第67話 海釣りバーベキュー?
『一話の修正箇所も大丈夫ですよ。二話のプロットも確認しましたので、ネームよろしくお願いします』
と、佐伯からの連絡があり、ようやく……万智子にも夏休みが訪れた。
盆休みからの、今年は先に万智子の実家へ。
海寄りではあったが、潮風が心地いい時期に帰省することが出来た。
母は気ままな一人暮らしを満喫しているのか。まだ七十手前なので、のんびりとパートタイムは続けているそう。
動けるうちは動けるうちに。
それと、旦那が成人病で亡くなったため、食生活はほどほどに気をつける……そのせいか、体型維持はなんとかなっているらしい。時々は、友人や知人らとお茶をしたりするので、完全にストイックにはなっていないようだ。
「へぇ? あんたが漫画家デビュー?」
「で、俺の作品を漫画にしてくれているんです」
「そうなん? 万智子の絵がねぇ? 男の子向けなん?」
「まあ、そうだよ」
母に報告と言えば、やはりコミカライズについて。明確な詳細については言えないが、このくらいの情報は開示してもよいと佐伯からも許可を得ているので伝えたまでだ。完全に無職でなくなったのはアシスタント業務の時点で伝えたりもしたけれど。ちゃんとした商業化になるのは今回が初だから、情報開示も少し慎重になっていたのだ。
大阪出身の母は、言いたいこを全部他人に打ち明けたりはしない性格でも……やはり、おしゃべりは大好きなため、知人友人に打ち明ける可能性が高い。
とは言っても、それなりに大人なのでわかってくれるところが多いが。
「頑張りぃや? 私から言えるのはそんなけやんな?」
「もちろん。頑張るよ」
親子間でこの程度の会話で済むのなら、公表される時期になってから他所に言えるかどうかを考えてくれるはず。
それでも、まだ半年から一年近くかけての大作業だ。その間に、覚との結婚式も出来ればしたいと思っているので……可能な限り、作業には没頭したい。
今日明日はここで寝泊まりするのだが、ただの帰省のためだけにやってきたわけではないのだ。
万智子が、覚にはどうしても経験してほしかったものがあって、わざわざ関東から車を飛ばしてもらうように頼んだ。
養殖場だが、海釣り体験ができる釣り堀が近くにあったりする地域。そこで購入制限はあるが、『バーベキュー』をしたかったのだ。
「俺も富山の人間だけど。海沿いの人間じゃないから、こういうのはないなあ?」
「私も、ちっちゃいときにお父さんとかに連れてってもらった以来だよ? 最近リニューアルしたんだって」
鮮度はともかく、寿司よりも浜焼きが多い地域だったため、昔はそこまで好きではなかった万智子だが。
帰省するなら、たまにはいいのではないかと。覚にも体験してもらえたらな、で、提案したら頷いてくれたのである。釣り堀で釣ったものを購入したら、併設しているバーベキュー会場で浜焼きにするシステム。残りは持ち帰るので、レンタカーだと臭いがつくから自家用車できたわけで。
母にも軽くお土産ついでに買っていけば、今晩の夕食の足しくらいにはなるだろうと思ったのもある。実際、提案してみたら『久しぶりに奮発しようかしら?』と費用の一部を提供してくれた。
「おーおー。魚影とかちらほら」
「貝類はあっち」
「網で捕獲か。こっちはアジ、タイ、イワシ……」
餌をつけて、竿で釣れば……入れ食いではなくても、それなりに釣れ。
大きなタイとかは職員に預けておく。帰宅したら、母や覚に調理してもらうためだ。
「お! まただ!!」
「いいね、マチちゃん!」
タイは二匹くらいだが、アジとかは十を超えそうだったので……食べきれる範囲で逃がしたりして、残りは塩焼きとなめろうにすることに。なめろうは、帰宅用に回したのでもちろん預けた。
浜焼きには、貝や塩焼きできるものを選び。会場で思い思いに焼くことにしたら、それなりに豪勢な仕上がりになった。
「「いただきます」」
塩焼きの下ごしらえは、頼めば職員が捌いてくれるのだが。今回は、覚が自ら手掛けた。
血抜きや腸の処理。鱗などもきれいに取り除いて。
丁寧に洗ったら、強めの塩を振って炭火で焼く。
貝類は火が通ったら、醤油もいいがバターも足すのも格別だった。調味料をそれなりに揃えてくれるサービスは昔はなかったはずだが、リニューアルしたことでそこも見直したのかもしれない。
「あ~……ビール飲みたくなる~~」
「飲んでいいのに?」
「ダメ。さとくん我慢させるのも嫌だし。うちで今日は飲むもん」
ノンアルもメニューにあるが、飲んだつもりになれるだけでアルコールではない。
それだったら、潔くウーロン茶などを飲んでいた方が罪悪感も特にないのだ。と、自分に言い聞かせて、夜の楽しみに取っておく方を選んだだけ。
「別に、このあと泳ぐわけでもないのに?」
「いいのいいの~。私、そんな強くないし」
「けど、飲みたくなる気持ちはわかるかも。潮風にあたりながらの、バーベキューは格別だかんね?」
「ねー? 去年も来ればよかった~」
「関東から横断はちょいきついけど。新幹線からの乗り換えは、ここ大変だしね?」
「ね? 富山はすぐだったから行きやすかったもん」
「それなんだけど。今度の帰省のときに兄貴ら来るぽい」
「ほ?」
「二年も義妹見てないの、さすがに失礼だって……おふくろが叱ったみたい」
「……おにいさんたち、どんな人?」
「ん~? 可もなく不可もなく、仕事人間? 人当たりは悪くない感じ」
「仲悪いの?」
「さあ? 他所の家庭から見ると、距離置いてるように見られているかもだけど」
「お、おぉ……」
緊張する未来のひとつが待ち受けているが、その日はその日でバーベキューをしっかり堪能し。
夜は、本当に母が奮発すると言った通りに、覚と三人では食べきれないような刺し盛り以上の豪華な食卓を囲むことになったので……飲むどころか、腹がはちきれそうになって無理だった。
母も年齢以上にはしゃぎ過ぎたためか、少し申し訳ないと、残った料理は自分なりにアレンジすると言ったが……刺身とかは、冷凍にして一部持たせてくれた。新幹線だと大荷物になるけれど、そこはクーラーボックスを借りたので車でよかったと大正解。
「なんだったら、そのボックスあげるから」
「いいの?」
「普段使わないし、宝の持ち腐れだったかんね? ええよ~」
「ん」
一泊二日だったが、母の元気な様子も見れたので今回の帰省はいいものだと認識出来た。
釣り堀もだが、もっとほかのいいとこにも覚を連れてってやりたいと思うくらい。免許は持てないが、案内くらいは出来るだろう。
次、母に会うのも結婚式か帰省かまだわからないが。いい日になるときに会いたいとは思えた。
次回はまた明日〜




