第89話 新年明けまして、雑煮の談議
「「明けましておめでとうございます」」
結婚式をしてから、最初の正月。
実家への帰省については、今年は無理ない範囲でということで自宅でのんびりゆったりと過ごすことにした。富山の方は、敏也たちがいるし。愛知の方は、母の由美が無理しなくていいと言うからと……どちらも、テレビ通話で簡単に済ませた。
別に仲が悪いと言うわけでもなく、時代の流れとも言えようか。
わざわざ、短期間に無理をしてまで帰省するのも大変だからと気を遣ってくれたのだ。
「掃除も無事に終わったし、のんびりだねぇ?」
「そだね? お互いの仕事も急なのないし」
初詣も無理せず、家でただのんびり。贅沢極まりない時間だが、正月の三が日くらいは仕事も趣味も少しは忘れたい。
けれど、お腹は空くので、そこは事前に予約しておいたおせちをつついたりしている。そこに添えてあるお雑煮は関西風の澄まし汁仕立てだ。万智子に合わせて、覚がつくった逸品である。
「お餅は去年お義母さんが送ってくれたし」
「野菜はそっちのお義母さんのだしね?」
「もち菜がないの、愛知とか出るまで知らなかった」
「金時人参も、関東じゃ見かけにくいしね?」
「ね」
代用するとしたら、
小松菜(もち菜の代わり)
人参(金時人参の代わり)。
あとは、サトイモの水煮に餅。それを白だしベースの澄まし汁でつくったのみ。
鰹節たっぷりとか、昆布とかできちんと出汁を取った方が美味しいものだとは思うが。
時短関係なく、無理なく美味しいご飯を食べれれば祝い事についても良しとした方がいい。
でないと、年末まで掃除で疲れた身体を労われないから。
そんな覚の言い分は最もなので、万智子もこの美味しい雑煮に舌鼓を打っているのである。
「富山とか石川だと、板の餅が多かったな~。マチちゃんが頼んでくれたから、丸餅が食べられるし」
「雑煮には丸餅が普通だと思ってた。愛知というか、おかんの地元がもともと大阪だしね?」
「京都含めて、関西は丸餅が多いんだろうな? そりゃ、家の文化だからしゃーなし。けど、食べやすいな~」
「冷凍して送ってもらったの。まだあるしね? 明日もこれ食べられるなら、二個でもいける~」
「朝昼晩、毎回雑煮は胃が疲れるからな……」
餅はもちもちしているから、胃の負担を考えると眠くなってしまうらしい。
甘い味付けとかしょっぱい味付けのときも、食べ過ぎたら同様のことが起きるとかないとか。覚も万智子も、そこはうろ覚えでしかないため気を付けている程度。
「関西というか、京都の味噌雑煮とか食べたことないな~」
「味の想像はつくけど、白みそだったから甘じょっぱいんじゃない?」
「西のどっかは、あんこ餅の雑煮もあるんだよね?」
「香川あたりだった??かな? 四国ら辺にあるらしいけど……正直、食べたくないな」
「甘そう……だもんね。味噌とちがって」
「混じって、味噌味もあるらしい……」
「……カオス?」
「かもね? 俺は無難に澄まし汁の方がいいな。めんつゆっぽいのもいいけど、白だしも悪くないね?」
「うん。うちはずっとこれだったから」
みょーんと、餅を伸ばしなら食べつつ、昔を少し思い浮かべてみる。
父親が健在だった頃は、三人で黙々と食べていたような気がした。病気持ちとか関係なく、父親も正月には普通に雑煮を食べていたはず。
もう十年以上昔なので、うろ覚えでしかない。
だが、悪くない時間だったと思う。お年玉はともかくとして、一家団欒の優しい時間がたしかにそこにあったから。
「うちはこういうのに、魚入れてたな?」
「え? 魚??」
思い出を振り返っていたら、間に覚が自分の家の雑煮事情を持ってきたのですぐに霧散した。
「ブリとかだったはず。アラとか安く手に入るから、それの霜降りしたのが入っていたんだよ」
「……美味しいの??」
「まあ、普通には? 鍋だと思えば、不思議じゃなくない?」
「あーね。たしかに、汁物というか鍋っぽい具材だし」
そうなると、沖縄の方では豚肉とかでも入っていそうだ。
調べたことはないが、魚がありならそんな気がしなくもない。
二杯くらい雑煮を食べ終えたあと、片付けをしながらどうしようかと顔を合わせたが。
ただ、だらけるのもよくないからと、軽めの散歩も兼ねて近所の小さい神社へ初詣に行くことにした。
「小吉……」
「お、中吉~」
挨拶のあとに、御籤を引いたが、それぞれまあまあの結果。
内容は商売に関しても無難なことが書かれていたため、お守り代わりにとそれぞれ財布に入れて持ち帰ったのである。
今年もまた、万智子たちの日常が始まるのだった。
次回はまた明日〜




