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集宴-虚ろなる祈りの果て-  作者: くゆー(蜘蛛蘭燈)
海底の扉

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3つの扉

 三つの扉が、静かに並んでいた。

 誰も、すぐには動かなかった。

 ただ、その扉を見ていた。

 それだけの時間が、やけに長く感じられる。

(……近づくべきか?)

大牙は、無意識に呼吸を浅くしていた。


 視界に映るのは、ただの扉だ。

 古びたもの、金属でできたもの、そして——どこか形容しがたいもの。


 それだけのはずなのに、足が出ない。

 ほんの数歩。


 それだけの距離が、妙に遠く感じられた。

(嫌な感じがする……)


 理由は分からない。

 だが、近づくことに対して、体の奥がわずかに拒否している。


 危険だと判断するほどではない。

 だが、進むことを躊躇わせるには十分な“何か”だった。

「……」

龍二は、無言で扉を見ていた。


 視線が止まらない。

 左、右、後方。

 材質、距離、配置。

 必要な情報だけを拾い上げ、頭の中で組み立てていく。


(三つ、か)


 数を確認する。

 意味はまだ分からない。

 だが——

(選ばされてるな)


 その感覚だけは、はっきりしていた。

「……このまま立ってても、らちがあかん」


 低く、吐き出すように龍二が言った。

 止まっていた空気が、わずかに動く。

「どうせ進まなあかんのやろ。なら、順番に見ていく」


 一歩、前に出る。

 床が、かすかに軋んだ。

 その音を合図にしたように、大牙は小さく息を吐いた。

(……そうだな)


 止まっていても、何も変わらない。

 この場に留まり続けることの方が、よほど不自然だ。


「……まずは近づいて、様子を見る。それでいいですか?」

 確認するように言う。


「ええやろ」

 龍二は短く答えた。

 視線は、すでに扉へ向いている。


「おっちゃんは、どれでもええぞ?」

 魚名大漁が軽く言った。

 あまりにも軽い声音だった。

 この状況に対して、深く考えているようには聞こえない。


 まるで——

 最初から、結果が分かっているかのような。

(……考えすぎか)

 大牙は小さく頭を振った。


 三人はゆっくりと前へ進む。

 足音だけが、やけに大きく響いた。

 距離は短いはずなのに、その数歩がやけに長く感じられる。


 やがて、扉の前に立つ。

 細部が、はっきりと見えてきた。

 左の扉は、古びた木でできていた。

 表面には無数の傷と劣化の跡。


 長い年月を、この場所で過ごしてきたように見える。

 上部には、見慣れない文字が刻まれていた。

 

――sanguine


「……なんやこれ」

 龍二が眉をひそめる。


 文字を見た瞬間、違和感が残る。

 意味は分からない。


 だが、どこかで見たことがあるような感覚だけが残った。

「ラテン語……かもしれません」

 大牙が呟く。

 確証はない。


 だが、その響きに覚えがあった。

(意味までは、分からないな……)


 右の扉へと視線を移す。

 それは金属製だった。

 錆びついた装飾が施され、重厚な造りをしている。

 同じように刻まれた文字。


――Futurum


 そして、後方の扉。

 それだけは、材質がはっきりしなかった。

 柔らかいような、硬いような。

 視界に映っているのに、輪郭が曖昧に感じる。


 そこに書かれていたのは、

――answer


(……気持ち悪いな)


 大牙はわずかに眉を寄せた。

 見えているはずなのに、理解が追いつかない。


「……どれ行く?」

 龍二が短く言う。


 わずかな沈黙。

(止まるな)

 自分に言い聞かせる。

「……左から順番に確認するのが、いいと思います」

 大牙が言った。


 単純な判断だ。

 だが、この状況ではそれが一番自然だった。

「ええな、それでいこか」

 龍二は迷わず頷いた。

「じゃあ、兄ちゃん達、頼むわ」


 魚名が軽く言う。

 自然と、大牙が一歩前に出る形になった。

(……俺か)


 自覚する。

 足が前に出る。

 扉の前に立つ。

 古びた木の質感が、すぐそこにある。

 手を伸ばせば、触れられる距離。

 手を伸ばす。

 ほんの少しの距離。


 それだけのはずなのに——

 指先が、止まった。

(……なんだ?)


 触れてはいけないような感覚。

 理由はない。

 だが、確かに“嫌な感じ”があった。


「どうした」

 龍二の声が飛ぶ。

「……いえ」

 迷いを押し込む。

 そのまま、手を伸ばした。

 指先が、扉に触れる。

 その瞬間。


 ほんのわずかに、空気が変わった気がした。

(……今のは——)


 だが、それを確かめる前に、 手が動いていた。

 大牙は、扉を押し開けた。

 ——その瞬間、世界の色が変わった。

魚名さん皆さんにめちゃくちゃ警戒されてて、ちょっと可哀想に思えてきました。

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