第6話 お疲れ様にデトックススープを②
マグカップでも飲んだが、まずはスープをひと口。
最初に到達してきた味は、やはりウィンナーと鶏肉の旨味だ。上質だと教えてもらった通り、コンビニ飯などでコスパ重視のぶよぶよしたあれとは美味さがまったく違う。のど越しもよく、スープだけでもご馳走と言えるくらいに。
だけど、まだ本命じゃないと、具材にも目を向ける。野菜も食べてみたいが、肉だと探してみれば添えてあるそれらが白く輝いているようにも見えた。
「うわ。やわらかそう!」
「ある程度煮込んで、取り出したからね? コトコトくらいに温めてから盛り付けたんだ。ウィンナーも味強くなるからいっしょ」
「最初から煮ちゃダメなの?」
「好みにもよるけど、美味さが逃げ出しやすいから。俺は食べる都度に煮るかな」
なら、そのこだわりをせっかくなので、しっかりと味わうことにしよう。ウィンナーはフォークじゃないと持ち上げられない長さだったのでフォークに取り替え。
ぐっ、と刺してみれば弾力が凄くて、やはりランクが高い食材だとわかるくらいに期待が高まる。がっ、と口に運んで噛みしめれば……ぱきゃっ、と皮の弾け具合もだが肉のぷりっとした食感が楽しい。塩胡椒の効き具合も安物の魚肉ソーセージに近いそれとは雲泥の差。
もぐもぐと食べ進めれば、一本はあっという間に消えてしまう。ああ、儚いと思った万智子の表情を見て、覚は『ふふ』っと笑っていた。
「まだおかわりあるし、次はつまみついでに食べる?」
「いいの?」
「お祝いじゃん?」
「うーん……じゃ、お願い」
「おk」
けど、まだまだ食事はあるので、次は鶏肉を食べてみた。思った以上にぷりぷりしていて、全くと言っていいくらいパサついた感じがない。皮も噛み応えがあって、脂といっしょにスープの出汁が程よく絡んでいて、揚げ物よりも美味いかもしれないと思うくらいに。
これはもしや、と野菜の方も食べてみようとした。ジャガイモはほろほろかと思えばホクホクとした食感。にんじんはさっくり繊維がほぐれて柔らかい。玉ねぎはとろとろ。キャベツは少ししんなりしつつも甘みが強くて、肉たちの旨味を適度に吸っている。
これが、覚の記憶では『まかないスープ』だとしても。万智子にはご馳走スープでしかなかった。旨味の凝縮したスープを食べ進めていくのもいいが、用意してくれた缶ビールのプルタブを開けて、ひと口煽ると幸せの洪水が増していくよう。
「飲んじゃったけど。これ、ちょっと疲れたときに出されたら泣いちゃう」
「泣かない泣かない。いつでも作ってあげるから」
「これ、味付けって塩胡椒だけ?」
「あとは塩麹」
「出た! 塩麴マスター」
「今日のは仕込んだやつだから。肉の下ごしらえでも旨味UPしてるんだよな」
「だから、余計に美味しいんだ?」
「味付け以前のは、水洗いで落としているけど」
「ほえ~」
まだまだ料理初心者の万智子には、調理法はさっぱりでも美味しいのはよくわかった。そしてスープだけでなく、煮卵も食べてみれば……ちょっとさっぱり目の醤油なのに、濃い味に思えるくらいでビールのつまみには最適。ゆっくり味わうようにして食べたが、二個しかないのですぐになくなった。
「煮卵のコツはね? 茹で加減もだけど、調味料のあとにキッチンペーパーをかぶせてひと晩置くとシミシミになるんだ」
「ペーパーって使って大丈夫なの?」
「キッチンペーパーだからさ。水切りとかにも使えるし、ゴミはまあ増えるけど便利。ビニール袋系のラップもレンジ使えるから時短レシピにはもってこい」
「……用語多くてわかんない」
「覚えよう。出来るだけ」
「あい……」
ご飯ひとつで、心のデトックスも完了しつつあった万智子だが。片付けはふたりでやるのが落合家の家事ルールのひとつ。
洗浄機は置き場所もかさ張るし、片方が洗って片方が拭く。この担当をしっかりやれば、食器棚付きのキッチンなので、高い収納棚には覚が置いてくれると分担も出来るのだ。
下の段は調理道具がたくさんなので、コップと皿以外は上の棚に軽いのを置いたりと位置決めもしっかり。このコツは、実はプロットの組み方のコツにもなると覚から聞かされていたのだ。
「ルーティンワークだと思えばいいよ。項目のひとつを消化しちゃえば、次がわかる。俺も、起承転結を事細かく決めるのやめたら、企画案結構通っているし」
「読者が読みたい、読み直したいと思えるような?」
「そこは頂点だろうけど。基準にはなるっしょ?」
「うんうん」
万智子は絵だが、ネームの中でのコマの振り方でゴテゴテし過ぎると『絵じゃない』ものになっていく壁にはよくぶつかる。
魅せたいもの。
見てもらえるものにするためには、文字のプロットだけでも変な長文を作るより、箇条書きでもいいからページごとの見出しを作ってみたのだ。
毎回毎回、覚には赤ペンチェックがそれなりに出されるが。編集でもないのに、真摯に向き合ってくれる彼には相互フォロワー時代よりも尊敬の念を抱いている。
そんな彼が、リアルの万智子を見直しただけで一目惚れし……ロックオンして電撃結婚するくらいにまでの執着があるとは意外過ぎたが。とは言っても、基本的に温厚な彼がロールキャベツ男子の顔をのぞかせることはほとんどない。
今日は、まさかの『初夜』とかくらいは予想したものの……万智子のネーム許可がもらえたあとに、万智子自身が少し夜更かししたことでおじゃんにしてしまった。翌朝、少し反省して聞いてみれば……。
「まーね。考えてなくはなかったけど」
だから、整えておいてね?とほっぺにちゅーをされ……出勤を見送ってからはネームも頑張ったが、覚から教わった家事スキルをフルに活用して煩悩を祓うようにあくせく動いたのだった。
次回はまた明日〜




