第79話 快気祝いに天津炒飯をば
あんな簡単な料理でいいのか。
覚は冷蔵庫の中身とにらめっこしながら、そんな感覚になっていた。
万智子のリクエストである、『天津炒飯』は文字通り、天津飯と炒飯を合体させたような料理。
某有名中華のチェーン店では基本的なメニューのひとつだ。それを再現したようなレシピが、覚愛用のクックサイトに記載されていたため、覚のような一般人でも作り方はわかる。
(炒飯は、各々の好みで。天津の部分は関東風よりも関西風)
関東はケチャップ餡が普通とされているが、関西では醤油餡か中華出汁の餡。万智子はもともと愛知県の出身なので、関西風を食べていたことが多い。富山の覚ですら、上京するまでケチャップのは食べてこなかった。
そもそもが、日本で生まれた中華料理なため、今の中国に行けばあるとしても、炒飯に卵焼きと餡掛けをかける文化はもともとはなかったはず。
エビチリに冷やし中華も日本生まれの料理だ。焼き餃子はあっても、水餃子のあまりを翌日に焼くとも聞く。逆に、それに特化してこだわる店も探せばあるにしても、少数。
とにかく、手順さえ守れば『簡単』『温かい』『美味しい』がそろった料理を食べたいと万智子が言うのだから、覚は旦那としてそれを遂行するだけだ。
チャーシュー。
長ネギ。
卵たくさん。
ごま油。
醤油。
中華出汁(顆粒)。
お湯。
あったかいご飯。
塩胡椒。
水溶き片栗粉。
時短を意識するなら、炒飯だけは冷凍食品のでもいいのだが。快復してから、最初に食べたいご飯としてリクエストしてくれたので、一から作ることにした。
餡は先に小鍋でとろみがつくまで、火にかけ。
炒飯は材料を切ってから、順に炒めていく。皿に盛ったら、卵を器に二個割って『ふんわり卵焼き』を作っていくのだ。これには卵と油の使い方は妥協しいないこと。
(卵をふんわり焼くには、油たっぷりしないと出来ないんだよなあ?)
ケチると、かちかちの仕上がりになるため、ふんわり仕立てるには油が必須。これは、オムライスでも似たことが言えるので、あちらではバターとオリーブオイルを惜しみなく使うことをおすすめするくらい。
多少ぎとぎとになるものの、うまく焼くと艶やかな表面が食欲を掻き立てる。その油が、餡と混ざることで更なる美味を助長することも知ってはいるが。
(簡単過ぎて、おかずを余裕で用意出来るんだよな? 先に作っておいたけど)
熱々の餡が多少冷めるくらいが食べやすいので、同時進行で油淋鶏も作っておいたのだが。
帰宅してから、ものの三十分で調理可能なメニューだったため、少し拍子抜けしてしまうのも仕方がないと言うべきか。
今日の万智子の体調は、『ほぼ問題なし』とういことで、休憩を挟みながら少し遅れていたコミカライズの原稿を進めているらしい。帰宅する前にRINEで調子を聞いてみたところ、『大丈夫だよ~』と返答をしてくれた。
帰宅してからも、部屋を覗けば『おかえり~』と言ってくれたくらい。水分補給と昼ご飯とかはちゃんと食べていたのかで、ほっとしたものだ。
だからこそ、こんな簡単に作れる料理で元気を出してもらえるのか自信がなかったのだ。
「マチちゃん、出来たよ~?」
「は~い」
扉向こうに聞こえるように声をかければ。
もうお腹をぺこぺこにしてくれていたのか、少し疲れたような声での返事が。やはり、三日程度で快復は早い気もしたが……無理してないと本人が言うのを信じるしかない。覚も自分の原稿に打ち込み過ぎると、ついつい熱中してしまうのは同じだから。
「「いただきます」」
熱々のメニューに加え、いつもの常備菜を並べればそれなりにごちそうが並んで見える様だ。
万智子はさっそくと言わんばかりに、まずは天津炒飯からスプーンを入れてくれた。
口に運べば、やはり気に入った味に満足がいったのかで頬紅をつくるくらい喜んでくれたのである。
「やっぱり、これ美味しいよ~! 餡も優しい味なのに、満足感あるし!」
「中華風オムライスっぽい作り方だけどね?」
「ね! 卵もふわとろ~。これ、自分だとうまく作れないし~」
「油の量がえぐいけどね」
「油が多いの?」
「ふわとろのためにはケチっちゃダメなんだよ」
「へぇ?」
そうめんでの温パスタでは、そこまでふわふわの卵をつくるのは『湯の量』で調整ができるため、油の量と比較しにくいのかもしれない。
こればかりは、料理に慣れている人間でないとわからない。覚とて、母の横で料理をつくるとおころを見なければ基礎基本を覚えたりはしなかった。
姉はまだしも、兄は特に料理にこだわる人間じゃなかった。今はひとり暮らしだろうが、多分自炊はほとんどしていないはず。
同じ兄弟でも、男が料理をするようになったのは覚だけだ。美味しいものをどう作るのか、どんな味になるのか。小説作品を書く中でも、グルメものでよく取り入れたりしているが……覚の描くそれは、真似したくなるくらい美味しそうに見えるとよく言われるものだ。
今回、万智子と共作になるコミカライズにもグルメシーンはいくつか盛り込んである。今食べているものではないが、異世界ファンタジーなので転生した主人公が『日本食』を美味しそうに作る描写があるのだ。
それを、万智子がどう描くか。
ネームや下絵は見てきたが、そこまで下手なものは見受けられない。
まだ一話しか出来ていない清書も、悪くはない印象を受けた。
これが、世に出たらどんな反応が生まれるか。
風邪が完治したら、さらに原稿へ打ち込む時間が増えてしまうだろうが……あとひと月ほどで、ふたりの結婚式。それまでにどこまで進むのかも、覚個人としてはとても楽しみだった。なにせ、自分の奥さんが自分の作品を漫画にしてくれるのだから。
そして、作った料理はきれいに完食してくれたため、快復具合も心配なさそうなのを自覚出来て安堵したものだ。
次回はまた明日〜




