日常へ
光が、滲む。
白い天井、音が、遅れて届く。
規則的な電子音と、かすかな人の気配。
息を吸うと空気が、肺に入る。
(……生きてる)
ゆっくりと、目を動かし 横へと向ける
ベッドが並んでいる。
一つ。
さらに一つ。
そこに、見覚えのある顔。
風見龍二が 眠っている。
その隣には、魚名大漁。
同じように、眠っている。
だが、死んではいない。
胸が、わずかに上下している。
視線を戻すと天井。
現実だ。 確かに、ここは。
その時。音が、混じる。
テレビからの音声だ
『本日未明——』
ぼやけた声。
『海難事故の行方不明者が——』
言葉が、引っかかる。
『半年ぶりに発見されました』
時間が、止まる。
(……半年)
思考が、遅れる。
記憶と、噛み合わない。
だが—— 思い出す。 水。
暗闇。沈む感覚。
そして、呼吸ができた。
水の中で、自分だけが。
違っていた 、視線が、落ちる。
身体の変化は何もない。傷も、変化も。
だが、 残っている。左腕にかすかな 違和感。
触れられた場所。
あの時の感触 。
思い出す。
そして、もう一つ。
釣り上げたもの。
青緑色の肉。
ぬめり。
目。
形を持たない、生物。
理解できない。
だが——
どこか、知っていた。
理由は、ない。
それでも、そう感じた。
静かな病室。
何も起きていない。
終わったはずの場所。
それなのに、終わっていない。
そんな感覚だけが、消えない。
窓の外・夜の海。
穏やかに見える。何もないように。
ただ、ただ
暗くて深い。
底が、見えない。
その奥に、何かがある気がした。根拠はない。だが、確信だけが残る。
その時。微かに、音。
内側から。泡が弾けるような、水の音。
カランとなる鐘のような音が聞こえた気がした。
気のせいかもしれない。だが、消えない。
意識が、揺れる。
深く
沈むように。
暗い場所へ。
その奥で——
何かが、祈った。
——fin
ここまで『海底の扉』を読んでいただき、ありがとうございました。
この物語は、あるセッションの記録から生まれたものです。
もし、“あの時”何が起きていたのかをもう少し覗いてみたい方がいれば、
その一端を動画として残しています。
▼記録はこちら
https://youtu.be/9OjBilW4h-w?si=BrnOkuptF0x27KF_
文字では拾いきれなかった声や、迷い、選択。
それらもまた、この物語の一部です。
海の底に触れた記憶を、もう一度辿りたい方へ。
再び再会できる日を心待ちにしております。




