第109話 紙書籍発売決定に、おうち焼肉
夏も真っ盛り。
それぞれの帰省も無事に済んでからしばらくして……落合夫婦にとって、嬉しい知らせが舞い込んできた。
ふたりの担当編集である佐伯からのメールに。
『紙媒体での書籍、一巻が確約になりました』。
と、お互いのメールボックスに届いたとき、それぞれの部屋で作業していたために『マジか!?』と大声を出してしまった。
その声が耳に届いたので、廊下を走ってハグし合ったのも仕方がない。
流石に、キスとかもつれ込むとかまではしなかったが、少し泣いてしまった。それくらいに、嬉しかった。覚はともかく、万智子はデビュー作にして初の紙書籍の発売となったのだから……嬉しさは、倍増になって当然。
だから、と。せっかくなら外食でもよかったのだが。万智子のリクエストもあって、自宅で祝うことにした。
『自宅焼き肉』をするために、ふるさと納税などのお取り寄せグルメを用意し。休みになったら、それらを解凍して、付け合わせの野菜などもカットしていく。
「おお! 味噌ダレのホルモン!!」
「印税で、これまたふるさと納税したからね? たくさんあるよ」
「わーい!! 霜降り肉まである~」
「たくさんお食べ~」
「さとくんもね?」
窓は網戸に。
換気扇は強。
ホットプレートを適温に温め……タレや、塩などの調味料もセットしたら。
『自宅焼き肉』の準備の完成。
牛・豚・鶏といった、あらゆる肉の種類とそれぞれのホルモン。
米と野菜も完備。
「「いただきます」」
ホットプレートで焼くので、網のときのように湧き出る脂はそのまま溜まっていくが。
それもまた調味料になるので、そこには野菜を足していく。
特に、味付けホルモンを焼いたあと、さらに焼く夏野菜の美味いこと美味いこと。
万智子はピーマンも食べたが、かぼちゃが甘くて香ばしい味付けになるのに夢中になった。
「かぼちゃ甘い~~」
「それもふるさと納税の野菜だよ」
「いいとこの奴?」
「いんや? B級品とかの訳アリってやつ。表面の皮の色がまばらじゃん?」
「あーね。それって訳アリなんだ?」
「俺も詳しくないけど、説明文にはそんな風に書いてあったよ」
だが、規格外品だとしても甘くて美味しいことに変わりない。肉も美味いが、野菜もこんなに美味しいとは予想外過ぎた。
きのこにも挑戦はしてみたが、エリンギをしっかり焼いてタレに付け込まないとまだ無理な感じ。
それでも、毛嫌いしていた頃よりずっといい。美味しいものを美味しく食べられるようになった進歩だ。
それに貢献してくれたのが、今回の功績。
商業作家として、デビュー作がいきなり紙の本になるなんて……電子書籍が通常になりつつある現代としては、かなりの好成績ではないだろうか。焼き肉もしつつ、缶チューハイのプルタブを開けて一気飲みするのも、その感動あってこそだ。
覚も缶ビールを煽っていたので、似た様な心情かもしれない。
「「あ~~、うっま」」
家で焼き肉。昼から飲んでいる。
覚も夏休み期間に入っているので、そこは気にしない。万智子もアシスタント業務が落ち着いているので問題なし。
土日の休日ではないが、早いうちに祝いたかったので今日を選んだまで。
「塩だれもいいけど、柚子胡椒も合うね? 肉がさっぱりする」
「市販の安い奴だけど、たくさん食いたいときにはそれぐらいでいいと思ったんだ~」
「うんうん。高いので少量だと、なんかもったいない気がするもん」
「結局、金持ちじゃないから庶民だしね? 俺たち」
「だね~? クリエイターではあるけどさ?」
万智子の場合、まだまだ非課税対象ではあるものの。このまま、順調に商業作家への道を歩んでいけば……覚の扶養から外れる可能性も出てくる。
そこまで稼がなくてもいいかもしれないが、家計を助けるためを考えると納税なども国保以外にちゃんとしなくちゃいけないだろう。
増税なんちゃらが激しくなる日本ではあるが、それでもなんとか生活保護受給者にならずに済んでいるのは覚のおかげでもある。
家族として、ひとりの人間としても、大切にしてくれる相手に負担を大きくかけたくはない。
もちろん、社畜のようにがむしゃらな働き方は大変よろしくないが。でないと、前社に居た頃のモラハラに近いあの会社生活のようになってしまう。あんな環境は、もう二度とごめんこうむりたい。
「マチちゃん。〆のデザートの前に、〆の飯やっていい?」
「へ? 〆の飯??」
そろそろ、肉も野菜もなくなってきたので満腹に近い状況なのに、そんな誘惑を覚が提案してきた。
焼き肉の材料以外に、なにか買っていただろうか。と、冷蔵庫の中を思い返してもわからないでいたら。覚が準備してきたらしいものを持って、戻ってきた。
ご飯の丼と、大きくカットしたバター、あとピザ用チーズに胡椒。
「まず、ぎっとぎとの脂を吸わせるイメージでご飯だけを炒める」
「うんうん」
「そしたら、味付け用にまだ残っている焼き肉のたれをかけて」
「ぉおお!!」
〆の炒飯、にしては変わった味付け方法だがなんだか美味しいモノの予感がした。
そこにチーズをだばっとふりかけ、溶けたら胡椒を。
ねちねちするような感触が見えたら、最後にバターを投入して完成らしい。
「俺にとっては禁断のずぼら飯。チーズ炒飯の完成! 今回は焼き肉のたれバージョン!!」
「これは!? まだ、ほかのレシピもあるの!?」
「前に食べさせたトマトリゾットと同じ感じ」
「あぁあ!?」
それは、絶対に悪魔的に美味しいはず。
よそってもらった皿を手に、箸で持ち上げるとチーズの伸びが凄い。
熱々のそれを冷ましながら頬張れば、もう虜にならないわけがなかった。
万智子も、禁断の味を知ってしまったので逃げられないと心が堕ちたのだ。
祝いの日に、これはもう知ってしまったが最後。次も食べたいと思うのも当然のこと。
次回はまた明日〜




