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流行りの婚活したら、旦那の料理が美味しすぎた〜時短レシピに胃袋掴まれた同人作家嫁の日々〜  作者: 櫛田こころ


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第60話 下絵没だらけに、タコライス

「……今日も、没かあ」



 そろそろ世間では夏休みが近づいてくる時期。


 万智子こと『三ツ星さーや』は、今日も仕事に励んでいた。中身は、編集の佐伯から厳しい指示をもらうばかりだったが。


 プロット、ネームは無事に決定したものの、その先がなかなか進まない。イベントでは画力は褒めてもらえたものの、商業に向くかと言えば話は別。


 原作者であり、夫でもある覚にも経由して見せてはいるかもしれないが、そこは互いに口出し厳禁なので……家の中では話し合っていない。


 もしくは、彼に行き着くまでに、没にしている可能性もある。


 よく読み返してはみたが、ここが、とか、あれが、と思うところは多い。


 商業化への難しさを思い知らされているが、どうしたものか。出来ることと言えば、佐伯の納得のいくように描くしかないのだ。それくらいしか、方法はない。



「相談に乗ってもらいたい相手が、今誰もいないもん。自分で頑張らないと……」



 一番は覚だが、それが出来ないのは当たり前。商業化したことは本来家族にも詳細を話してはいけないのは契約上の決まりではあったが。


 編集長や佐伯に、夫婦間のやりとりをしないのであればと認知してもらっているのだ。ふたりでのやり取りを一切しない代わりに、『仕事はしてます』とだけ知らせてある状態。


 それ以上も以下も、なにをしてもいけないのだ。目の前に、本物の作家がいるけれど……作家同士のやり取りでせっかくの仕事がダメになるケースは世間でもよく聞くくらい。


 万智子もそれを承知で覚との生活を続けているのだから、これ以上、覚に迷惑はかけられないのだ。


 かといって、商業作家のドミノたちにも言えないのは同じ。



「……ちょっと、気分転換しようかな?」



 遅々として進んでいないが、鬱屈としているのもよくはない。昼ご飯もまだだったので、外で食べようと自転車を出して商店街に行ったが……結局は、チェーン店で適当に済ますだけになった。真新しい店もあったのだが、なかなか入ろうと思えなかったのだ。


 ほかにも、ぷらぷらとショッピングでもしようかと思ったが、スーパーでも適当に食材を買っただけに終わり。


 ただ、帰宅してみると、まだ定時でもないのに覚がもう帰ってきていたのだ。



「おかえり?」

「ただいま」

「半休にしては、遅いね?」

「最初はそのつもりだったけど、ちょっと伸びてね? 扱いは早上がりだけど」

「……はい。適当に買い出ししてきたもの」

「気分転換?」

「もう、全然進まない」

「……頑張れ」

「頑張る……」

「……これなら、今日のメニューは丼ものいけるなあ?」

「丼もの? なになに?」

「着替えてきてから、いっしょに作ろうか?」

「うん」



 これもまた、気分転換になるのなら早めの夕食も悪くない。


 言われたとおりに着替えてからキッチンに行くと、万智子が買ってきたもの以外の材料も並べていた。



 トマト。

 アボカド。

 玉ねぎ。

 合い挽きのひき肉。

 千切りキャベツ。

 香辛料色々。

 とろけるチーズ。

 卵。




 並べてみても、これらで『丼もの』と言われても想像がつかないため、キーマカレーの変わり種にしか見えなかった。



「これで作るのはタコライス」

「あーね! あんまり食べたことないから思いつかなかった!!」

「味付けしたひき肉と玉ねぎのタコミート以外は、そんな難しくないよ~」



 よーく炒め、味付けの香辛料を入れて水分を飛ばしたタコミートが出来上がったら。


 ほかほかご飯を丼に入れ、ほかの具材を彩りよく盛り付けていく。卵は万智子が温泉卵に仕上げたものを乗せるだけ。


 出来上がったら、いつも通りに手を合わせた。



「「いただきます」」



 ロコモコ丼とかもあまり食べたことはないが、タコミートはどんな味わいか。


 温泉卵をまずは崩さないでそのままひと口。カレー粉も使っていたが、ウスターソースなどの甘辛い感じと相まって……カレーではない、独特の風味と味わいが米を欲するものと化していた。次に卵を割って、チーズもいっしょにスプーンに載せれば……まろやかなキーマカレーのようだと思える味に変化。


 この味変が楽しめる組み合わせは楽しい、と思えてしまう。合間合間に、アボカドや刻んだトマトもいっしょにするとさらに変化していった。



「面白い組み合わせだね?」

「タコスって、メキシコ料理あるでしょ? 米じゃなくて、トルティーヤがあればタコスになるけど」

「……食べたことないな?」

「今度、商店街行く? たしか、専門店あったはず」

「今日行ったけど。結局チェーン店でお昼済ませただけだったなぁ……」

「力になりたいけど。こればっかりはね?」

「いいよいいよ。新人作家への試練と思って、このあとも頑張ってみる」



 たまには食べたい外食の提案をしてくれるだけでも、癒しになるのだから覚が全面的に悪いわけではない。


 佐伯にも満足のいってもらえる仕上がりにしなくてはいけないのは、万智子の仕事だ。分担作業と思えば、万智子もなんとか気力が湧いてきた。


 普段の食事にも気を遣ってもらえている分だけ、覚も気にしてくれているのだから……うじうじしている場合ではない。なによりも待たせているのは、目の前の『プロ作家』本人なのだから。


 遅筆ではないにしても、没を食らうのは当然のこと。とりあえず、このあと何回リテイクを食らおうが奮起するしかないと、タコライスを二杯完食するのだった。





次回はまた明日〜

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