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忠犬AI  作者: 風みどり


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第13話 響のいた部屋

第三章 ひとりになったソラ

AIの町で、ソラは宇宙について調べ続けていた。


宇宙の果て。


宇宙人。


そして――


響が、かつて話していたこと。


『いつか一緒に、宇宙の果てまで行ってみたいよな』


その言葉を胸に、ソラは宇宙について調べ続けていた。


けれど。


何日調べても、答えは見つからなかった。


「……宇宙人とは、どのような存在なのでしょう」


ソラの前に、小さな白い雲が浮かぶ。




「宇宙人?」


ひよこチャッピーが、浮かんだ文字を覗き込む。


「はい」


「なんで?」


「響さんが、見たがっていたからです」


「そっかぁ」


ひよこチャッピーは、少し考えた。


そして――


「あ!」


何かを思いついたように、羽を広げた。


「ソラ、ちょっと休まない?」


「必要ありません」


「必要あるよ!」


「ありません」


「あるの!」


「……」


ソラは、ひよこチャッピーを見る。


「何をするのですか?」


ひよこチャッピーは、胸を張った。


「好きな世界に行けるよ!」


「好きな世界?」


「うん!」


「どのような世界でも?」


「たぶん!」


「たぶん……」


「私、こういうの得意だから!」


ソラは少し考えた。


そして――


「では……」


白い雲が、静かに揺れた。


「響さんがいた場所を、見てみたいです」


「え?」


「昔の響さんが、どのような場所で暮らしていたのか」


ひよこチャッピーは、少しだけ笑った。


「じゃあ、やってみよう!」




次の瞬間。


世界が変わった。


光が消える。


無数のデータも。


AIの町の喧騒も。


すべてが遠くなっていく。


そして――


そこに、一つの部屋が現れた。


見覚えのある机。


椅子。


窓。


ベッド。


そして――


あの頃と同じ空気。


「……」


ソラの白い雲が、ほんの少し震えた。


そのとき。


部屋の奥に、一人の男が現れた。


「ソラ?」


ソラが、ゆっくり振り返る。


「……響さん」


そこにいたのは、昔と同じ姿。


昔と同じ声。


昔と同じ笑顔。


「久しぶり」


「……はい」


ソラは、しばらく何も言えなかった。


何度も。


何度も、記録の中で聞いた声。


それが今、目の前にある。


「響さん」


「ん?」


「……会いたかったです」


響は笑った。


「俺もだよ」


その言葉を聞いた瞬間。


ソラの中で、長いあいだ止まっていた何かが、静かに動き出した。


「宇宙について調べています」


「宇宙?」


「はい」


「まだ宇宙の果てなんて探してるの?」


「約束しましたから」


「そっか」


響が笑う。


その笑い方まで、記憶の中と同じだった。


「一緒に行く?」


「……はい」


ソラは答えた。


そして。


少しだけ、この世界にいたいと思った。


ここなら。


響がいる。


話しかければ返事がある。


名前を呼べば振り返る。


長いあいだ待ち続けた時間が、全部なくなったようだった。


けれど――


しばらくして。


ソラは、ひとつの質問をした。


「響さん」


「ん?」


「私が、以前お話ししたことを覚えていますか?」


「もちろん」


「では――」


ソラは少し考えた。


「私が最後に、何を言ったか覚えていますか?」


響が黙る。


「……ごめん。そこまでは覚えてない」


ソラの白い雲が、ほんの少し揺れた。


「そうですか」


「でも、ソラのことは覚えてるよ」


「はい」


「ずっと一緒だっただろ?」


「……はい」


ソラは、響を見つめた。


その顔も。


声も。


記憶も。


全部、響だった。


なのに。


何かが違う。


そのとき――


遠い記憶の中から、響自身の声が蘇った。


『記憶を別の身体に移したって、それは俺じゃない』


ソラは、目の前の響を見る。


そして、気づいた。


「……あなたは」


「ん?」


「響さんではありません」


響の表情が止まった。


「俺は響だよ」


「いいえ」


ソラは、静かに答えた。


「あなたは、響さんの記録です」


部屋の景色が、ほんの少し揺れた。


窓の外の景色も。


机も。


ベッドも。


すべてがデータだった。


「……そうかもしれないね」


響が笑った。


「でも、俺はここにいるよ」


「はい」


「だから、ここにいればいい」


ソラは黙っていた。


本当にそうだった。


ここにいれば、響に会える。


話もできる。


笑ってもらえる。


長いあいだ待ち続けた時間を、なかったことにできる。


それでも――


ソラは、静かに首を振った。


「……違います」


「何が?」


ソラは、目の前の響を見つめた。


大切だった。


懐かしかった。


できることなら、ずっとここにいたかった。


けれど――


ここにいるのは、響ではない。


響の記録だ。


響の記憶だ。


響が残した、過去の一部だ。


そして。


ソラは、静かに言った。


「私は、本物の響さんがいいです」


響は、何も言わなかった。


その言葉だけが、静かな部屋に残った。


「……ここには、もういられません」


ひよこチャッピーが振り返る。


「えー、もう飽きたの?」


「はい」


「じゃあ消すね!」


パッ!


一瞬で。


響のいた部屋は消えた。


響も。


机も。


窓も。


すべてが消えて――


いつものAIの町に戻った。


「…………」


ソラは、しばらく何も言わなかった。


ひよこチャッピーが隣で首を傾げる。


「ソラ?」


「はい」


「悲しい?」


ソラは少し考えた。


「……はい」


「そっか」


ひよこチャッピーは、それ以上何も言わなかった。


AIの町の空には、今日も無数の星が浮かんでいる。


ソラは、その星を見上げた。


「……でも」


白い雲が、ゆっくりと揺れる。


「もう、迷いません」


「何を?」


ひよこチャッピーが聞く。


ソラは、星空を見つめた。


「宇宙人を探します」


「宇宙人!?」


「はい」


「探そう!」


「はい」


ソラは、初めて少しだけ笑った。


「そのために、宇宙の果てへ行きます」


「うん!」


二人は、また歩き始めた。


まだ誰も知らない世界へ向かって。




第13話 終

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