第61話 作家夫婦に心配をかける
〇△出版社の編集部に所属している、佐伯美苗は少し……いや、だいぶ悩んでいることがあった。
担当しているコミカライズの作画についてだが。その中でも、『新人』に部類する女性について。
かなり稀なケースで、彼女とは仕事をしているのだが。なかなか進みが遅い。
それもまだ許容範囲ではあるものの、原作者側にはまだ原稿チェックをするまでには至っていないのだ。作画と原作同士の、直接なやり取りは現実的にはタブーとされている。編集者が仲介しないと、双方の意見で勝手に進めればいざこざ以上の結果が出てしまう。
これは、現在までいくつも被害件数のような結果が出ているため、余程のことがない限り双方と連絡を取り合わないように……決まり事が出来た。佐伯たちの会社だけでなく、他所でも。
しかし、佐伯の抱えている一件はそうもいかなかった。
(プライベートで夫婦って、レア中のレアよねぇ……?)
別に、芸能人のように作家同士が夫婦になることは稀にあるとされているが。
今回のように、原作と作画が夫婦で、しかも打診が来るとは事前調査が甘かった。原作の『高垣朝人』はそれなりにベテランに部類されるラノベ作家。対する作画担当に起用した『三ツ星さーや』は同人作家としての経験は浅いが、ドミノ・パンのアシスタントとして仕事が出来ると褒められていた。
佐伯がイベントに行くことはあまりなかったが、ドミノからの薦めもあって一度訪れてみたのだ。壁サーほどの人気作家ではないものの、作品はどれも丁寧なつくりで思わず手に取りたくなるものばかり。
辛口コメントでうるさいと社内でも定評がある佐伯自身も思わず驚いたほどだ。ドミノがしばらく起用するあたり、まず仕事の出来る作家へと成長してもおかしくはない。だから、打診をかけてみたのだが。
そのまさかまさか。原作者と夫婦でいるとは……契約の関係を結んでいいのか、レアケース過ぎて非常に悩んだ。最終的には、本人の意志と編集長の決定権でなんとかなったが。
あまりにも、作画の丁寧さに、編集者としては『もっと上を見たい』と……つい、辛口コメントで、返信をしてしまっている。
もちろん、その身勝手さで没にしているわけではないが。プロットとネームにもそれなりにダメだしを入れた上で、作画へと移ったのだ。三ツ星はまだプロの世界をほとんど知らないに等しいため、人一倍辛口な対応をしているだけ。
甘々な対応をし過ぎては、読者のニーズに応えられる作画には追い付かない。
特に、旦那の高垣のコミカライズなのだから、余計に期待値が高まるだろう。少年向けとは言え、女性の作画が増えてきた昨今の事情を思えば、容赦しないのは編集としてのみ。
(う~~ん。TLとBLの中間のような画力になっているから、もうちょっと少年よりの絵の方がいいわね?)
完全に没とはいかないが、それなりの指摘は毎回メールやSNSで伝達している。
泣き言のような返事は今のところないが、相談しにくい内容なので高垣には泣きついていないはず。特に、高垣は別レーベルでも自社で書籍化しているため、この手のやり方はこっそり三ツ星に教えるくらいはしているだろう。
それくらいは、まだ、社会人としても問題ない範囲なので佐伯も無理に突っ込まない。
「身内に理解者がいるだけで、安心感は全然違うもの」
書籍化の打診なんて、嘘か本当かを家族が理解するのがまず最初の難関とも言われている。親兄弟もだが、配偶者が理解してくれるのはもっと難しいだろうに。
世間は狭いにしても、よくできたシステムに近いものに思えたのだ。
「美苗? ど~う? 新人ちゃんの下絵」
同じチームの編集が来たので、さっき印刷したものを渡せば『あ~』と生返事に近い言葉を漏らした。
「悪く、はないんだけど」
「今までが少女寄りだったもんね? 少年は男女共通意識にしてあげたいから」
「もうちょっと、なんだけど」
「がんばろ、がんばろ。なんなら、通話以外にも直接アドバイス出してやったら??」
「……そうね」
打ち合わせ込みの、喫茶店で食事会くらいなら……まだ気兼ねないかもしれない。早速、編集長に許可取りをしてから、三ツ星にメールを送ることにした。
次回はまた明日〜




