第86話 時短鍋と言えば、『ミルフィーユ鍋』
クリスマス間近。
今年は結婚式もしたということで、来年に向けての貯蓄を優先すべく……大きな行事では出費をし過ぎない。
まだまだコミカライズ配信の時期は決まっても、仕事が終わったわけでもないから積極的に同人活動もアシスタントの業務も増やし過ぎてはいけないから。
ひとつひとつ、出来ることをするまで。
なので、万智子は覚と協力して『時短レシピ』を実行することにした。
「材料はこれだけ」
「……これだけ??」
目の前に用意されたのは。
白菜ひと玉。
豚肉のスライス二パック。
鶏がらスープの素。
水。
これだけで、時短かつ美味しい料理が出来ると言われても信じられないのも無理はない。
万智子は、まだまだ料理初心者なので、頭でイメージしろと言われても無理があるのだ。
「『ミルフィーユ鍋』って聞いたことない?」
「……どんな鍋?」
「ミルフィーユみたいに、層をつくってから鍋に並べて。出し汁注いで煮込めば完成。つけダレはゆず胡椒とかポン酢が一般的かな?」
「ううん~~??」
「まあ、作ってみようか?」
覚が芯とかを取り除いた白菜を用意してくれ。
万智子はまず、白菜と豚肉をサンドしていくとこを教わる。肉一枚を挟むのは寂しいので、そこは二枚だったりとケースバイケース。
肉を全部挟んだら、覚が見守る中でそれを包丁で三等分くらいにカット。これくらいでは、指を切るとかはなかった。
「……並べたら、たしかにミルフィーユに見えてきた」
ピンクと白に緑。
それだけなのに、覚が言ったように『ミルフィーユ』が出来上がったのだ。まだ正確には調理途中なので、ここから煮込まなくてはいけないけれど。
「このレシピのいいとこはね。コスパだけじゃなく、洗い物も楽!」
「あ。まな板と包丁以外、鍋だけ?」
「あとは茶碗とか器も少ない。んで、なにより美味いんだよな~。冬につくるミルフィーユ鍋」
「……もしかして、飲むの?」
「ビールもいいけど、日本酒も合う」
「……私は、明日イベントだからやめとく」
「そだった……」
「別に、さとくんは飲んでいいよ?」
いつも、万智子を優先してくれているので、たまには自分の好きなように食べていいのに。
と思って、口にしたのだが覚は何故かめちゃくちゃ悩んでいた。出し汁投下後、煮込んでいる間もずっと考えていた。万智子がその間に片付けをしても気づかないくらいに。
「……俺も、飲まない」
「いいの??」
「ひとり飲んで、あとでマチちゃんとのんびり出来ない方が嫌だ」
「ああ。さとくん、酔いやすいもんね?」
「酒は好きなんだけどさ?」
へべれけになることはあまりないが、疲れているとベッドに勝手にインして寝てしまう癖がある。まだ可愛い酔い方だが、外では飲酒を控えているのはそんな酒癖があるせいなのだとか。飲み会でも、いつも烏龍茶くらいで済ませているようだ。
鍋は煮込みが完了したくらいに蓋を開けてみると、白菜が半透明になって肉に火が通り、さらにミルフィーユと言える仕上がりになっていた。ふんわり香る出汁の匂いですぐにでも食べたくなってしまうほどに。
「「いただきます」」
準備が整ってから、箸を鍋に向け。
適量取ったら、熱いがポン酢につけて口に運んでいく。
あふあっふ、と、口が上下に動いてしまうけど……それだけ、の熱さが気にならないくらいの美味しさが広がる。
白菜はしんなりしつつも、とろとろした部分もあり。肉は脂身が多いけれど、ポン酢のおかげでさっぱりとした味に変化していく。
シンプルなのに、超豪華。
そう言えなくもないくらい、美味しい鍋だった。突いても、まだまだ鍋に具材はあるのでほとんど食べ放題に近い。
「ん~~!! こんな鍋、もっと早く知りたかった」
「あーね。時短だけど、少し凝りたかったから忘れてたくらいだし?」
「無理してない?」
「してないしてない。原稿の方も、最近量は調整しているし?」
「誤魔化してない?」
「……だって。マチちゃんの食べ顔、保存したいくらいのいい笑顔だし」
「む~。ゆるゆるの変な顔じゃない?」
「俺の奥さんがそんなことあるわけがない!!」
「誇張し過ぎ!?」
中身を全部さらったら、〆にはゆでのきしめんを白だしを足して味付けし直したものになった。
これもまた美味し過ぎて、リピートしたいくらいの出来栄え。
ひょっとしたら、覚の実家方面の氷見うどんでも出来るかもしれないと思い、また通販しようとお金の使い道も少しは考えてみようとした万智子だった。同人誌購入もいいが、日々の生活の潤いにもう少し貢献したいくらいに。
次回はまた明日〜




