第68話 義兄弟らと食事会
「「「はじめまして」」」
富山へ帰省した初日。
覚と結婚して二年になるが、ようやく義家族の姉と兄との対面が叶うことになった。去年の盆は仕事などで忙しいからと会うことはなかったが……見たところ、普通の男女だった。覚と似ていると言えば似ているし、そうでないとも言える顔立ち。
ふたりとも、それぞれ独身で交際相手も今はいないそうだ。だから、末の覚がある意味で一番乗り。唯一足りないのは、子どもがいないことだが……誰も、特にそこは気にしてないようだった。
「姉の美和です」
「長男の敏也です」
「……万智子です。よろしくお願いします」
堅苦しいやり取りだが、仕方がないと言うべきか。
末っ子が入籍した連絡はしても、結局二年近くも会わずでいたため、初対面からの付き合いになったのだから。
痺れを切らしたのは、義母の峰子。結婚式の費用は大層かかるのは仕様がないにしても、家族の対面くらいはさっさとしたいと子どもらに説教したそうな。特に、覚には。
(や~、まだショック受けてるもんねぇ?)
食事会は実家で。その方が気兼ねないからと、峰子と美和が調理してくれた食事はどれもが美味しそうだが。
食べる前に挨拶をしたら、まあ、美和と敏也からは凝視されまくっている。顔立ちについては本気で万智子は自信がないため、見ても何も得することはないとしょぼんとしていたのだ。
覚は、到着するなり峰子から大目玉を喰らい、万智子の横でいっしょにしょぼんとしている。それだけ、嫁が可愛いにしても兄弟たちに会わせない理由にはならないと、実母に叱られたからだ。
「とりあえず、食べなし。冷めたらいかんやろ?」
「そうね」
「んだな。姉貴の料理、久々」
「い、いただきます」
「……ん」
食卓には、万智子が去年から知って気に入った『氷見うどん』もあった。今回は細麺でざる仕立てになっている。
色々おかずも用意されているから、好きに食べれるのが嬉しい。会食とかだと、順番に料理が出てくるとかで緊張がほぐれないから。
ただ一点、万智子が苦手な食材を伝えていなかったため、手を伸ばせない料理があった。
「ん? 万智子ちゃん、茶碗蒸しいいの?」
「あ、だ、大丈夫、です」
美和に聞かれたので、『結構です』と、つい答えてしまった。
それぞれ半分くらい食べていた料理だったが、唯一、『椎茸』が入った茶碗蒸しには手を伸ばせない。色鮮やかな具材を引き立てる名脇役であれど、こればかりは美味しいだろうとしても無理だった。
「姉貴。マチちゃんは、椎茸無理なんよ」
「あ、そうなん? 先に言ってよ、除けたのに」
「あんら、ごめんね? 万智子ちゃんの苦手なもんやったん?」
「……覚。代わりに食ったら?」
「兄貴は相変わらず、そこ少食やね?」
「ちびちび食ってるだろ?」
これが落合家。
家族の団欒風景ではあるが、たしかに以前覚が言っていたように……可もなく不可もなしのコミュニケーションだ。
兄弟姉妹のいない万智子には、いとこらも中学以降は疎遠だったので一家団欒の感覚には疎かった。だが、覚が少し方言を出しつつも、姉弟につっかかる様子は見ていて新鮮だ。
「すみません。苦手なもの、言い難くて」
「そんなことないに? 私もこんにゃくとかダメ」
「え? お義姉さんも?」
「美和でいいよ。呼びにくいでしょ? あのぐにっ、としたとことかだめ」
「わかります。あと、変にざらっとしたとことか」
「玉こんとかも無理無理。こんにゃくゼリーだけは例外だけど」
「同じです」
「……共通点多いね?」
「かもですね?」
美和とは、少しだけ打ち解けれたのかもしれない。そう思うと、互いにゆるくだが口元が孤を描いた気がした。
「……義妹が姉貴と話せるとか貴重だな?」
もう食べれないのか、敏也は既に箸を置いていた。本当に少食にしても、体格はそれなりに整っているので意外な感じに見える。
「あんたも、ちょっとは興味もちなさいよ? そんだから、彼女出来ないんだし」
「妹出来たのと、彼女出来ないのは関係ないだろ? いいだろ~? 別に生活に不自由してないし」
「マチちゃん。茶碗蒸し、俺食おうか?」
「あ、うん」
姉弟仲が極端に悪いわけではないようだが。覚とはそこそこ歳の離れた姉弟だとこんな感じなのか。覚はいつものことだと気にしていないようだが、見ているこちらとしてはハラハラしてしまうものだった。
『気にしないで。これでもまだしゃべっている方だから』
茶碗蒸しを手にする前に、覚がこっそりとそう教えてくれた。なら、普段はもっと沈黙の多い食卓なのか。万智子という新メンバーが入ったということで、いつもよりはコミュニケーションを取ろうとしているのかもしれない。
あくまで、きっかけだけかもしれないが。
「まあ、いいけど。……万智子ちゃん、覚のどこがよかったん?」
「はひ?」
美和の話題が万智子の恋愛事情に移ったので、いきなりのことに変な声が出てしまったが。
それについては、覚も目を光らせて待ってくれていたため……無難な返答をどうすればいいのか、非常に悩んだが。
「こらこら、食事途中で長話になること出さんの。食後の羊羹のときに聞こや?」
「お……お義母さん!?」
「私も去年聞いてなかったから、聞きたいんよ」
「まあ、俺も興味あんな? 弟の嫁さん、可愛いし」
「若いし、肌艶もいいよねぇ? 化粧品なに使ってんの?」
「こ~ら!」
「「は~い」」
可もなく不可もなく、が盛り上がるきっかけになれたとは言え。
ロールキャベツ男子からの猛烈アピールがあったからとは言い難くて……覚の前でもあったから、『包容力高いとこ』くらいは無難に答えたのだが。
「「嘘だ~~」」
と、美和らが覚をけちょんけちょんになるまで、説教するスタイルがなぜか出来上がってしまったのだった。昔の覚はもっと違ったのだろうかと、万智子も少し気になってきたが……美和たちの説教にはなかなか口を挟めなかった。
次回はまた明日〜




