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流行りの婚活したら、旦那の料理が美味しすぎた〜時短レシピに胃袋掴まれた同人作家嫁の日々〜  作者: 櫛田こころ


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第57話 スタート前に、腹ごなし? 異国の料理を共に

 新しいことへのスタートダッシュは、思った以上に難攻不落なものとなった。


 まず、覚の作品を熟読するところから始めたのだが、少年向きの作品を読むこと自体久しぶりだったため、読解力を求められてしまった。


 キャラメイクも、挿絵を参考にしなくてはいけないことはもちろん。


 原作をそこまで改稿する必要がないのはありがたいが、普段描くのが少女向けやTLもしくはBLなので、コマ割りとかの仕組みに大きな差が出てしまう。


 試しに、覚のタブレットから自著の電子版をいくつか読んでみたのだが……この中に、新人作家がいても信じにくいというくらいに、完成度が高過ぎた。そんな中に、万智子も『三ツ星さーや』として含まれるというのに、自信が持てない。


 一応、ネームは切ってみたものの、初の少年向けということもあって予想以上に不出来なものばかり。


 編集担当は佐伯だったので、確認も兼ねて送信してみたものの……『もう少し改善しましょう』のやり取りが、二、三回続く結果に。


 かといって、編集長などから覚には直接見せないように言いつけられているため、今回ばかりは覚の力を直接借りれない。自分でも宣言したし、こればかりは勉強しながら進めていくしかないだろう。


 次の締め切りまでに、もう少し、というところで玄関から呼び鈴がなったので中断させられてしまったが。



「宅配便でーす」

「……どうも」



 送付主は、ドミノの本名。彼女にだけは、アシスタントの仕事がまだ続いているので『デビュー』については、一応伝えていた。もちろん、『おめでとう』とは言ってもらえたが、なにか荷物を送ってもらう予定でもあったか振り返ってみても……特に、思い当たらず。


 伝票のところに、『食品』とあったから差し入れかと思って開けてみると。



(粉??の箱??)



 象形文字かと思えるようなパッケージの中にドドーン、っと、入っていた。パッケージは見るからに海外産だというのはわかるが、どこか旅行にでも出かけたのか。それにしては、連載の仕事を中断したような様子はなかったので、通販とかで取り寄せたのかもしれない。


 もしかしたら、連名になっていたので覚宛かもしれないと、帰宅までそのままにしておくと。



「お? ドミノ先生、もう送ってくれたんだ?」



 やはり知っていたのか、届いたものを見てにこにこしている覚は正体を知っているのだろう。



「なーに、それ?」

「ん~、簡単に言えば。ホワイトソースのインスタント版」

「え? これでホワイトソースが??」

「そ。地中海とか、イタリアにギリシャ。あの辺だとまあまあ取り扱っているんだって。ドミノ先生の旦那さんが留学経験あって、ときどき購入するっていうから強請ってみたんだ」

「強請る?」

「大量にいっつも買うけど。期限内に使い切れないの……もらえるかどうかなって?」

「インスタントでもそんなもたないの?」

「これを二桁買っちゃうけど。ドミノ先生の仕事が忙しいからか、あんまり消費し切れてないの前に聞いたんだ~」

「あーね。それは仕方ない」



 しかし、ホワイトソースのインスタントがあるのは驚きだった。


 カレーやハヤシ、シチューはともかく、ルゥのようでいてもろもろしたような粉をどう扱うのか。


 ホワイトソースと言っても、食の知識にまだまだ疎い万智子の想像では思いつくのがパスタくらいしか思いつかない。



「これで、ギリシャ料理のパスティッチオを作ろうと思うんだ。向こうでいうラザニアみたいな料理」

「ラザニア!? 時短料理じゃなくない?」

「これねぇ? 牛乳と混ぜたらすぐに使えるんだ~~」

「ほえ~~」



 ミートソースは今回、缶詰のものを購入済み。パスタも、覚が調べた中で面白い形の『ペンネ風』の乾燥パスタを水で戻したものを使用するそうな。


 最近のパスタの調理法は、レンチンもいいが水であらかじめ戻しておくと、生パスタのようなもちもち感が復活するとかしないとか。今回はそのお試し版でもあるらしい。


 耐熱皿パン粉を適量振った後は、用意していた具材を『層』にして重ねていく。


 上段にはチーズとパン粉たっぷり。これが焼き上がるまで、万智子は出来るだけネームを進めていた。また没だと言われてもいいが、せっかく覚が凝った手料理を振舞ってくれるのだから、彼の作品にヴェールをまとわせてあげたい。


 その一心で集中していると、あれだけカチコチに進まなかったネームがすいすいと描き込めるようになった。食のありがたみが、ここで発揮出来たのかもしれない。


 二回ほどチェックして、佐伯にメール添付で送信したくらいに……オーブンレンジの鳴る音が響いてきた。



「マチちゃん、出来たよ~?」

「はーい」



 リビングに行くと、猛烈なまでにミートソース、ホワイトソース、チーズのこんがり焼けた匂いが充満していた。


 ほかには、冷蔵庫の掃除も兼ねた野菜スープだけだが。メインがボリューム満点なので全然気にならない。


 テーブルの中央に置かれた『パスティッチオ』というラザニアみたいな料理は、ごった煮にしたグラタンのような焼き加減になっていた。



「「いただきます」」



 取り分け用のスプーンで、ぐっ、と切り込みを入れて持ち上げれば。上のチーズが伸びに伸びて、ほかの層たちを引き上げてくれている。


 ミートソース

 ホワイトソース

 ペンネ


 一体化しているようで、ちゃんと分かれているのが綺麗に見えた。


 湯気が凄いので、小さくフォークですくって口に運ぶ。冷ましてはみたが、当然と言わんばかりにあちあちの熱さだったので舌を出しそうになった。



「あっ、つ!? けど、とろとろで美味しい!!」

「ん。今回が初だけど……ラザニアというか、グラタンだね。このホワイトソースは」

「なにか違うの?」

「まあ、イタリア発祥とも言われてるらしいけど。厳密に言えば、この料理はグラタンに近いから、ラザニアとも違うみたい」

「そうなんだ。……ん。おいし」

「元気、出た?」

「へ?」

「今回は間接的にしか関われないじゃん? お互い。だから、少し凝った料理で元気出してほしくて」

「……敵わないなあ?」



 部屋に篭もる時間が長いのはいつものことでも。


 今回の仕事は、初の共同製作ではあったって、直接のやりとりは厳禁。


 そのため、会話にもネームどころかプロットの話題を挟み込めないのだ。プロとして歴の長い覚の方がそれをよくわかっていて、今回の食事をプレゼントしてくれた。


 本当に、憎いくらいに優しい人でしかない。



「とりあえず。佐伯さんに言われたことはお互い話せないし。共有出来るのは食事くらいだからさ? 欲しいの、色々言ってよ。負担が大きいのは君なんだし」

「……いいの?」

「俺の方は俺の方で進んでいるし、問題ないよ? なんなら、いつものチェックくらいの感覚」

「そっかぁ……」



 奥さんとしてもだが、新人作家としても甘えていいのなら、そこは縋りたい。


 とりあえず、目の前の料理はもう少し食べていいか聞くことにした。

次回はまた明日〜

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