第73話 自重しつつも、豆腐ハンバーグ
どうしてこうなった?
と、万智子は覚の行動について疑問しか浮かばない。
今いるのは廊下。
お互いの部屋の扉の前くらい。
万智子が飲み物でも取りに行くかと、リビングへ行こうとしたら部屋から出てきた覚にバックハグされてしまった。
今日は休日なため、覚はWEB投稿の仕事をしていたはず。万智子は相変わらず休日返上のコミカライズ原稿を頑張っていたまで。
(なのに。どうしてこうなった??)
万智子の進捗具合を佐伯から聞いているだろうから、ここひと月以上……たしかに、スキンシップもいつもよりさらに減ってきたとは自覚している。
態とではなく、覚といちゃいちゃし過ぎると眠らせている同人活動への活力があふれてしまうからだ。それを覚にもちょっとこぼしたから、わかっているはずなのに……この行動が起きたということは、限界突破したということ。
とはいえ、真っ昼間から触れ合うなんて。まだまだ初心なとこがある万智子から行動を起こすことは難しい。
せめて、背中を預けることしか出来なかった。
「……わかっているんだけど、さ?」
万智子が体の力を抜いたあたりで、覚は肩に顔をうずめてきたため……どんな表情をしているのか、さらに見えない。だが、なんとなくわかってきた気がするので、その言葉を遮ることはしなかった。
「忙しいの、わかっているんだけど……ね?」
「癒しがほしい、と?」
「わかってんじゃん……」
「再起不能には、なりたくない……」
「加減するよ!」
「そう言って、前に半日も起き上がれなくしたの誰!?」
万智子が声を上げれば、必然的に覚も顔を上げたのか。こちらを覗き込むようにして顔を見せてくれた。半泣きしそうなくらい必死だが、結局のところ覚の欲求不満が大きいのだろう。
なにせ、普段は温厚な青年のようでいるが。実のところ『ロールキャベツ男子』なのだから。
「だって、マチちゃんが可愛すぎるんだし!!」
「……そこはありがとう? でも、スケジュール組んで仕事してるんだから。さとくんも我慢して」
「……なんで、俺の担当がこんな仕事真面目な人なんだ」
「……イレギュラーだとしても、担当になったんだから頑張るよ」
仕方ないので、久しぶりのほっぺにチューをしてみたが。すかさず、口を覆うところに発展しかけたので。そこは空いた両手で思いっきりつねって止めさせた。それでも力業ではかないっこないと分かってても、言い聞かせないと昼間から事に及ぶとかで爆発しかねない。
距離はかなり近づいていたが、ぎりぎりの力で引き留めたおかげか。覚はがっかりとした表情で我慢を決め込んだようだ。
「……わかった。そろそろ昼だし。仕込んでいたもんでご飯にしよ」
「ほいほい。そんな時間だったんだ?」
諦めてくれたのを確認してから解放し、一旦部屋に戻ってデータのセーブをしてからキッチンに入れば、覚はボウルを持っているところだった。
「たくさん食べても罪悪感の薄い、豆腐ハンバーグにしようかと」
「おお! ソースもいいけど。ポン酢とかもいいよね?」
鶏ひき肉と豆腐。その組み合わせだけでもヘルシーな志向を持たせてくれる名コンビ。
タネを覗いてみると、豆腐と肉の色だけじゃなく、ほかにも材料を入れたのか刻んだなにかが入っていた。
「これには、レンコン、にんじん、紫蘇を入れてあるんだ」
疑問が顔に出ていたのかで、覚はすぐに解説をしてくれた。おそらくだが、刻み道具のチョッパーを使ったのかもしれない。洗い場を見れば、片付けてあるのが見えた。
「さらにヘルシーな予感!」
「食感も兼ねているんだよね。食べ応えある感じに」
「ってことは。ソースはポン酢?」
「それに、梅を混ぜたものかな?」
「さらにさっぱりだねぇ?」
「秋だけど。別に梅干しは年中食べてもおかしくないし」
タネを仕分け、丸めたらフライパンで焼く。焼いている間に、常備菜のたたききゅうりを出して、汁物はお吸い物にするようだ。味噌汁でもいいかもしれないが、梅のタレをかけるのでさらにさっぱりしやすくなるからだろう。
なんだかんだ、さっきのハグは甘えたかっただけなのか。本当に欲求不満だったのか。
どちらにしても、どこかで発散させてやらないと面倒になることは間違いないから……食べ終えてから、考えてみることにした。
「「いただきます」」
ハンバーグはひとり二個ずつ。
ミニではなく、通常サイズ二個を出来立てで食べられるのだから。これは家で自炊する者の特権と言えるかもしれない。
手づくりの梅とポン酢のタレをかけ、熱いうちに口の中へ入れれば。
さっぱりとした味に続き、ジューシーな肉厚のハンバーグの旨味が広がっていく感覚が堪らない。
「豆腐がメインなのに、ジューシー! かさましとは思えないよ~~」
「うん。肉汁もうまく閉じ込めれたし。ふわふわ加減もまあまあ」
「……相変わらず、自分に厳しい」
「そこはね? お袋にはまだまだ敵わないし、姉貴とも張り合うつもりはないけどさ?」
「お義姉さん。料理結構する感じだったね?」
「けど、恋愛に無頓着なのかな? 男つくんないし」
「つくるって、言い方……」
「兄貴もだけど。姉弟で俺が先に結婚するとは思ってなかったしさ?」
「そんな意外?」
「上から順に、とか。昔は思ってたとこはあった」
「……なるほ」
万智子はひとりっ子なのでその気持ちはあまりわからないが。
生活力もあり、それなりに魅力はあるのによそ見をしていない。
落合家の家庭は少ししか垣間見ていないが、まだこれから知るべきこと。焦っても意味はないのだ。
とりあえず、添い寝だけは元に戻してあげようとしたのだが……次の日に、それは取りやめになった。覚が久しぶりのそれにデレデレになって、触りたい放題するから熟睡出来なかったのである。
なので、せめて納品すべき話数が出来上がるまでは、やはり別々で寝ることを再提案するしかない。駄々をこねても、スケジュール調整をこれ以上崩したくない真面目さは万智子の性格だから仕様がないのだ。
次回はまた明日〜




