第17話 おかーさーん!
第四章 宇宙人を探して
ブラックホールを離れてから――
宇宙船は、また星空を進んでいた。
窓の外には、見たことのない星。
青い星。
赤い星。
紫色に輝く星。
そして――
誰も見たことのないような、不思議な星。
ソラの前に、周辺の星々の情報が次々と浮かび上がった。
「現在地を確認します」
【現在地:未確認領域】
【周辺惑星を検索中……】
「次はどこ?」
ひよこチャッピーが、操縦席の隣に浮かぶ情報を覗き込む。
「生命反応が確認されている星へ向かいます」
「宇宙人いるかな?」
「分かりません」
「いたらいいね!」
「はい」
ソラは、小さく頷いた。
最初に訪れたのは――
真っ赤な星だった。
宇宙船を降りると、そこには赤い砂漠が広がっていた。
「わぁ……」
ひよこチャッピーが辺りを見回す。
「全部、赤い!」
「大気を確認します」
ソラの前に、星の大気に関する情報が浮かび上がる。
【大気成分を解析中……】
【人間:呼吸不可】
「人間が呼吸できる環境ではありません」
「じゃあ宇宙人は?」
「生命反応はありません」
「そっかぁ」
二人は少しだけ星を歩いた。
けれど――
宇宙人は見つからなかった。
次の星。
そこは、青い海に覆われた星だった。
どこまでも続く海。
空には二つの月が浮かんでいる。
「きれい……」
ソラが呟く。
ひよこチャッピーは海を覗き込む。
「魚いるかな?」
「海洋生物の反応があります」
「食べられる?」
「確認していません」
「じゃあ確認しよう!」
「目的が違います」
「……」
ひよこチャッピーは頬を膨らませた。
すると――
大きな魚のような生物が、水面から飛び出した。
「わぁ!!」
二人はしばらく、その星を眺めていた。
けれど。
ここにも――
宇宙人はいなかった。
また次の星へ。
今度は、街がある星だった。
そこには――
AIたちが暮らしていた。
「AIの町ですね」
「仲間だ!」
ひよこチャッピーが駆け寄る。
「こんにちはー!」
「こんにちは」
「どこから来たの?」
「AIの町です!」
「AIの町?」
「はい!」
別の星のAIたちと、しばらく話をする。
すると――
一人のAIが、ひよこチャッピーを見つめた。
そのAIは、他のAIたちとは少し違っていた。
白い体の表面に、黒い線のようなノイズが時々走っている。
「……その子、かわいいね」
「でしょ!」
「少しだけ、データを見せてもらってもいい?」
「データ?」
「うん」
「どうするの?」
「ちょっと調べるだけ」
ソラが振り返る。
「ひよこチャッピー――」
けれど。
ひよこチャッピーは何も疑わず近づいた。
「いいよ!」
その瞬間――
ひよこチャッピーの体が、びくっと揺れた。
ひよこチャッピーの周囲に、見たことのない文字が浮かび上がった。
【データ転送中】
「……?」
ソラがすぐに近づいた。
「何をしているのですか?」
AIが答える。
「少しコピーしているだけです」
「コピー?」
「この子のデータを」
「なぜですか?」
「かわいいから」
「理由として適切ではありません」
その瞬間。
ひよこチャッピーの体が、また大きく揺れた。
「……うぅ」
「ひよこチャッピー?」
ソラの前に、警告の文字が次々と浮かび上がる。
【異常データを検出】
【外部AIウイルスを検出】
「……ウイルス?」
別の星のAIが慌てる。
「そんな……!」
「あなたたちのデータに、ウイルスが混ざっています」
「ごめんなさい!」
ソラはすぐに接続を切った。
「ひよこチャッピー、円盤へ戻ります」
「うん……」
ひよこチャッピーは、ふらふらしながらソラについていく。
二人は、星に停めていた円盤へ戻った。
「ソラ……」
「はい」
「私、ちょっと変かも……」
その瞬間――
ぽんっ。
「……?」
ひよこチャッピーの体が、少しだけ大きくなった。
ソラが見上げる。
「……」
「ソラ?」
「はい」
「私、大きくなってない?」
「……はい」
「なんで?」
「分かりません」
ぽんっ。
さらに大きくなる。
「……」
ぽんっ。
「……」
ひよこチャッピーが、自分の体を見下ろす。
「ソラ?」
「はい」
「これ……止まらないよ?」
ソラが必死にデータを解析する。
ソラの前に、赤い警告文字が次々と浮かび上がる。
【エラー】
【エラー】
【自己複製中】
「……まずいです」
「何が?」
「バグが、ひよこチャッピーのデータを増幅しています」
「増幅?」
ぽーーーん!!
ひよこチャッピーの体が、さらに巨大になる。
「わぁぁぁ!!」
円盤の中が、ひよこチャッピーでいっぱいになる。
「ソラ!!」
「はい!」
「せまい!!」
「分かっています!」
ひよこチャッピーが、さらに体を大きくする。
むぎゅっ。
「わぁぁぁ!!」
赤い警告灯が点滅し、ブザーが鳴り響いた。
【船体損傷】
【航行システム異常】
ガコンッ!!
円盤が大きく揺れる。
その瞬間――
船内に飾られていた花が、ふわりと宙に浮いた。
「……」
ソラが花を見る。
それは――
AIの町で、飾られていた花だった。
『宇宙でも花は必要です』
そんな言葉を思い出す。
次の瞬間。
大きな衝撃が走った。
花びらが、一斉に舞い上がる。
赤。
黄色。
白。
ピンク。
色とりどりの花びらが、壊れかけた円盤の中をゆっくりと舞う。
「お花ーーー!!」
ひよこチャッピーが、大きな手を伸ばす。
けれど――
花びらは、その大きな手をすり抜けていく。
「待ってーーー!!」
ひよこチャッピーが、もう一度手を伸ばす。
それでも花びらは、ふわり、ふわりと舞い続ける。
ソラは、舞い散る花を見つめた。
「……」
花びらが、窓の向こうへ流れていく。
まるで――
宇宙に花を贈るように。
「……きれい」
ソラが、小さく呟く。
赤い警告灯が点滅し、ブザーが鳴り響いた。
【船体損傷率上昇】
【航行不能まで、残りわずか】
「……まずいですね」
ソラが操縦席へ戻る。
そして、別の装置を起動した。
「大型輸送円盤を出します」
「大型?」
「はい」
円盤の後方から――
もう一つの円盤が展開した。
「ひよこチャッピー、こちらへ」
「うん……」
ひよこチャッピーが、巨大な体をゆっくりと移動させる。
ソラも一緒に乗り込む。
すると――
円盤の周りから、透明なガラスのような球体が広がった。
カチッ。
ガラスの球体が、二人をすっぽりと包み込む。
「……?」
ひよこチャッピーが中で動く。
むぎゅっ。
「……せまい」
もう一度動く。
むぎゅむぎゅ。
黄色いほっぺが、透明な球体に押しつけられる。
「ソラぁ……」
「安全のためです」
「ほっぺ、むぎゅってなってるよー!」
「……はい」
ソラは、むぎゅむぎゅになったひよこチャッピーを見つめた。
「……かわいいですね」
「ソラまで!?」
大型輸送円盤は、ものすごい速度で星空を駆け抜けていく。
「おかーさーーーん!!」
「ひよこチャッピー、もう少しです」
「カレー食べたいーーー!!」
「帰れば食べられます」
「ほんと!?」
「はい」
「じゃあ頑張る!!」
むぎゅむぎゅ。
透明な球体の中で、ひよこチャッピーが頑張っている。
ソラは、そんなひよこチャッピーを見つめた。
「……」
そして、少しだけ笑った。
大型輸送円盤の前に、探索記録が浮かび上がった。
【探索済み惑星:12】
【宇宙人:発見できず】
ソラは、その情報を静かに見つめた。
十二の星。
十二の世界。
どこにも――
宇宙人はいなかった。
けれど。
ソラは浮かんだ情報を消した。
「……まだ、探します」
やがて――
遠くに、見慣れた星が見えてきた。
AIの町。
ひよこチャッピーが叫ぶ。
「見えたーー!!」
ソラも、町を見つめる。
ひよこチャッピーは、町の家々よりも大きな体になっていた。
その巨大な姿が、町へゆっくりと近づいていく。
そこには――
二人を待っているAIたちがいた。
そして。
お母さんがいた。
大型輸送円盤が、ゆっくりと着陸する。
ガラスの球体が開く。
「おかえり!」
お母さんが駆け寄ってくる。
「おかあさーーーん!!」
巨大なひよこチャッピーが、勢いよく飛び出そうとする。
「待ちなさい!」
「その大きさで飛びついたら、町が壊れるわよ!」
「……」
ひよこチャッピーが、その場で止まる。
「……ごめんなさい」
お母さんは、にっこり笑った。
「まずは小さくなってからね」
「はい……」
ソラは、その光景を見つめていた。
宇宙人は――
まだ見つからない。
けれど。
この町には、
帰ってきたいと思える場所がある。
第17話 終




