第38話 常備菜シリーズその弐(塩麹サラダチキン)
常備菜はいつも冷蔵庫に、まだまだあると思ってはいけない。
ついつい、つまんではなくなるものが多いのだ。それだけ、覚の作るものはいつだって美味しい。
豆腐の味噌漬けもだが、それと同じくらいに美味しいものがある。
塩麹マスターと言っていいくらい、手仕込みで作る塩麹を使い、さらに常備菜用にと仕込む……『サラダチキン』が。
「さとくんが作るの美味し過ぎて、コンビニとか市販のが美味しく感じなくなってきたの。どーしてくれるー!」
「いや、嬉しいけど。味付きのは面倒だから作らんよ?」
「塩麹だけで十分美味しいもん!!」
発酵食品で仕込んでいるから、保存方法を少し気をつけておけば日持ちする期間が長い。
と、最初言われていたので、『そうなんだ』くらいに思っていたが……実際に食べてみて、その味わいの深さに驚いたのだ。先程口にした通り、コンビニなどで購入出来るそれと雲泥の差と言っていいくらい。
「ん~、まあ? 旨味が出やすいとか、塩の味がまろやかって感じになるから?? 塩麹の消費考えて作っているだけだから、タンパク質も手軽に摂れると思ってさ」
「この味を知ったら……もとには戻れない!!」
「そんな禁断症状みたいなのが出るほど?」
「だって!!」
作り方はシンプル。
鶏むね肉にフォークでまんべんなく刺して、耐熱ビニールに入れる。そこに、肉の10%くらいの塩麹を加えて揉み込む。余裕があれば冷蔵庫でひと晩寝かせる。すぐ作りたくても、30分置くとベスト。
あとは、浸かるくらいにぐらぐら湧いたお湯の中に一時間放置。このとき、火をつけるとパサパサになりやすいので、放置でいいそう。
たったこれだけで、絶品のサラダチキンが出来上がるのだ。万智子はハムのようにして食べてしまうため、これの消費が下手すると豆腐の味噌漬けより早いと自覚している。それでも、美味しくて堪らないのでついつい覚におねだりするのだ。
冷蔵庫に入れるまでのところは万智子でも出来なくないのだが、火入れの部分である放置するとこは覚の方が断然うまい。自炊のスキルに大きな差があるため、そこは仕方がないというべきか。
「まあ、マチちゃんにそこまで気に入ってもらえたんなら……まだ暑いし、冷製パスタのトッピングにしちゃう?」
「するする!! ……特に手伝うことない?」
「んじゃ、胸肉買ってきたからフォークで刺して」
「うん!」
普通なら、鳥皮は剥いで廃棄とか違う料理に使うのだが。そこまでダイエット志向ではない生活をしているため、皮はつけたまま。これの脂が溶けてコラーゲンになるところも実に美味なのを万智子は知っている。皮もコリコリした食感になるため、非常に気に入っているのもあって。
「今日は大さじ1.5くらいかな?」
肉の大きさに合わせて、覚が塩麴のタッパーから計量していく。目分量でもしっかり美味しいものが作れる彼のことを、万智子は本当に尊敬している。
仕事も出来るし、オタクだし、同人活動も否定しない。
人としても気遣い屋さんなので、出来た旦那とも言えよう。そんな彼に惚れられてゴールインになった万智子は幸せ者だ。最初の頃とは違い、今ではlove寄りなくらいに気持ちが傾いてる。堂々といちゃいちゃするような真似は出来ないが、ほっぺにキスは覚の出勤時に出来るようになってきた。らぶらぶ熱々新婚夫婦と言っても過言ではないだろう。
相互フォロワーでも、限られたメンバーに報告したら『砂糖吐く』とほぼ全員から返事が来たほどに。照れてしまうが、新婚なんだからいいのだと自分には言い聞かせていた。
とりあえず、ビニールの口をゆるく縛ってから塩麴と揉み合わせたらタッパーに入れて冷蔵庫へ。先にある分でサラダチキンが無くなるから、今回は二ブロック分仕込んだ。
「手洗ったら、何か手伝う?」
「ん~、ソースはこの間作ったトマトソースがあるし……ケトル満タンになるくらい、湯沸かして? 少し時短しようか」
「はーい」
落合家の電子ケトルは、万智子がアシの仕事や同人活動をする際のお供にインスタントの飲み物を飲んだりするので……大容量のを、同居する際に購入し直した。だから、サラダチキンに必要なお湯も数分で沸くから電気代が少しだけ負担の少ない使い方が出来るのである。
冷製用の細いパスタを規定の分数茹でて、冷水と氷でしめたら……冷たいトマトソースにモッツァレラチーズのころころタイプ、細長く切ったサラダチキンとで盛り付けたら出来上がりだ。
「「いただきます」」
酸味が少しあるソースにも、サラダチキンは合う。
塩麴のおかげでまろやかな味わいに仕上がっているので、濃過ぎなければほかの材料などに大概なんでも合うのだ。モッツァレラのもちもち食感も楽しみながら、麺を口に運ぶと満足感が非常に高い。
残暑厳しい秋のはずだが、こういった食事をしているとまだ夏の気分になってしまう。
「いや~~。こんなおしゃれパスタ、家で簡単に出来るんだねぇ?」
「気が向いたときにしか、トマトソースは作んないけどね??」
「それでも、サラダチキンを自作で作る人って健康意識高いと思うよ?」
「まあ、筋肉つけたい意識はあったけど。マチちゃんのいう通り、市販品のってあんまり食感よくないしさ? 塩麴使えるってわかったら……ハマったし」
「このサラダチキンをハム代わりにして、サンドイッチにするのもハマっちゃったしね?」
「早いうちに食べていいけど。……毎日は、ちょっと自重してください。胸肉も結構値上がりしてるから」
「……はい」
スライスしたパンに、サラダチキンときゅうりにマヨネーズをかけただけのお手軽軽食。
それを実行し過ぎて、こんなにも頻繁にサラダチキンを製造することになってしまったのだ。食費は気にしなくてもいいとは言われたが、たしかに物価上昇が昨今酷いのは本当なので……少しずつ、控えることにした。それだったら、まだ豆腐の味噌漬けをご飯のお供にする方が家計に少し優しいらしい。
「まあ、いいよ。……新刊の進捗どうなの?」
「大雑把には下絵が出来たかな? アシの仕事も少しずつ担当が増えたし、無理ない範囲で進めているよ」
「そっか。俺の有給貯まってきたから、どっかで旅行しない? 国内だけど、新婚旅行」
「し、新婚旅行?」
「式の貯蓄はまだ難しいし、先に旅行だけでもしたいと思ってたんだ」
「……なるほど」
富山の帰省は旅行ではあっても一泊二日程度の小旅行だった。
それより、もう少し長旅をするのであれば。追い込み作業をする前のこの時期しかない。
なので、片付けを終えてからふたりで端末を使って候補を探すことにした。
次回はまた明日〜




