第110話 転機を求め、かぼちゃでリメイクドリア
色々順調過ぎる。
覚は万智子と結婚して三年目になるが、仕事も順調で幸せ過ぎる毎日を送っていると感じた。
「落合~、昼飯行こうぜ」
「ああ、いいよー」
仕事のキリがついたところで、同期に声をかけられたので応えることにした。毎回ではないが、弁当を作ったり、コンビニや弁当屋で買ったり、今日みたいに社食とか外の店でランチとかしたりしている。
今日は同期からランチに行こうと言われたので、外へ出ることにした。残暑厳しい感じなため、まだまだクールビズ対策。ネクタイだけは緩めてもしてはいるけれど。
「落合。結婚して何年目だっけ?」
それぞれの注文を終わらせてから、そんな質問をされた。だいたい内容の予想はつくが無難に答えておこうと決める。この手の質問が出るとなると、『家族』関連についてが可能性としては多いからだ。
「三年目だね。式だけは去年したけど」
「ああ。身内だけ呼んでってやつだっけ?」
「俺は少し特殊だけど、お互いの出せる予算で組んだからさ?」
「……いくつ違いだっけ?」
「俺たちより五つ下」
「ってことは、二十後半か?」
「そ」
同期も既に結婚して子どももいるので、円満な家庭を築けているらしい。しかし、覚にこの話題を出すということは、おそらく『子ども』について。三十路を越えた男はともかく、女側の負担が大きいだろうとかなんとか。
ランチが到着して軽く食べてから、切り出されたのはその話題だった。
「嫁さんと、子どものこと話さないのか?」
からかっていない、真剣そのものの眼。心配はしているようだが、覚だけで出していい答えではない。それを知りたいのは、単純に同期としての関係もあるだろうが、無闇に踏み込んでいるわけでもなさそうだ。彼は育休も経験しているから、育児の大変さについては覚よりうんと先輩。
だから、万智子への負担についても他人事ではないと心配してくれているのかもしれない。
「話してはいるけど。今、彼女の仕事も絶好調なんだよ」
「あ~……仕事、か」
「あと、まあ。月経のときの不調も見てきたから、妊娠の負担も今はまずいかなって」
「一方的な考えじゃなくてか?」
「やることはしてるけど、こればかりは授かりものだからね? 避妊も毎回じゃないよ」
「……俺の考えすぎだってことか」
「心配はありがとう。だけど、まあ。難しいよ」
あまりにも兆しがなかったら、覚も不妊治療に専念した方がいいとも考えたりはしたが。万智子の『今』を継続させてやりたい気持ちの方が、どうしたって優先になってしまう。まだまだ新人作家でも、いきなりの紙媒体でのデビュー作を持てたのだ。今後、どこまで成長するのかも覚が見たいくらいに。
「余計なお世話だったかもな。悪い」
「いいよいいよ。家庭について、アドバイスは嬉しいし」
嘘じゃない。それは、覚の本心だ。結婚して三年も経てば、そろそろという可能性だって出てきておかしくない。なのに、万智子の妊娠の兆しはまったくだ。それでも、生活に不満はなかった。今だけ、ふたりだけの生活を楽しむのも覚自身満足しているくらいに。
ランチの会話は、そこから同期の子どもの話題になり。いかに育休期間を含めて育児の大変さがどうだったかを、先輩として切々と語ってくれた。大事なことなので、嫁だけの負担にしてはいけないことを。
(マチちゃんだけに、負担はかけたくないのは当然だけど)
授かりものでも、一番大変なのは『いのち』を宿した女性側が強い。こればっかりは、男では代替わり出来ないことだ。
なので、今日もまたスーパーに寄って、仕事を頑張っている万智子のいる家に帰宅する。
「おかえり~」
今日は仕事を早めに切り上げたのか、リビングでのんびりしていたらしい。手製のカフェオレを飲んで、バラエティー番組の撮り溜めを観ていた。
「ただいま。今日の分はいいんだ?」
「ちょっと早いくらいだったからね? データ送ってから、のんびりしてたよ」
「んじゃ。今日の夕飯も、ちょっと手を加えるか」
「お米必要って言ってたから炊いたけど。おかず作るの?」
「いんや? 今日はドリア」
「ドリア!?」
「まだふるさと納税とかの返礼品を冷凍してたでしょ? 在庫整理じゃないけど、色々使ってね?」
使うのは、
かぼちゃ。
作り置きのミートソース。
ドミノからたまにもらうホワイトソースのキット。
ご飯。
バター。
にんにく。
ピザ用チーズ。
バターは耐熱皿にこすりつけるのとは別に、米をガーリックバターライスに仕上げるためにも多めに用意する。ただし、にんにくは控えめにすりおろすこと。
「かぼちゃ……ドリアの具にしてもいいんだ?」
「ミートソースに結構合うよ?」
「予想しただけでも美味しそう!」
「ガーリックバターはざっくり仕上げればいいからね」
かぼちゃはレンジでやわらかくなるくらいにまで加熱し。ライス、ホワイトソース、ミートソースにかぼちゃ。上からチーズをかけ、好みでパン粉を振りかけるのもいいが今回はなし。グラタンだとパン粉があるとアクセントになるけれど、今回はドリアだから。
ライスを少しこってりにしたので、温泉卵は無し。
あとはカップスープでも添えたら、夕飯の完成だ。
「「いただきます」」
早く食べたい、が顔に出ていた万智子だが。激熱なので冷ましながら、ふーふーと息を吹きかけているのが可愛く見えて堪らない。小柄な体型なのも相まって、小動物のように愛らしくも見える。それは、惚れた欲目もあるだろうが覚の特権なので構わない。
とにかく、口に運んで咀嚼しているのを見ていれば。
「今日も美味しい~~!!」
「そりゃよかった」
主婦だからって、料理が必ず出来るようにならねば……は、今の時勢では特に気にならないこと。
覚も、母の背を見てきたり、バイトなどで培ったスキルがあるから万智子に喜んで欲しい料理が作りたくなるだけだ。独身のままだったら、作り置きだけのルーティンで済ませていた自覚があるくらい。
この生活を、もう少し続けたい気持ちは嘘ではないが。やはり、去年くらいに相談もあったから……同期に心配をかけた、子どもについてもそれなりに考えておこうと片隅に思う。
負担は気になるものの、育児については覚にもそれはあるからだ。ふたりで育てていく大事ないのちを見守っていく生活も、あってはいいのではと今イメージが湧くほどに。
だから、もう一度万智子にその話題を持ち掛けてみることにした。
次回はまた明日〜




