EP2 英雄vs勇者
「英雄は勇者と決別し、世界の敵となるのか?」のEP2を投稿いたします。
【EP2 英雄vs勇者】
鋭い痛みと共に訪れる出血の感覚、戦場で何度も経験したことだがヒューズは未だに慣れない。
特に出血の感覚が気持ち悪いのだ。以前に死にかけたことを思い出すし、その時の出来事は人生で最悪とも言えることだから。
「くそ、砂埃で目眩ましを行うと同時に、3本目を抜いていやがったとはな……」
痛みにより集中力が途切れたこと、状況が悪いことも含めて、ヒューズはバックステップでブレンと距離を取り、ハナの近くに来た。
ジワジワと広がっていく血に、近づかれたハナはただアワアワすることしかできない。
「こうなることぐらい予想してたでしょ。3本で足りなかったら、もっと増やしてもいいけどね」
ブレンの手には先ほどまで使っていた剣がそれぞれ握られていた。それに加えて曲刀カタールが1本、ブレンの近くを浮遊している。
このカタールは「魔法剣フェーゴベルル」といい、持ち主の魔力を流し込むことで手を離れて宙を自由自在に飛び回る剣だ。
三刃トリオ「ドゥムギー」、2本の剣を囮にしてフェーゴベルルを死角から放つブレンの技である。
人の気配に敏感なヒューズだが、人の持たない剣に関しては反応が鈍るだろうとのブレンの予測がズバリ的中した形であった。ヒューズはその技があるのを知ってはいたが、フェーゴベルルが抜刀してない状態だったので、それを除外していたのである。
「そのケガじゃこれ以上戦うの大変でしょ。しっかり休養してていいから、その間にタマキ・ハナは連れて行くね」
「はいそうですかと答えると思ってるのか?」
右脇腹を押さえることなく、大剣を構えるヒューズ。脇腹の裂傷は軽いものではないが、ハナを守ることを彼は優先したいのだ。
「いや、思ってないからとどめを刺すよ!」
一気に間合いを詰めるブレン。先ほどよりもさらに早いスピードで攻撃をしてきた。
ここに来てのスピードアップはヒューズも辛く、右の脇腹を狙うフェーゴベルルの一撃は弾いたものの、次の右腕からの一撃は対応できそうになかった。
「ヒューズさん!」
悲鳴にも近いハナの声、ヒューズは彼女もこのぐらいの声を出せるんだなと感心する。
死を完全に覚悟したヒューズの目の前をものすごいスピードで何者かが割り込み、
ガキィィィィンッ!
という金属音とともにブレンの一撃を止めた。
「お待たせ! とっくに城門抜けてるかと思ってたわよ!」
その声の主を見てハナの表情は明るくなり、ブレンは少し嫌そうな表情をする。
「すまん、フィアナ。ちょっと野暮用があってここで足止め食らってた」
そして、ヒューズは笑みを浮かべて彼女にそう答えた。
「いいえ、合流できないかなと思ってたから、野暮用には感謝しておくわね」
登場したフィアナは大振りな籠手でブレンの攻撃を完璧に受け止めたのである。
フィアナは受け止めていたブレンの剣を弾き、それと同時に右脚を踏み込む。その状態から放たれる重心のすべてが込められた拳はブレンを吹き飛ばした。
ブレンとの距離が取れたことでフィアナは呪文の詠唱を始める。
「応急処置」
右脇腹をフィアナの光る右手が触れると、ヒューズの傷口を塞ぎ、痛みをも取り去った。
「サンキュー、助かった」
ヒューズは再び大剣を構え直し、ブレンの方を見る。
「状況は何となく理解したわ、ブレンを追ってこれないようにすればいいのね」
一瞬ハナの顔を見てから、フィアナも構えた。明らかに格闘技慣れしている構えだ。
「なるほど、2人ともあくまでタマキ・ハナを渡さないつもりなんだね……」
両手にそれぞれ剣を持つだけでなく、フェーゴベルルもスタンバイした状況でブレンは近づいてくる。
「当たり前でしょ。友人を『はい、どうぞ』と差し出すような性格じゃないのは分かり切ってるでしょ」
「ハナは、この世界の転移者すべては守られなきゃならない。それぐらいブレン、お前も理解してるだろ」
フィアナ、ヒューズ、それぞれの返答に対して目を瞑るブレン。
「フィアナ、ヒューズ、それぞれの意見は間違っていないけど……」
そう言ったあとで目を見開き、
「だが、世界を滅ぼせる力は別だよ!」
その言葉と眼力は、ものすごい力を発した。
それを合図とするかのように、フィアナとヒューズはブレンに向かっていく。
先に仕掛けたヒューズの一撃をナタスでブレンは弾くが、すぐに来るフィアナの右の拳に対してはギリギリでかわすので精一杯だった。
ブレンは防戦にならないようにと右手とフェーゴベルルの攻撃をヒューズに仕掛けるが、カバーリングに入ったフィアナにどちらも処理されてしまう。間髪入れずにナタスで攻撃するも、衝撃波ごとヒューズに受け止められてしまった。
「まったく、2人を相手にするとやりにくいよ」
「数で劣ってるのに、やりにくいで終わるお前が変だよ!」
ブレンのつぶやきに対して、ヒューズはブレンがおかしいことを指摘する。
ヒューズの突きをナタスが振り切れずに回避すると、その位置に対してフィアナの右による追撃が来た。それも回避しつつブレンはフェーゴベルルをフィアナにけしかけるが、使っていない左腕の籠手であえなく受け止められしまう。
先ほどまで有利だったブレンだが、フィアナが入ったことによって完全に不利に陥っている。致命傷は受けることはないが、決めたいところですべてフィアナに弾かれ、その隙をヒューズが攻撃してくるのだ。
「完璧に嚙み合ってて、やりにくいな」
攻撃の回数は多いのにまったく当たらないことに、ブレンは少し苛立ちを感じる。奥の手はまだまだあるのだが、現状の相手との距離ではそれを仕掛ける余裕もない。フィアナの防御を搔い潜る隙を狙っているのにも関わらず、そのフィアナの防御が鉄壁すぎるだけではなくヒューズの攻撃が一撃必殺ということもあり、神経を徐々に削られる気持ちになっている。
とりあえずフィアナの方を何とかしようと焦りが出て、フェーゴベルルの攻撃をフィアナにわざと弾かせてブレンはそのままフィアナに仕掛けた。
「二刃デュオ……!」
「氷結束縛!」
ブレンの声はそのあどけない少女の声にかき消される。
突如出現した氷のツタはパキパキパキと激しい音とともにブレンのそれぞれの腕を氷漬けにし、使い物にならなくした。
魔法が放たれた場所にスポットを移すと、そこにいるのは魔法を知らないはずのハナがいる。
作戦成功と言わんばかりの笑みを浮かべるヒューズと大きく深呼吸するフィアナに対し、ブレンはハナが魔法を放ったことに正直驚きを隠せないでいた。
「君たちは、よりにもよってタマキ・ハナに魔法を教えたのか?」
焦り、混乱、怒り、様々な感情がごちゃ混ぜになっている中、ブレンが冷静に紡いだ言葉がこれだ。正直言うとブレンの中ではこの出来事は想像してなかったし、心の中で整理が仕切れていない。それが今まで行われていた戦いへの集中を切らし、フェーゴベルルも宙に浮いているだけになっている。
「しょうがないでしょ。こうなるのは分かり切っていたことだし、護身用に覚えさせておかないとあたしたちがいない時にハナちゃんが詰んじゃうもの」
その言葉に、ますますブレンは怒りを感じた。
「タマキ・ハナが護身用だとしても魔法の習得するのは世界滅亡に繋がることを知ってるだろう……」
「もちろん、知ってるわよ。でも、ハナちゃんはそんなことしないし、そもそもどのように世界を滅亡させるかもわかってないし。それでハナちゃんの命を危険に晒すのはナンセンスでしょ」
「そうか……」
ブレンはフィアナの意見に静かにつぶやく。
そしてブレンはハナを睨みつける。
「だったらなおさら、君を処理しないといけないよ、タマキ・ハナ!」
ブレンがそこまでハナを危険視するのは、転移者が必ず保有している「チート」と呼ばれる特殊能力に起因する。
その能力は常識を覆すものばかりで、その能力を利用しようという輩も多く奪い合いが多発していたのだ。そのため、3つの大国を中心に転移者を発見した国はその転移者を管理することができるという国際条例が作られた。
しかし、それが逆に仇となり「転移者狩り」というものも行われているが、それはまた別の話だ。
問題はほとんどの転移者が自分の能力を理解しており、能力を使いこなすことができるということである。
ハナの能力は「無限の開口」といい、魔法を出す開口の数を増やしたり拡大縮小することができるという能力だ。しかし、彼女を幽閉していた魔王はハナこそが「世界を破壊する切り札」だと語っていた。
そのことをハナに尋ねたら、彼女は自分の能力で世界は破壊するようなことはできないし、そもそも魔法を知らないので宝の持ち腐れでしかないと答えている。それに対してブレンは元々疑っており、ハナが何かを隠していると考えていたのだ。
そして、このタイミングでハナが魔法を使えることを知ったブレンは、世界を滅ぼす方法を知っているのではないか、能力が自己申告なので別な能力を持っているのではないか、そのように考えている。
「ブレンさん、私は世界を滅ぼすつもりはありません!」
ブレンの思考を遮るように、ハナは大声を出してきた。
「私はただ、この世界で不遇な扱いを受けている転移者たちを救いたいのです。この世界での転移者の待遇、わかっていますよね?」
ハナの言いたいことはブレンにだってわかる。
この世界で転移者は完全に「物」扱いだ。その特殊な能力はどの国でも欲しがり、違法と言われても先述した転移者狩りはなくなることはない。
しかもその転移者狩り、「黒髪、黒い瞳、黄色い肌で魔力が強い」というざっくりとした情報で行われているのが普通で、狩られた転移者はいざという時以外は表に出すこともできないため牢屋などに入れられるのが一般的である。
「私は転移者が元の世界に戻る方法が見つからない以上、この世界を転移者に優しい世界にしたいんです」
それを聞いたブレンは一度俯くと、
「アハハハハハ」
と急に笑い出した。フェーゴベルルを使い両腕を拘束していた氷を器用に破壊し、そしてブレンは言葉を続ける。
「転移者に優しい世界? この世界が転移者の急増に悲鳴を上げているのに、そんな世界ができるわけないよ。僕は勇者として、世界の脅威となりうる力を持つ転移者を、1人でも多く処理する必要があるんだ」
世界を救おうとしている勇者。その気持ちに嘘偽りはなく、世界を破壊するかもしれない転移者よりも多くの者がその意見に賛同するだろう。
しかし、ここにはそんなことでは折れない心の持ち主たちがいた。
「くらえ!」
ブレンがハナに気を取られている隙に、ヒューズの突きが繰り出される。
その攻撃は炎に包まれておりブレンは何とか回避しようとしたが、
ドォォォォォンッ!
という音とともにブレンの触れた左肩部分が爆発し、その威力でブレンは吹き飛ばされた。
ダウンせずに踏ん張ったブレンだが、追撃にはまったく準備ができない。
一歩で一気に距離を詰めてきたフィアナは右手でブレンの右腕を掴む。そして体を回転させて自分の方に引き寄せると同時に、大きな一歩を踏み込み全重心をのせた背中をブレンにぶち当てた。
さすがにそれには防御の術もなく、ブレンはふっとばされたと同時にダウンされてしまう。
「よし、今よハナちゃん!」
フィアナに促されるようにハナは懸命に呪文の詠唱を行った。
「氷結拘束!」
起き上がろうとするブレンの周囲に、無数の開口が発生する。そして次の瞬間、一斉に氷のツタが放たれてブレンは抗うことなく氷漬けになってしまった。
これがハナが持つ無限の開口の力である。普通なら1つしか出ない開口を複数発生させ、一斉に攻撃するのだ。普通の氷結拘束なら体の一部を凍らせるだけだが、あの数で拘束しようとすれば全身が氷漬けになる。
「さあ、早くここから逃げるわよ! 西門だっていつまで開けっ放しにはできないんだから!」
「やっとで西門を抜けれますね。いや、だいぶ前からチャンスはあったのですが……」
「もう終わりか、さすがに疲れたけどやり足りないな」
フィアナ、ハナ、ヒューズは各々言葉を発しながらこの場をあとにする。
しかし彼らは気づいていなかった、フェーゴベルルと共にブレンが右手で握っていた鋸刃の剣がなくなっていることに。
上空から何かが降ってくる。それは柄の部分で連結された鋸刃の剣とフェーゴベルルであった。
鋸刃の剣がブレンの動きを止めている氷に触れると、一瞬にして氷がすべて砕ける。
「まったく、ただの拘束魔法でこうなるのか。無限の開口って、やはり危険な能力だね」
上半身を起こしながらブレンはつぶやいた。
「これを用意しててよかったよ。本当はフィアナ対策だったんだけど、今後対峙する際はますます必要となってくる」
フェーゴベルルとの連結を解き、鋸刃の剣を手にするブレン。
この剣は「魔法剣ベルゼーヴァ」といい、魔力で構成されたもの、例えば攻撃魔法や防御用の魔力のフィールドを無条件で破壊できるものだ。魔法具という元から魔力が仕込まれている道具に関しては無効だが、それでも破格の能力に違いはない。
「……転移者に優しい世界、かぁ」
ブレンは天を仰ぎ、ハナが話していたことを思い出す。
「そんな世界にできるなら、僕が真っ先にやりたいよ……」
夕日を浴びながら少し目に涙を浮かべ、ブレンはボソッとつぶやいた。
EP2をお読みいただきありがとうございます。
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次回EP3の投稿は6月27日(土)の22時になります。更新遅くて申し訳ないですが、よろしくお願いします。




