第1話 「既読がつかない理由」
「……まだ、つかない」
画面を何度も更新する。
既読は、つかない。
送ったのは、たった一言。
『ごめんね』
それだけ。
たったそれだけなのに、
重すぎて、
軽すぎて、
どうしていいか分からなかった。
最後に会った日のことを思い出す。
「なんで分かってくれないの?」
彼は、少しだけ困った顔で言った。
「分かってるよ」
そう言いながら、
“何も分かってなかった”。
それが分かったのは、
帰り道だった。
「……あ」
涙が出たのは、
その時だった。
遅すぎる。
いつもそうだ。
ちゃんと伝えればよかった。
ちゃんと聞けばよかった。
でも、
その“ちゃんと”は、
いつも終わった後に来る。
「……バカだな、私」
スマホを握る手が震える。
送るか迷った文章は、
何度も消して、
何度も書いて、
結局、
『ごめんね』
になった。
既読は、つかない。
「……まだ怒ってるのかな」
違う。
多分、
“もうどうでもいい”んだ。
それが一番、怖い。
怒ってくれた方がいい。
責めてくれた方がいい。
その方が、
まだ、そこにいる気がするから。
でも、
既読がつかない。
それはつまり——
「……終わってる、ってことか」
その時、ふと気づく。
最後に会った日、
彼は言っていた。
「俺さ」
少しだけ、寂しそうに。
「ちゃんと話したいんだよね」
“ちゃんと”
それを、
私は——
避けた。
「……あぁ……」
やっと分かる。
既読がつかない理由。
“もう、話すことがないからだ”
その瞬間、
スマホが震えた。
「……っ!」
画面を見る。
通知。
でも、
それは彼じゃなかった。
別の誰かからのメッセージ。
既読は、つかないまま。
その画面を見つめながら、
私は初めて、
“終わった恋”を理解した。
(第2話へ続く)




