第90話 今年はやりましょう、鏡開き
覚の母、峰子が『丸餅ならせっかく』と、いっしょに送ってくれたものがある。
それは、『鏡餅』。になるような上下大きさの違う丸餅だ。
載せる籠みたいなのとか、飾りとか蜜柑は特に用意していないが。コピー用紙の上に落とさないように置いて、眺めやすい位置に置くだけ。
「神さんへの供え物だからね?」
と、テレビ通話のときに教えてもらったので、神棚はないがそういう扱いにしておくことにした。
しかし、供え物ではあっても、一応は食べ物。
時期がくれば、食べるしかない。
しかも、餅は下手するとカビる食べ物だから余計に。
「ということで、今日は『鏡開き』をしようと思います」
「かがみびらき??」
「あんま知られてない行事だけど。鏡餅を割って、お汁粉とかおかきを作るんだよ」
「全然知らなかった……」
「最近だとマイナーな行事扱いになっているしね? 俺も鏡餅見るまで忘れてた」
「けど、包丁じゃダメなの?」
「縁起が悪いから、ダメ。木槌が基本だけど、消毒したハンマーが無難かな?」
「ふむふむ」
切るのはダメ。
割るのは、縁起にかなう。
今まで、そこまで行事について知ろうとしなかったため、まだまだ知らないことだらけだ。と言っても、覚がいなければ万智子も知ろうと思わなかったが。
「そりゃ!」
新聞紙を敷き、コピー用紙の上に飾っていた鏡餅へ、ハンマーを盛大に振り下ろす。
亀裂が入っただけで、すぐには割れないそれを覚はコンコンと叩きながら大雑把に割ったり細かくしていく。
細かくしたのと仕分けたら、大きいのはトースターモードで焼き餅にしてくれた。
「おお! ぷくっとふくらんだ~」
ちらっとのぞき込むと、万智子の目には正月のお雑煮で食べたようにふっくらとふくらんでいたのだ。
その間に、細かくしたのはジップロックに入れる。覚は、今日のために買っておいたゆであずきの缶でお汁粉の仕上げを始めた。
ふたりとも甘党なので、通常のよりは少し砂糖を多めに。しかし、塩で味を引き締めるとより一層甘くなるらしい。この相乗効果は何故なのかは覚も詳しくないとかでわかっていない。
「はい。出来た」
「はっや」
「一から作ったわけじゃないしね?」
焼けた餅に、たっぷりの汁粉を注ぎ。
口直しにはきゅうりと白菜のお新香。
甘いものにはしょっぱいのも欲しくなるのも、また摂理?と言えようか。
覚が常備菜に作っている一部が今回の引き立て役になっただけだが。
「「いただきます」」
まずは温かい汁粉の部分から。くぴっ、とひと口すするだけで、濃いくらいの甘さにほっくりとした豆の食感。好き嫌いはキノコとこんにゃくの万智子だったが、苦手な食材としては豆もそのひとつだった。
だけど、いつのまにか克服したのかでお汁粉とかなら食べれるようになっていたのだ。と、今日改めて気づく。覚が作ってくれたお陰があるとしても。
「あんまぁ~い。お餅も香ばしいとこがしんなりしてて、美味しい~~」
「汁の部分変えただけで、全然別もんだよな。餅の食感って」
「ね? ……お新香、合う! しょっぱさがちょうどいい~~」
「クルミとか塩こんぶでもいいっちゃいいけど。どっちもなかったからさ~」
「え、そう? 気にしてないけど」
ぽりぽりした食感と適度な塩気に酸味。それがまた、甘過ぎる汁粉のあとに食べると抜群に引き締まると今日理解してよかったと思うくらいなのに。
万智子の反応を見て、覚は『そっか』と苦笑いしてくれた。
「それなら、砕いた方のでおかきもしっかりつくらないとな~」
「おかきって、塩とか醤油??」
「それもいいけど。のり塩とかチーズとか。今時のフレーバーもあるっちゃある」
「おお! いいねいいね!!」
と言っても、今日出来るわけではなく。もっとしっかり乾燥させてからでないと出来ないらしい。
水気が少しでも残っていると、膨らみにくいとか食感が悪いとか理由があるとか。
それから、風通しの良い場所に新聞紙を広げ、砕いた餅を乗せておくこと数日。
芯の部分まできれいに乾燥出来たら、レンジで加熱するといびつな形だがぷくっと膨らんできたのだ。
「揚げてもいいけど。レンチンの時短でサクサクするのも捨てがたいんだよね?」
塩胡椒。
醤油。
のり塩。
チーズ。
砂糖醤油。
のフレーバーを用意してくれた覚は、皿にそれぞれまぶしたおかきをセッティングしたら満足気な表情になっていた。
「わーい。おかきパーティー!」
「飲むアテにもいいけど。まだ昼間だから、今日は玄米茶で」
「異議無し」
どれにしようか悩んだが、まずは、とチーズをひと口頬張れば。
予想以上に、サクサクした食感と同時にスナック菓子に多いあの濃い味付けが口いっぱいに広がっていく。手作りな分、余計にアンバランスな粉の配分がマッチしていると思えるほどに。
「ん。芯からキチンと乾燥させて正解」
「美味しい~~!! これ、ほんとに手作り?って感じがする~~」
「餅を無駄にしないために、ちょっと手間はかかるけど。美味いな~」
「毎年の楽しみになるね!」
「! そうだね。毎年、やろっか?」
「うん」
その約束は、まだまだ先に続くからと、覚も笑顔になってくれた。
なんてことのない発言でも、万智子は覚の笑顔をたくさんみたい気持ちが……式を乗り越えたあと、少しずつ望むようになってきた。
愛おしい、という感情は、結ばれたあとからでも増えてくるんだと実感するほどに。
次回はまた明日〜




