送迎
しばらくして、雨脚は少しだけ弱まっていた。
「……送るわ。お前またその辺で雨宿りしてそうだし」
「ん」当然みたいに頷く。
大牙は苦笑しながらヘルメットを被り、バイクへ跨った。
その後ろへ、亜利亜がそっと身体を寄せて乗り込んできた。
「で、どこに住んでいるんだ?」
「先生ところ」
「そうか。」
細い腕が、大牙の腹へ回った。
エンジンが掛かり、重低音が夜道へ響く。
しばらく無言の時間が続き、夜風が二人の間を抜けている。すると後ろから
ぽつり。
「……大牙、煙草くちゃい」
「うるせぇな」
「でも、あったかい」と大牙の身体を心なしか強く抱きしめた。
大牙は、小さく苦笑いをする。
「……つーかお前、先生んとこ住んでんだろ?」
「うん」
「結構長いのか?」
「長い」
「へぇ」と一言もらす大牙
雨がバイクを濡らす
「先生って家でもあんな感じなの?」
「怒る」
「だろうな」
「あと、ご飯くれる」
「そこ重要だな」
「……部屋とかどうしてんの?」
「べつ」
「・・・・あー」
その返事に、何故か胸の奥が少し軽くなる。
自分でも意味は、わからなかった。
「?」亜利亜は、首を傾げる。
「いや。なんでもねぇ」
誤魔化すみたいに煙を吐く。
「気になるなら、お家くる?」
「はぁ!?」
「先生いるよ?」
「いやそういう問題じゃ・・・!」
頭を抱える。
「お前なぁ……そういう事簡単に言うな」
「なんで?」とキョトンと首を傾げる亜利亜。
「……お前、綺麗だし可愛いんだから、もうちょい気ぃつけろよ」夜風へ煙が流れる。
その言葉に、亜利亜は、パチパチと瞬きをした。
「……かわいい?」
「そこ反応するのかよ」
「先生、あんまり言わない」
「そりゃ、あの人そういうタイプじゃねえだろ」
苦笑いする大牙。
すると、背中越しに小さな笑い声が聞こえた。
くすくす、と。
大人の姿なのに、その笑い方だけ妙に幼い。
そのときだった。
「……あ」と亜利亜が呟き指を指す
「ん?」と大牙
亜利亜が指差した先には、古びたゲームセンター。
入口では、猫のぬいぐるみが大量に吊るされたクレーンゲームが、安っぽい電子音を鳴らしていた。
「……お前、ああいうの好きなのか?」
「ねこ」と答えにならない短い返事。
けれど目だけ少しキラキラしている。
大牙は思わず吹き出した。
「……子供かよ。お前ほんと猫好きだな」
店内へ入ると、電子音とネオンの光が一気に押し寄せてきた。
学生グループの笑い声。
コインの落ちる音。
煙草と埃が混ざったような空気。
その中で亜利亜は、クレーンゲームの前へぺたりと張り付く。
景品の隅に小さな白猫のストラップ。
「……あれ」
「欲しいのか?」
「ん」と子供みたいに素直な返事。
大牙は頭を掻きながら両替機へ向かった。
「しゃーねぇな。見てろ」
コイン投入。
アームが動く。
一回目、失敗。
「おしい」
「うるせぇ、今のは様子見だ」
二回目。
アームが白猫を引っ掛け、そのまま景品口へ落とした。
コトン。
「……!」
目を丸くする。
大牙は景品を拾い上げると、ぶっきらぼうに彼女へ差し出した。
「ほらよ」
「……すごい」
両手で受け取る。
その笑顔は、ネオンの光よりずっと眩しかった。
亜利亜は嬉しそうにストラップを指先で揺らす。
それから何を思ったのか、タブレットケースへその白猫を取り付けた。
カランと、小さな音が鳴る。
「これで、いっしょ」
「ん?」
「先生にもらったタブレットに、大牙にもらった猫」
そう言って、少しだけ誇らしそうに笑う。
そして、そのままぽつりと呟いた。
「……大牙、やさしいね」
その言葉に、大牙は妙に照れくさくなって、誤魔化すように煙草へ火をつけた。
赤い火が、夜のネオンへ静かに溶けていった。
少しずつ投稿していきます。




