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流行りの婚活したら、旦那の料理が美味しすぎた〜時短レシピに胃袋掴まれた同人作家嫁の日々〜  作者: 櫛田こころ


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第108話 月のもののお供に、オニオングラタンスープ

 月に一度の『アレ』が来てしまったからには。


 こういう時ほど、在宅ワークなのが有難いと思う万智子である。



「……痛いぃ」



 腹部が、腰が。


 重さを感じるのと、時々激痛を身体に訴えてくる。


 女性にはつきものの、月に一度の月経シーズンだ。まだ子どもが出来ていないため、こればかりは女性であるからの生理現象。


 男性にはないため、覚が少しばかり羨ましくはあるものの、経験してほしいとは思わない。



『今日はゆっくりしな~?』



 出勤前に、彼にはそう言われたため。コミカライズ業務やアシスタント業務もそう忙しくない時期だからと、今日は一日休養日にすることにした。万智子の場合、一週間のうち最初の二日を過ぎれば痛みは抜け切るため、今を乗り切るしかない。


 薬は一応飲んだものの、気休め程度でしかなかった。酷くなったら婦人科に行ったりはするが、今回はそれほどでもない。酷いときは下痢、嘔吐をするくらいは経験したことがあるからだ。



「痛いけど……眠くはないし、お腹も空いた」



 今回の服用では、眠気をそこまで誘導するほどではなかった。


 なので、暇つぶしに電子書籍などを読み漁ってはいたものの、どうしたって胃になにか入れておかないと空腹になって当然。


 重い身体を動かし、レトルトを探すとおかゆがあったので卵の方をレンチンした。梅の方がいいとされているが、今の気分だとほっと出来る味わいが欲しかったからだ。



「満腹にはならないけど。これくらいでいいよね?」



 気分的には、麺類でがっつりと食べたいところだが。痛みを堪えてまで、少しばかり出来るようになった調理をする気にはなれない。途中でうっかり怪我でもしたら、覚の静かな雷が落とされることは確実。


 今年に入って一回だけ、そんな機会があったのだ。ピーラーで、少し皮膚がめくれた程度の怪我をしただけでも。



『マチちゃん……?』



 と、呼んだだけなのに、言葉の裏では『怒り』を堪えているのがよくわかる凄みを感じた。あのような事態は、もう二度と見たくない。静かな雷の如く、切々懇々と、説教をされたのだからそれも嫌だった。


 なので、満足は出来てないが食べ終えたらベッドに戻る。それからまた、タブレット端末で電子書籍を読み漁っていると、時間が過ぎるのはあっという間で。



「ただいまー」



 端末の時計で、午後6時になったくらいに覚が帰宅してきたのだ。おそらくだが、万智子の不調を気にして早めに退勤してくれたのかもしれない。



「マチちゃん、どう?」



 部屋に入ってくると、マイバックの中から取り出したのはオレンジジュースの紙パック。


 カフェインレスコーヒーではなく、酸っぱいものが欲しくなるという性格を覚えてくれていたのが嬉しくて、手を伸ばした。



「まだ痛いけど……お腹、空いた」

「昼は?」

「おかゆ、レンチンしただけ」

「なんか作り置きしておけばよかったね? サラダチキン、ちょうど切らしてたし」

「それはいいんだけど……」



 作家業以外に、普段の会社員業務もしているのだから、無理は言えない。


 そろそろ、覚も夏休み期間には入るが今年はWEBのコンテストに向けて何作品か執筆しているらしく、応募に力を入れていた。


 その邪魔をしたくはないし、万智子の自炊レベルが低いせいでご飯もあまり作れないのだ。というと、静かな雷が落ちるだろうから絶対に言わないでおくが。



「んじゃ、ちょっと待ってて」



 なにか思いついたのかで、覚はキッチンに行ったようだ。リビングのドアを開けたような音がして、そのあとにがさがさとマイバックの中身を出しているのも聞こえてくる。


 食材で何を買ってきたかは知らないから、たしかに任せておくしかない。


 また端末を動かして、しばらくベッドで待っていると……開けたままのドアの向こうから、ふわりといい匂いがしてきた。コンソメのような、濃いスープの香り。



「ほい、お待たせ」



 トレーに載せてきたのは、スープボウルとスプーン。ボウルの中身は、飴色の玉ねぎたっぷりのスープにバケットと焦げたチーズ。


 こんな短時間で、『オニオングラタンスープ』を作ったと言うのか。作り置きには、そんなスープストックはたしかなかったはずなのに。



「え? どうやって??」

「スープだけは、レトルト。バケットとチーズは買ってきたから、バーナーで炙っただけ」

「あー……」



 たしかに、それなら短時間で出来るはず。スープはレンチンでもすれば、熱々に出来るくらい簡単だ。


 端末をボードの上に置き、トレーを受け取ったら手を合わせた。



「いただきます」

「召し上がれ」



 まずはスープの部分から。とろとろ熱々のスープを含むと、夏の暑さも関係なく、ほっとした気持ちになれた。ふたくちくらい飲んでから、次はバケットをスプーンで切り分ける。スープでふやけた部分を含めば、スープとはまた違ったとろとろした食感が堪らない。あとから来る、チーズのまろやかさも加わって、さらに美味しさを実感した。



「……生き返る~」

「良かった。なんとなく、こってりしたもの食べたいんじゃないかと思ってさ?」

「よくわかったね?」

「姉貴がまあ、こういう時にはお袋に色々強請ったりしてたんだよ」

「あーね。個人差あるけど、これめっちゃしんどいし」

「肩代わり出来ないからね? さて、メインは何食べたい? スープだけだとお腹空くでしょ?」



 男性によっては、煩わしいとか思う事例もあるとされているが覚には関係がないと言わんばかりの対応。


 それが嬉しくて、万智子は出来るだけ刺激物の少ないメニューを選ぶことにした。今回は、栄養も考えて久しぶりに豆腐のチヂミを。


 覚は雷を落とすことなく、任せて、とまたキッチンに戻っていった。

次回はまた明日〜

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