第98話 配信祝いに、背徳のガリバタチキン
『三ツ星さーや、コミカライズデビューします!! 原作は高垣朝人先生ですよ!!』
SNSなどに、ようやく告知許可をいただけた万智子。
佐伯から、告知の注意事項を受けてからつぶやくところから順に告知をしていくと……まずは相互フォロワーのみぃたんを筆頭に『おめでとう! やっとね!!』などと、商業作家への第一歩を踏めたことについてお祝いのリポが多数寄せられた。
それに乗じて、新たなフォロワーが増えたり、いいねやリツイートも増えたりと。
書影はまだなのに、このお祭り騒ぎは……さすが、覚のプロ作家の人気度も高いからか。もしくは、嘘でもなんでもいいけど『夫婦連携有り?』についてのツッコミが止まらないせいなのか。
『さーや!! 同人活動が静かだったってことは、こういうことだったのね!!?』
すぐに通話を寄越してきた千郷にどこまで話していいのやらと悩んだが。無難なところでいいだろうと、必要最低限の情報を開示することにした。
「うん。去年からお話いただいて……さとくんの作品なのは、本当にたまたまだったけど。内緒にしてたのはごめんね?」
『何言ってんのよ? 守秘義務ってのは家族以外の部外者の方が広めやすいんだから。無言にしてて正解よ。私も結構びっくりしたけど』
「あ、りがと」
『書影出来たらまた盛大に拡散してあげるから、頑張ってね?』
「あ、うん」
もう書影は既に出来ているのだが。公式による転載予防策がまだなので、SNSでは公開出来ていないだけ。覚も見ているだろうが、今はまだ仕事中だからすぐに返事がない。
と思っていると、SNSの画面に通知が出てきた。
『夫婦としての共同制作となります。よろしくお願いいたします』
律儀な文章だったが、なんとなくはしゃいでいるのは察せられた。三年目とはいえ、夫婦だからわかるようになってきたというべきか。
千郷も同時に見ていたから、向こうでけらけらと笑っていた。なにかつぼったのかもしれない。
「……みぃたん、大丈夫??」
『いや……ま、まあ? 兄さんが生真面目に打っているつもりだろうけど!! 絶対、にやけた表情のはずだわ!!』
「……まあ、そうだね」
紹介してくれた千郷がつぼるくらいだから、万智子の予想もやはり間違いではなさそうだ。正式な配信日まで、あと一週間。
各電子アプリやサイトを介して、万智子たちの作品が公開されていくのだ。
どんな反応が来るか。
どんな読み手が購入してくれるのか。
万智子は事実上、無名の新人なので覚の肩書に乗らないとうまく軌道に乗ることはない。絵柄やタイトルだけで気になって購入してくれるユーザーもいるだろうが。紙と違うのは、店頭に並ぶわけではないので……膨大な作品数から『これ』といったものを選ぶ仕組み。
もちろん、出版社側も広告を出すのにいくらか策を講じているだろうが。……すべてが、受け入れられるかどうかなんてやってみないとわからない。
まだ連載の序の口のストックを作れたばかりでもある。
残り、四話となったので。契約の都合で話数が増えるのは配信日からの初速次第だ。
そこだけは、万智子と覚がいくら頑張っても勝手には決められないから仕方がない。
「ただいま~」
千郷との通話が終わってから、軽く家事をこなしているともう覚の帰宅時間になっていた。
出迎えに行くと、何故か両手を大きく広げて待機しているので中には入って来ない。
「どったの?」
「ん? わかんない?」
「……ん~~? 昼間の告知?」
「の、祝い! ね、ハグさせて~」
「ここで?」
「想いがあふれる前に!!」
「……はいはい」
なんだかんだで、外ではしゃぐのは我慢してくれていたようだ。
掃除道具を床に置き、とことこと近づけばすぐにぎゅーっと抱きしめられる。少し痛いくらいだったが、それだけの嬉しさが込み上げてくるのは万智子もわかっているので甘んじて受け入れた。
「一年、待った甲斐あったね?」
「まだまだこれから、だけど……」
「談義は出来ないけどさ? 連載続けられるように、俺のチェックも厳しくしてくよ?」
「うひゃ~。頑張る~~」
と、ハグしながらの会話はここまで。
そろそろ祝いの料理を仕込まなくては、お互いが腹ペコになってしまうからだ。
明日は土曜。つまりは休日なので、覚もエチケットを気にせずに食べたいものを作るらしい。
「今日はガリバタチキンを作ろうと思うんだ」
「ん? 焼くの??」
「それでもいいけど。今日は煮込み料理に近いかな?」
「ほ~?」
ご飯はまだ炊けていないので、その残り時間に合わせて作るそうな。
鶏もも肉。
にんにく(すりおろし)。
バター。
醤油。
みりん。
酒。
砂糖。
たったこれだけで、メインの『ガリバタチキン』なるものを仕込む。
作り方はシンプル。
鍋に材料を全部入れて、蓋をして中火で煮込む。途中ひっくり返すのもコツ。
煮汁が少なくなり、とろみがついたら完成。肉は食べやすいように薄くカットして盛り付けられていく。
「米と合うこと間違いなし!」
「照り焼きチキンにも見える!!」
「それの、にんにくとバターで背徳的な味わいになっているんだ」
「わーい」
ほかにも小鉢になるような常備菜を用意してから、手を合わせた。
「「いただきます」」
薄くスライスされたことで、食べやすい大きさにはなっているが。味わいは如何なものか……万智子がかじりついてみると、ひと口頬張っただけなのに次の手がお茶碗へと伸びていた。
それは覚も同じで、すぐに米をあとから口に運んだら。
「甘辛い~~!! ニンニクとバターにこの味付け最高!! ご飯にもかけたい!!」
「丼にしてもよかったけど。あとでデザートあるからね?」
「そうだった……!!」
ハグのときに、一応気遣って靴箱の上に覚が置いてくれた箱。その中には、ホールではないがふたりで食べきれる量のカットケーキが入っていたのだ。今は冷蔵庫でスタンバイしてもらっている。
「煮汁もったいないから、明日はこれでパスタ作るか?」
「絶対美味しい予感~~」
「もっとお食べ~~?」
「食べる食べる~~」
ささやかなお祝いだが、腹はとても満たされて表情も緩み切った笑顔になるのは無理もない。
宣伝というスタートを切ったので、もう周りを下手に気遣う必要はないが。それでも、まだまだ有頂天になってはいけない。売れっ子になるかはともかくとして、それなりに読んでもらえる作品になるのはこれからだ。
だけど、今は。
ふたりの悦を壊す障害はないから、遠慮なく食事ではしゃぐくらいは許されると思い……互いに、笑顔を見せ合いっこしていた。
次回はまた明日〜




