第35話 ちょっと真似してホットサンドを
ドミノ・パンは、最近になって羨ましいと思うことが出来た。
数年の付き合いがあるSNSでの相互フォロワー、『山垣朝人』。その妻である『三ツ星さーや』と数か月前にオフ会で初対面になったのだが。
ドミノの商業連載の、新人アシスタントになってもらったのだけれど……同人活動をまともに始めたのがここ数年だというのに、仕事が早くて丁寧。自身の同人誌もなかなかにいい出来栄えだったので、アシスタントを依頼したのだ。
そこまでは、まだ普通。羨ましいと思ったのは、彼女の食生活だ。
自炊は得意ではないらしいが、その分山垣が全面的にフォロー……というよりも、朝夕は彼の手料理を振舞ってもらってるそうだ。凝った料理ではなく、『時短レシピ』と今時の調理法でささっと作ってくれてるみたいで……どれもこれも、美味しくて堪らないと通話の際に教えてくれるのだ。
おかげで、さーやの苦手食材も少しずつ食べれるようになったという結果に。是非ともご教授願いたいが、ドミノも既婚者なので夫に料理は作ったりするが反応は普通。
可もなく不可もなく、普通に美味しいと言うことだと思っている。それは別に悪くないのだが、あんなにも美味しい美味しいと豪語する様子を知ると……食べたくなってくるのが本能というもの。
「ん~……今日は、旦那飲み会だっけ? 適当に済まそうか」
二回先の原稿がひと段落ついたので、夕飯をどうしようかと冷蔵庫や引き出しを探ってみたのだが。うっかり、買い出しもまともに行っていないことを思い出したので……翌日の朝食くらいならなんとかなる、の、食材程度しかなかった。
米は炊けばいいのだが、30分も待ってられない。
昼もカップ麺程度で済ませたので、自覚するとどんどん空腹状態が増していくのだ。
「……迂闊。昼間のうちに、どっかで買いものに行けばよかった」
今から車を出して買い出しに行っても。先に軽くなにかを食べないとやる気が起きないくらいに、空腹の方が勝っていた。
とりあえず、ほかのインスタント食品はなにかないかと探ってみたものの……今日の昼で最後だったらしく、あってもカップスープくらいしかない。それでは満足に腹を満たす力は、正直言ってない。
「……パンに、適当に挟んで焼くか??」
ドミノの家には、新婚のときにもらったカタログで『ホットサンドメーカー』があるのだ。ここのところはあまり使用していないのだが、少し肌寒くなってきたため、出来れば冷たいのよりはあったかいのが食べたい。
余った常備菜も使うなら、それがいいだろうと。パンも新しく買った方がいいから、自分だけ夕飯にならそれくらいでいい。
ドライカレーの残り
チーズ(とけるタイプ)
スライスハム
たったこれだけだが、ホットサンドにするなら十分な具材だ。
「えーっと、軽くバターを片面に塗って……ハム、チーズ、カレー、ハムの順にしてパンで蓋をする?」
これを二枚分セットし、温まってきたホットサンドメーカーに乗せて蓋を下ろす。留め具をしっかりはめて、点滅が消えるまで焼くだけ。
「今のうちに洗い物とかの片付け、買い出しのリストアップもして……」
焼けるまで10分くらいはかかるので、それらをこなす時間はあった。スマホのメモ帳に買い出しのリストアップを書き出し、ドライカレーのタッパーを洗剤でしっかり洗い流す。これだけだが、なんか『主婦してる』気分になれるのだ。
そして、タイマーが鳴って点滅も緑になったら出来上がりだ。
「わぉ、いい匂い」
メーカーのおかげで、包丁を使わずとも切れ目が入るため。皿に盛り付けたら、あとは食べるだけ。飲み物は一応作り置きの麦茶にしておいた。仕事中はカフェインを取るのにエナジードリンクやコーヒーを飲んだりしているので、食事くらいはちゃんとしようとストックは作っていたりする。
「いただきます」
焼きたてだが、持てない熱さではないのでしっかり両手で抱えてかじりつく。
まず顔を出してきたのが、ドライカレーの味。さーやに聞いたのだが、みじん切りチョッパーなるもので、簡単に野菜のみじん切りが出来るからカレーにはおすすめと教わったので量販店で買って作ってみたのだ。
作り方は、山垣に聞いたが材料とその道具があれば……予想以上に簡単にできてしまったため、旦那も気に入ってくれたからドミノの家の常備菜になったのだ。それくらい、頻繁に作っている。カレーのスパイス缶も日持ちするとは言え、さっさと使いたい理由もあってだが。
ふた口目に出てきたのはチーズとハム。溶けるチーズが程よく伸びて、ハムの塩気と肉の食感がカレーと食パンによく合う。
切れ込みがサンドイッチみたいに入っているため、四切れあったそれらをすべて平らげたドミノのお腹はとりあえずは落ち着いてくれた。
正直、まだ食べたい欲は引っ込んでいないものの、インスタントも大して残っていないのでやはり買い出しは必須。ひと息吐くのに、コップに残っていた麦茶をあおってから……ぼさぼさになりかけていた髪を結び直した。
「さーて、連載も頑張ってストック貯めないとね? そのためには、腹ごしらえ出来る食材とかもちゃんと買わなくちゃ!」
新婚なんて数年前のドミノだが、さーやの初々しい照れ顔を見たときは懐かしいなと思った。あの初心に帰ったような可愛らしさは若い子特有のなにか、と感じたほど。と言っても、ドミノも山垣とそこまで年齢差はないのでまだアラサー手前だ。一応は若い。
「……今日は無理でも、たまには旦那と先のこと話し合ったりもするか?」
仕事を受け入れてもらっているため、子どものことは後回しに考えている。なので、夜は別々に寝ることがここ一年くらい続いてしまっているのだ。
別に子どもを作るが絶対でないにしても、後々のことを考えると家族の大事さを経験するのも悪くない。それをひとりで決めてはいけないから、旦那とよく話し合おうと。
実際、数日後に晩酌をしたタイミングでそんな話をしたら、そろそろどうかと切り出したいと言ってくれたため……久しぶりに、そういう日になったわけで。ここから身ごもるまで、そう遠くないと知るのはまだ先のこと。
次回はまた明日〜




