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流行りの婚活したら、旦那の料理が美味しすぎた〜時短レシピに胃袋掴まれた同人作家嫁の日々〜  作者: 櫛田こころ


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第83話 準備整いまして、息抜きにお菓子作り?

『では、電子配信開始は春先を目処に』

「わかりました……」



 佐伯との通話が完了したあと、万智子は通話ボタンをタップして軽く息を吐く。


 メールでもよかったのだが、原稿の仕上がりと軽い打ち合わせもあったので通話が必要だった。そして、連載の時期がほぼ決定ということも教えてくれたため……この件は、おそらくこのあと覚にも連絡がいくはず。


 なにか、なにか祝いたい。


 簡単に出来て、かつ、覚にも喜んでもらえる何か。


 絵を描くことで、表現することは可能であっても……今回の場合はそれだけじゃ、足りない気がしたのだ。


 豪勢とは言わず、ささやかなものでもいい。時間的に、そろそろ覚が帰宅する時間でもあるので買い出しは難しい。なら、家にあるもので、なにか出来ないか。冷蔵庫を見てみると……常備菜がほとんどと、ご褒美おやつに近いプリンやアイスがあるだけだった。



「う~~ん? なにか、出来ないかな?」



 ご飯の支度は、米を炊いておくことはもう日常化しているので問題はない。


 かと言って、まだまだ料理初心者の万智子に、少ない材料でアレンジをするなんて以ての外。



「ただいま~」



 考えに考え込んでいたら、冷蔵庫を開けて電気代をもったいなくさせているだけだと、慌てて閉めた。


 それを間近で見ていたため、覚が不思議がるのも当然だと振り返ればきょとんとした表情とぶつかった。



「……開けっ放しにしてごめん」

「いや、いいけど。……腹減った?」

「……ちょっと、違くて」

「ん?」

「……佐伯さんから、メール来てない?」

「ちょい待ち? ……ああ、なるほど」



 ちょうどよく、コミカライズ配信決定のメールが届いていたのには安心できた。


 これで、少しは情報共有がしやすい箇所が増える……と、万智子は懇願する勢いで覚にしがみついた。



「お願い! 祝いたい気持ちはあるんだけど、何作って喜んでもらえるかわかんなくて!!」

「え、あ? ああ……それで、冷蔵庫とにらめっこしてたわけ??」

「音痴ではないけど。料理あんまり出来ないし……でも、デリバリーじゃなんか違う感じするし」

「ん~? じゃあ、ご飯あとにふたりで菓子作りする?」

「ひょ?」

「デザート。ふたりで作るのもありじゃね?」

「お、おぉ……」



 願ってもないことだが、それでいいのか。でも、覚が自分で提案してくれたのだから、いいのかもしれない。


 とりあえず、夕飯はふたりで作り置きにしていたミートソースを使った温玉ミートソースのスパゲッティにして。片付けを終えてから、覚は冷凍庫からなにかを取り出した。



「じゃじゃーん。少し前に、ふたりで推し活したときのウェハース」

「あ! ふぉーめんしょんシールの!!」



 有名菓子メーカーと、制作会社とのコラボになった『ふぉーめんしょんシール』。


 一応、玩具の菓子扱いとなるので、箱買いしてそれぞれの推しキャラのシールを出しては、はしゃいだものだ。ただし、代償として大量のウェハースチョコが冷凍庫に鎮座していて……アイスが買えなくなったのだ。



「これで、ケーキを作ろう」

「え? どやって??」

「必要なのは、バターと牛乳だけ」

「んん??」

「チョッパーで、まずはウェハースを粉々にするんだ」



 言われたとおりに万智子がチョッパーで粉砕している間。覚はバターと牛乳を湯煎で温める作業をしてくれる。


 この二つを混ぜ、以前買ったシリコンの型に流し入れて……予熱したオーブンで20分焼くだけ。


 物凄くお手軽なお菓子作りだった。



「これだけ??」

「ウェハースによるけど、しっとりしたスポンジケーキになるはずだよ。いや~、これで冷凍庫掃除も少し出来たね」

「……本音、そっち?」

「いやいや? ふたりで作れるんなら、こういうので良くない?」

「……いい、かな?」



 出来上がったケーキは、材料三つだけにしてはクォリティーの高いしっとりしたスポンジケーキになっていた。


 粗熱を取り、しっかり冷ましたあとにコーヒーを淹れて、少しだけ食べることに。ダイエットのときに、少しだけ根付いた『夜8時以降の甘味は控えた方が……』を気を付けているだけだ。



「「いただきます」」



 ふんわり、しっとりなパンケーキとも違うし、どっしり重いガトーショコラとも違う。


 見た目はイメージと裏腹に、軽い感触がフォークから伝わってきた。ひと口食べてみると、ふんわりしているのに……口の中で、さ~っ、と、溶けていく。


 はじめて食べたはずなのに、どこかで食べたことのある懐かしい味わいだった。



「不思議な食感なのに、懐かしい~」

「これ、サイトにあったレシピだけど。俺も昔大量買いしたときに世話になったんだよ」

「あーね? さとくんも、色々推し活してるもんね?」

「そうそう。アーティストコラボのウェハースんときは、マジで憤死するかと思った!!」



 祝いどころか、互いに推し活を語り合う『のんびりトーク』がメインになってしまったが。


 これはこれで、自分たちらしいんじゃないかと……万智子は、もうひと口ケーキを食べてみた。しっとり甘いケーキは癖になりそうな味わいで、コーヒーともよく合う。今後、また推し活があればこんな使い方でふたりで語り合うのも……同志としてもだが、夫婦としてもいいものだと思えるようになった。


 あと数か月で、配信開始となるコミカライズ。


 タイトルも改名されるため、それはお互いにまだ知らないままだ。

次回はまた明日〜

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