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流行りの婚活したら、旦那の料理が美味しすぎた〜時短レシピに胃袋掴まれた同人作家嫁の日々〜  作者: 櫛田こころ


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第39話 ほっと、軽食代わりの『梅スープ』

「ごめん。しばらく残業続きで遅くなるかも」



 旅行に行くことが決定した一週間ちょっと前。


 有給の確定は問題なくとも、最近の業務では『エラー続き』とやらが多くて定時に帰宅することが難しいらしく。原因究明のために、ここ数日は毎晩遅くに帰宅している覚。


 そんな彼に炊事を頼むわけにもいかないので、最初こそはインスタント食品や常備菜に頼っていたが。


 一週間くらいも経つと、どうも飽きが出てしまった。


 チープな味わいが嫌いになったわけでもない。むしろ、ひとり暮らしだったときは求めていたはずなのに……どうしても、手料理が食べたくなった。


 出来れば、覚のつくるものが。



「かといって、そうめんパスタ以外の料理なんて……ろくに作れやしないし」



 今日もまた、覚の帰りは遅くなろうとしていた。RINEで夕方に連絡があったので、ご飯には間に合わないと言われたのだ。これが一週間も続くと、会社員の辛さを知っている万智子には退職した勤務先のことを思い出してしまう。


 お局様からの、ねちねちした視線に言動。ほかの同僚や上司からのフォローはあったりなかったり。せっかく内定をもらったのに、居心地の悪い空気が漂っていた気がする。ブラック企業ではないにしても、社内環境に疲れていたはずだ。でなきゃ、覚との結婚にも承諾しなかっただろう。


 今となっては、救済者として感謝しているし、ちゃんとそれなりの好意は持っている。夫婦の営みとやらは最近ご無沙汰だが、それでもすることはしているのだ。間違って、『偽装結婚』とやらに乗っかっているわけではない……と、思う。



「うーん。まだ作業あるし、お腹そんな空いてないし……でも、食べないといけないし」



 それなら、と、冷蔵庫の中をもう一度確認してから、RINEの過去ログをチェックした。覚とのやり取りで、いくつかレシピを教えてもらうこともあったからそれを引っ張り出すためだ。


 スクロールしながら目で追っていくと、『これでは?』というのがあったので材料を探すことにした。



 梅干し

 乾燥わかめ

 刻みネギ

 いりごま

 白だし

 ごま油



 これでなにを作るのかというと、軽食にもなる『スープ』だ。


 梅干しは種を取って、ごま油以外といっしょにお椀に入れる。あとは適量のお湯を注ぎ、ごま油をひとたらし。


 これだけで、なんちゃって『梅スープ』の出来上がりだ。


 覚に教わったとき、簡単過ぎやしないかと思ったが。



『汁物の一品にもなるし、軽食にも最適なんだよね? なにより』



 なにより、温かい梅干しを食べることで脂肪燃焼を促す食材に変化するのだそう。乾燥わかめなら、海藻も摂れるしごま油の味わいで白だしとプラスすれば味の相乗効果がぐっと高まる。スプーンより、箸で食べた方が食べやすいので万智子はダイニングテーブルに腰かけることにした。



「いただきます」



 ひとり寂しいテーブルでも、言わずにはいられない。なんとなくでも、寂しさを紛らわすためでもある。


 まず、スープをひと口。


 梅の酸味はあまりなく、白だしとごま油の風味が強い。しかし、うどんとかのスープを飲んでいるようには感じないのだ。それがまた面白い。


 箸で梅干しをつまみ、ひと口かじる。湯であたたまった感触は、最初の頃こそ驚いたものの。今ではそうでなければと思うくらいに美味しいと感じている。ネギ、わかめ、いりごまの風味も申し分なく、スープといっしょに飲めばごくごくと飲み干せてしまう。


 お椀一杯だけのスープだが、お腹がぽかぽかあったまるので空腹感は満たされていく気がする。あくまで、一時しのぎではあるが、出来れば覚の帰宅時間に合わせてご飯はいっしょに食べたい。それまで原稿を頑張ろうと片付けを終えてから、部屋に戻った。



「ただいま~」



 今日はまだ早いのか、九時前には帰宅してきた。


 疲れた様子ではあったから、いっしょにインスタント食品でも突こうかと聞こうとしたが。


 既にキッチンに立っていた覚は、食器置き場の様子を見て『おや?』な表情をしていた。



「おかえりー」

「ただいま。まだ、ご飯食べてなかったの?」

「梅スープにしただけ。……出来れば、いっしょにご飯食べたかったし。あんまり空いてなかったから」

「……そっか。ありがと。しっかり食べたい?」

「……うん」



 覚が帰宅してきただけなのに、あれほど感じていなかった空腹感が表に出てきた。きゅるる、と覚には聞こえない音量で腹の虫が鳴いたので、素直に頷く。


 覚もしっかり食べたかったみたいで、疲れているはずなのに冷凍チャーハン以外はある材料でささっとおかずなどを作ってくれた。さすがは、自炊得意な人間の為せる業である。



「明後日は、予定してた通りに有給取れたから。旅行はちゃんと行けるよ」

「無理してない? 残業続きで疲れてないわけないでしょ?」

「大丈夫大丈夫。温泉旅行だから、しっかり湯治するつもりで楽しみにしてるからさ?」

「それならいいけど」



 今週はなかったものの、風呂にはしょっちゅういっしょに入るようになった万智子たち。新婚旅行では夢女子なら期待する『離れの部屋で混浴』という設定どおりに、覚は二泊三日でそんなプランを立ててくれた。


 もちろん、食い倒れの方も忘れていない。食欲に忠実なふたりなのだし、美味しいものはたくさん食べたいのだ。


 万智子にとっての、大きなイベントもそのあとに控えているのだから、旅行だけは思いっきり羽を伸ばしたい。


 そのためにも、互いに今できることを精一杯頑張るのだった。


次回はまた明日〜

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