第99話 第三者から見て、配信日の反応は
ドミノ・パンはその日を待っていた。
見ようによっては、『弟子』とも言える彼女の門出。
落合万智子こと、『三ツ星さーや』の商業デビュー作品の配信日。
原作は偶然とは言え、旦那の落合覚が手掛けた商業書籍。編集が狙ったわけではないにしても、そんな奇跡みたいな偶然なんて普通はあり得ない。
打診もだが、よく話し合った上で機密情報が漏れないように、ふたりとも頑張ったのだろう。
電子配信がスタートなので、一話目は無料。二話目以降は、先行配信されているがすぐに読みたい場合は課金などのシステムで閲覧が可能となる。
商業デビューしているドミノはその仕組みを既に自分の作品でも経験しているので、すぐに読み始めた。さーやのオリジナルではないので、少年向きの作品だが仕上がりはどんなのか。
話によると、今回はアシスタントを雇わずにひとりで手掛けたらしい。初の商業デビューということで、自分なりに調整してそうしたのだろう。今はドミノのアシスタントにも復帰しているが、無茶はしてないらしい。
「ほぉほぉ。異世界ファンタジーもの? んでもって、ガッキー先生の作品だから、グルメ系か!! さーやちゃんの描写きれいだから、美味しそうに見える!!」
告知があってからも、自分の仕事で手いっぱいだったために原作を読まずに挑んでみた。
拙い描写はもちろんあるものの。さーやは同人誌でそこそこ売れているために、作画はなかなかのものだと思っていたけれど。あれは基本女性向けだが、男性向けの今回の作品も悪くない。むしろ、タッグを組んだことで、お互いのいいところを引き出せているのではと実感するくらいだった。
「配信日初日だから、チャプター少ないなぁ。もっと読みたいけど、仕方ない!! 来週待つか~」
あっという間に読み終えたので、評価をつけてから画面を閉じた。面白い作品は次を読ませたくなる引き際は編集者の手腕。それがよく出ているので、ドミノもこの作品にハマりそうになってしまった。
「……小腹空いたな。なんか作るか?」
今日の仕事はだいたい終わらせていたので、半分休暇日にしていたが。さーやたちの作品を見ていたら、グルメ関連だったために胃袋を刺激させられた。なら、せっかくなのでインスタント食品ではなくて、ちゃんと作ろうと冷蔵庫などの中身を確認してみることに。
「う~~ん? 昼も軽めに食べたし、お菓子作るか??」
主婦としての腕前は、ごく普通だと思っている。クッキーもゼリーも作れなくはないが、どちらも寝かせたり固めるのに時間がかかるので却下。もう少し、手軽で簡単につくれるものはないか。
久々にレシピのアプリを開いてみたら、『蒸しプリン』がヒットしたので作ってみることにした。ちょうど、プリンがさーやたちの作品にも登場していたので食べたかったからだ。
材料は、
冷たい卵
牛乳
グラニュー糖
砂糖
水
お湯
まずは、砂糖と水を鍋に入れてくるくる回すようにしながら温めていく。ゴムベラで混ぜないのがコツらしい。
「ここで、温めすぎると焦げるから……」
薄い茶色が出てきたら、火を止めて予熱でくるくるまわすとさらに茶色が増していく。お湯を少々入れ、鍋でさらに回していったら完成。マグカップなどにわけておくときに、旦那の分も作るかとカップをひとつ増やした。
次に、卵液。
「卵を泡立てない程度?にほぐす??」
気泡が出ない程度にかき混ぜればいいとのこと。ざっくりした説明文ではあったが、そこは完全なプロのレシピでないから気にしない。
牛乳と砂糖を入れた鍋を加熱し、ふつふつしたら止める。吹きこぼれると大変だから、強火にしないのも注意点のひとつだった。これを卵の中に少しずつ加えて混ぜていく。泡立ててはいけない。
「えーっと? ザルで濾しながらマグカップに入れて」
全部注いだら、アルミホイルで蓋をする。フライパンに入れて、マグカップの四分の一くらいまでお湯を入れて蓋をしたら10分加熱。その後火を止めて15分蒸す。
「蓋を開けて、竹串で卵液が沁み出してこなければ……完成」
ここで本当なら数時間冷やしたいところだが、三つあるし、ひとつはすぐに食べたい。出来立てプティングと思えば……と、ほかのふたつを冷蔵庫に入れてから食べてみることにした。
「あ、結構美味しい……」
材料は割とシンプルだったが。
工程をそれなりに注意しただけでも、しっかりと固めのプリンに仕上がっていた。
冷たくした方がもっと美味しいだろうが、これはこれで満足。小腹を満たすにはちょうどいいし、甘いもので疲れた頭を癒すのにもよかった。
「……さーやちゃん。いい作家になるだろうな~」
今日から、同じ畑の漫画家として正式にデビューを果たしたのだ。
仕事が増えてくれば、こちらのアシスタント業務を離れることにはなるだろうが、それはドミノにとっても嬉しいことなので気にはしない。
短い期間でも、師匠のような立場であったし、弟子の門出を祝う意味で今日の課金も有意義な使い方が出来た。
今頃、覚の料理かなにかで祝われているだろうが、少しばかり羨ましいと思ったのはあくまで友人として。昔、覚が差し入れと称して作ってくれたマドレーヌとかが美味し過ぎたので、彼の腕前を知っているからだ。
次回はまた明日〜




