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流行りの婚活したら、旦那の料理が美味しすぎた〜時短レシピに胃袋掴まれた同人作家嫁の日々〜  作者: 櫛田こころ


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第55話 編集がつくかも? お祝い手巻き寿司パーリィー

「こんにちは。三ツ星さーやさんのブースでしょうか?」



 新刊頒布のイベントにて、今回も完売近くを目指そうとしていた矢先。


 スーツの女性から名刺をもらったのが……きっかけかもしれない。次のステップアップへのチャンスというものへの。



「はじめまして、〇△出版社編集部の佐伯と申します」



 万智子が客への対応が終わった後に、名刺を差し出してきたスーツの女性があいさつをしてくれたのだ。今まで、印刷所の名刺は受け取ったことはあったが。出版社の編集からというのは初めてだった。


 なので、つい、本物かどうかと、顔と名刺を交互に見てしまったのは悪くないと思う。実際、佐伯と名乗った女性も特に気にしているような雰囲気ではなかった。



「は、はじめまして」

「いきなりお声がけして申し訳ありません」

「い、いえ。編集さんとお会いするのが、はじめてだったので」

「そうなんですね? 実は私、ドミノ・パン先生の作品のひとつを担当している者で」

「あ」



 作品に編集がつくのは当然。だが、アシスタントにまで連絡の伝達がすべていくわけではない。そこは守秘義務があることだろうし、万智子も特に気にしていなかった。むしろ、指示してもらう箇所の仕事をこなすので手いっぱいだったのもあるが。



「背景や修正箇所がとても丁寧になっているのが気になりまして。アシスタントさんのことを窺ったら、三ツ星さんのことを話してくださったんです」

「……きょ、恐縮です」

「こちらの新刊、拝見しても?」

「ど、どうぞ」



 今は他の客もいないし、ゆっくりしてもらっても構わない。


 というか、緊張し過ぎて、どもる口調がなかなかなおらないでいた。相手はプロの編集者なので、なにかしらの評価をもらえる機会なんて滅多にない。たとえ、一部でも既に仕事を見てもらっていてもだ。



「……つくりが、非常に丁寧ですね。絵もですが、コマ割りや構成も」

「……身内に、ネームとかを見てもらっているので」

「編集ではなくとも、関係者がいるんですね? それでも、仕上げたのは三ツ星さん。……少し、お話したいことがあるんですが」

「あ、はい」

「ご都合のよろしい日で構いません。うちの会社にポートフォリオを持ってきていただけないでしょうか?」

「……はい?」



 ということがあり、打診に近いような約束事が出来てしまったのである。



「へぇ? ドミノ先生経由で打診??」

「似たような、感じ?」



 佐伯とは、簡単に打ち合わせのようなやり取りをしただけで終わったが。


 そのあとに、様子を見ていたもこもこやメシアが近づいて来て『打診きた?』などと言うので……あのやり取りは、やはり商業作家もしくは目指す者にはよくあることなのか。もらった名刺はケースに入れて大事に仕舞っておいたが、帰宅して覚に見せてやれば『ああ』と頷かれた。



「俺も、レーベル違うけど。こことも一件やり取りしてるよ?」

「レーベル??」

「ラベルじゃないよ? 扱う商品の部署違いって思えばいいかな?」

「……凄い人?」

「俺は会ったことないからわかんないけど。イベントに打診かけにいく編集だったら、新人じゃないと思う」

「……おぉ」



 今日のご飯の手伝いをしながらの会話だが、やはりプロ作家の覚から聞くと現実味を帯びてきたと感じてしまう。


 日程はまだ決めていないが、ポートフォリオについてはどんなものにしようか……ドミノに聞きながら作成するつもりだから。ドミノからの紹介であれば、本職の彼女にもひとつかふたつくらいはアドバイスが欲しかったのだ。実際、メッセージを送ればふたつ返事で大丈夫だと言ってくれた。


 そして、今日のご飯は前以って決まっていたメニューである。



「ちょっと、ご馳走手巻き。……これでよかった?」

「ばっちし! 丼ものとかでもよかったけど、色々食べたかったんだ~」



 海鮮。

 野菜。

 肉。

 調味料。



 その色々が味わえる手巻き寿司を、なんとなく食べたいと、イベント前から思っていたので覚にリクエストしたのだ。


 米の仕上げを手伝う以外は、覚が仕事の息抜きも兼ねて……さっ、と準備したにしてはきれいな具材が出来上がっていた。柵とか手抜きと言っていたが、そんな風には見えない。



「「いただきます」」



 切ってある焼きのりに、薄く酢飯を乗せ……サーモン、カイワレ、割けるチーズを。


 これを醤油でもいいが、塩とゴマ油のタレでどうぞと覚にアドバイスをもらい……試してみれば、とてもさっぱりしていて油っこく感じなかった。



「ん~~!? 塩と油だけなのに、なんか特別な味がする~~」

「全部に合うわけじゃないけど。悪くないっしょ?」

「だね~~? 醤油はちょっと甘い?」

「刺身醤油の甘め。手巻きに合うと思って買っといた」

「これ、ほかにも使えるの??」

「俺はずぼら飯だとチャーハンに使ってたな?」

「……チャーハンはずぼら?」

「なんでも入れていいじゃん? なのに、それなりのメインにもなる」

「今度作って~~」

「ほいほい」



 先行きに不安がないわけでもないが、少し前進したかもしれない今日は。お祝いもちょっと兼ねているのだった。


 何故なら、今回の新刊も委託販売に少し残すくらいまで売れに売れ……完売手前までいったからだ。


 次回作も期待してます、と、ファンだと言ってくれた客の声も聞けた。まだ商業作家にもなっていないただの同人活動をしているだけの人間でも……少し、前を向いていいのではと思える楽しい日になったのだ。


 佐伯と会う日程は、一週間後にどうかと連絡をしたのはその日のうちにしてみた。すると、夜なのに彼女からはすぐに返事が来て、了承してもらえたのだ。


次回はまた明日〜

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