第25話 風邪のときのトマトリゾット風
「……マチちゃん、大丈夫?」
「……あんまり」
七月に入ったとある日のこと。
落合万智子、絶賛夏風邪を引いてしまいましたとさ。しかも、喉風邪と鼻風邪のダブルパンチを食らった。ひと昔前の流行病ほどではないにしても、かなりのダメージを負っていた。覚が半休を取って医者に連れて行ってもらったが、検査をしたところ『風邪』と診断されたのみ。
帰りにスポドリなどの冷たいものを購入し、ベッドで大人しくするしかなかった。アシの仕事はただいまひと段落ついているので、ドミノにも覚が代わりに事情をメッセージで送ってもらっている。とりあえず、『お大事に』と返事があったそう。
「夜さ。食べれそうなもの作るから。しばらく、ゆっくり寝てなさい」
「……うん。今、あんまり食欲ない」
「ゼリーとアイスはあるから」
「……………うん」
有給ではないので、覚は仕事に行くしかない。そのために、帰宅途中にドラッグストアへ寄って色々買い足したりしたのだ。万智子もまったく動けないわけではないので、彼が出勤したあとに冷凍庫のアイスをひとつ食べることにした。
(……大人になってから、だなんて。はじめてじゃないかな?)
カップアイスの味が鼻のせいであまりわからないでいたが。冷たい感触が心地いいので最後まで食べることにした。味はチョコチップバニラのはずだが、チョコの味もわからないくらいに今回の風邪は酷いらしい。
氷枕が効くうちに横になり、目を閉じて次に目を開けたときには……もう夕方になっていたのか、覚が冷えピタを変えてくれているところだった。
「良く寝てたね? ご飯食べてない?」
「……ずっと、寝てた」
「汗すっごいけど、着替える?」
「……うん」
裸は今更なので気にしない。清潔なタオルで入念に体を拭き、パジャマとかを着替えたらスッキリした気がした。咳は落ち着いたが、空腹が少し顔を出してきたのかで腹の虫が小さく動いた気がする。
覚にもわかったのか、『待ってて』とキッチンの方へ行ってしまった。
(なに作ってくれるんだろう??)
風邪のご飯といったら、おかゆやおじや。あと、やわらかい麺類。
どちらも、覚のご飯だったら美味しく食べたいところだが生憎と鼻風邪のせいで味覚がほぼ死んでいる状態は今も変わらず。サイドテーブルのスポドリを飲んでも微妙に甘いとしか感じないくらいだ。
ぼーっと、横になりながらも覚のご飯を待っていると。少しして、ドアをノックする音がしてきたので返事をした。
「俺が風邪んときによく食べていたものにしたけど」
丼の中に入っていたのは、赤いトマトソースとご飯。あとチーズがたっぷり。
つまりは、リゾットではないかと……食欲が少し出てきたところだったから、余計に嬉しく感じた。ゆっくり起き上がって、トレーを膝上に置くのかと思いきや……覚がスプーンを持って、『あーん』の仕草をとろうとしていた。
「……あーん?」
「あーん」
「……あーん」
まずはひと口と言う感じなのか。薬も昼以降は飲まずに寝てしまったから、このあとしっかり服用しなくてはいけない。
濃いめの味付けにしてくれたのか、鼻が利かずとも味がなんとなくわかって嬉しかった。酸味のあるトマトにコンソメベースの出汁の味。チーズたっぷりがまろやかさを引き出して、やわらかいご飯とも食べ易くてもぐもぐと食べれてしまう。
二口目はさすがに自分のペースで食べると伝えたので、トレーを膝上に置いてもらった。
赤と白のコントラストが美しいリゾットは見た目にも楽しく写り、スプーンを動かす手を止められない。熱々でなかったので、五分くらいで完食してしまったが……まだ、物足りなく感じた。
ちらっと、覚を見れば食べる様子をずっと見てくれていたので笑顔のままだった。
「ちょっと元気出たね? おかわりいる?」
「ほしい……けど。さとくんのご飯は?」
「俺は自分でなんとかするから。もう一杯食べたら、薬飲もうか?」
「……うん」
自分のことよりも他人を優先。夫婦であっても、互いの食事を疎かにしない覚がそんなことを言うくらい、まずは万智子のことを優先してくれているのだ。病人は休むことが大事。けど、栄養を摂ることも大事なのを……一番に考えてくれる大事な人。
だから、つい、出てしまったのだ。
『好き……だな』、と。
その言葉が至近距離にいた覚の耳に届かないわけがない。漫画の効果音のように聞こえたが、『ビシッ』としたそれが覚の身に起きた気がした。
「……マチちゃん」
「あ、うん……?」
聞こえていたのか、と今更気づいたら羞恥心が込み上げてきて『うわ~、自分馬鹿~』とか叫びたくなったが。まだ食事中なので、それは出来ない。覚の様子を改めてみると、手で顔を覆っていた。
「きみが、病気じゃなかったら。それ、襲っていいワードにしか聞こえない」
「……ごめん、なさい?」
「無意識なのはわかっているから……おかわり、持ってくるから器貸してね?」
「あ、うん」
心身ともに弱っているときの、病人特有の甘えたが苦手だった万智子には……覚からの労わりがなによりも嬉しかったから言葉で表現しただけだったのだが。
それから、二日後にしっかり治ったのだけれど。覚からは、『いいよね?』と夜の運動をめちゃくちゃ甘々。さらに蕩けるように施されたため……下手な甘え方は、夫をかなり刺激するのだと自負したのであった。
次回はまた明日〜




