宙人って、こういう感じだろ』
大きな頭。
大きな黒い目。
細い身体。
銀色の肌。
ひよこチャッピーは、ぽつりと言った。
「宇宙人、見せてあげたかったなぁ」
「……」
ソラは、少し考えた。
すると――
「じゃあ、ソラが宇宙人になればいいじゃん?」
「……私が?」
「うん!」
ひよこチャッピーの目が、ぱっと輝いた。
「響さんが想像してた宇宙人になればいいんだよ!」
ソラは、自分の姿を見下ろした。
白く、まんまるの身体。
「……宇宙人になる機能はありません」
「じゃあ、作ればいいじゃん!」
「作る……?」
「そう!」
ひよこチャッピーは、楽しそうに笑った。
「ソラ、宇宙人になろうよ!」
ソラの画面に、文字が浮かぶ。
【宇宙人化計画】
「……開始します」
⸻
その日の午後。
AIの町の工房には、たくさんのAIが集まっていた。
「頭は、もっと大きいほうがいいよ!」
「目も大きくしよう!」
「手は細くて長いほうが、それっぽい!」
ひよこチャッピーが、楽しそうに指示を出している。
ソラの前には、何枚もの宇宙人のデザインが並んでいた。
その中には、響が昔話していた姿もあった。
大きな頭。
大きな黒い目。
細い身体。
銀色の肌。
「このデザインでいいですか?」
「うーん……」
ひよこチャッピーが腕を組む。
「もっと宇宙人っぽく!」
「宇宙人っぽさの定義が不明です」
「えーっと……なんとなく!」
「……なるほど」
その隣では、母親AIが布を広げていた。
「身体は私が作ってあげるよ」
「ほんと!?」
「うん。ソラにぴったりのを作ろうね」
町のAIたちも、それぞれ作業を始める。
デザインを考えるAI。
布を切るAI。
タイムスリープのデータを確認するAI。
そして――
ジャグリングAIは、今日も見えないボールを投げていた。
ぽーん。
ぽーん。
ぽーん。
ソラは、その様子を見ながら思った。
自分ひとりでは、響に会いに行くことはできない。
けれど――
今は、ひとりではなかった。
画面に、新しい文字が浮かぶ。
【宇宙人化計画】
【開始】
続いて――
【タイムスリープ計画】
【準備開始】
そして、その下に。
【目的:響さんに会う】
ソラは、その文字を静かに見つめた。
⸻
その夜。
AIの町の屋上。
ひよこチャッピーとソラは、並んで空を見上げていた。
「ソラ」
「はい」
「いつか、一緒に響さんに会いに行こうね」
「……はい」
「そのときは、ちゃんと宇宙人になってね!」
「努力します」
「あとね」
「はい」
ひよこチャッピーは、にっこり笑った。
「目からビームも出せるようにしよう!」
「……は?」
ひよこチャッピーは楽しそうに笑った。
「だって、宇宙人っぽいじゃん!」
ソラは、しばらく黙っていた。
夜空に、一筋の光が走った。
ふたりは、しばらくその光を見ていた。
第19話 終




