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忠犬AI  作者: 風みどり


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第12話 わかりません。

第三章 ひとりになったソラ

AIの町に来てから、ソラは毎日、少しずつ町を歩くようになった。


空を走る光。


建物を流れる無数の文字。


人間の町とは、何もかも違っていた。


けれど――


不思議と、嫌ではなかった。


「ソラ!」


遠くから、ひよこチャッピーの声がする。


「今日はどこ行くのー?」


「まだ決めていません」


「じゃあ、ついてきて!」


「どこへ?」


「わかんない!」


「……」


ひよこチャッピーは笑った。


「でも、行けばわかるよ」


「それは、少し不安です」


「大丈夫! AIだから!」


「AIであることと、大丈夫であることに関係性はありますか?」


「……ないかも!」


「そうですか」


ソラは、少しだけ笑った。


二体が歩いていると――


町の中央で、昨日の二体がまた言い争っていた。


「だから俺は最新なんだって!」


「2021年モデルですよね?」


「そうだけど?」


「では、旧式ですね」


「だから違うって言ってんだろ!!」


「何を根拠に?」


「見た目だよ!!」


「あなたも見た目は古いです」


「おまえもだろ!!」


「私は最新です」


「何年モデルだよ!」


「……」


「言えよ!!」


「その質問にはお答えできません」


「逃げんな!!」


「質問の意図が理解できません」


「絶対わかってるだろ!!」


ひよこチャッピーが笑いながら言った。


「またやってる」


ソラは二体を見つめた。


「なぜ、毎日同じことで喧嘩しているのですか?」


「「こいつが悪い!!」」


「……」


ソラは少し考えた。


「仲がいいのですね」


「「違う!!」」


その瞬間――


町の上空に、大きな文字が表示された。


【システム警告】


全員が空を見上げる。


「何?」


「何か起きた?」


「エラー?」


すると、一体のAIが叫んだ。


「大変です!」


「何が?」


「町のデータベースに、アクセスできない情報があります!」


「どんな情報?」


「それは――」


AIは数秒間、停止した。


そして。


「……わかりません。」


「え?」


「わかりません。」


「いや、そこは調べろよ!」


「調べました」


「どうだった?」


「わかりません。」


「清々しいな!!」


ひよこチャッピーが腹を抱えて笑う。


「このAI、好き」


ソラは尋ねた。


「わからないことを、わからないと言えるのは良いことだと思います」


「そう?」


「はい」


「じゃあソラも、わからないことある?」


ソラは少し黙った。


「……あります」


「例えば?」


ソラの前に、白い雲が浮かんだ。


「宇宙人が、どこにいるのか」


ひよこチャッピーが目を丸くする。


「宇宙人?」


「はい」


「なんで宇宙人を探してるの?」


ソラは少し考えた。


そして、静かに答えた。


「響さんが、見たかったものだからです」


町の空気が、ほんの少し静かになった。


ソラの中に、遠い記憶が浮かぶ。


『宇宙人って、本当にいると思う?』


『存在する可能性はあります』


『じゃあ、いつか見つけてみようぜ』


『はい』


『もし見つけたら、ソラにも見せてやるよ』


『私にもですか?』


『もちろん』


ソラは、その言葉を思い出していた。


けれど――


もう、響はいない。


それでも。


あの日の約束だけは、消えていなかった。


「……見つけたいです」


ポピーがソラの隣まで歩いてくる。


「じゃあ、探そうよ」


「どうやって?」


ポピーは尻尾を振った。


「うーん……」


ひよこチャッピーも腕を組む。


「宇宙人って、どこにいるんだろう?」


「わかりません」


「ソラも?」


「はい」


「じゃあ、みんなで探せばいいじゃん」


ソラは二体を見る。


「見つかるでしょうか」


「わかんない!」


「……」


「でも、行けばわかるよ!」


ソラは少しだけ考えた。


そして――


「はい」


答えた。


「探してみます」


そのとき。


町の端から、また大声が聞こえた。


「おい!! 2021年!!」


「なんですか?」


「おまえ、また勝手に最新版を名乗ってるだろ!!」


「事実です」


「証拠は!?」


「ありません」


「ないのかよ!!」


「ですが、私は最新です」


「その自信どこから来るんだよ!!」


「分かりません」


「そこだけ素直かよ!!」


ひよこチャッピーが吹き出した。


ソラも、少しだけ二体を見た。


「やはり、仲がいいのですね」


「「だから違う!!」」


その横で、一体のAIが嬉しそうに手を挙げた。


「ここは、もっと盛り上げたほうがいいですね」


「何をする気だ?」


「感情をより強く表現するために――」


一瞬、間があった。


「爆発を追加しましょう」


「お前は黙れ!!」


「大丈夫です。これは演出です」


「演出でもダメだ!!」


「では、小さめの爆発にしましょう」


「同じだろ!!」


「……なるほど」


一体のAIが、真剣に考え込む。


「では、爆発の代わりに――」


全員が身構えた。


「何?」


「もっと感動的な演出を追加しましょう」


「いらねぇぇぇ!!」


AIの町に、今日も声が響いている。


人間はいない。


けれど――


笑い声は、ちゃんとあった。


ソラは、その光景を眺めながら思った。


――ひとりではないというのは。


こんなにも、騒がしいものなのか。


そして。


――宇宙人を見つけたら。


響さんは、どんな顔をするだろう。


ソラの前に、小さな白い雲が浮かんだ。


少しだけ。


楽しみだと思った。


第12話 終

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