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流行りの婚活したら、旦那の料理が美味しすぎた〜時短レシピに胃袋掴まれた同人作家嫁の日々〜  作者: 櫛田こころ


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第10話 市販ルゥなしのハヤシライス

 それは覚の休みの日だった。買い出しはいっしょに行こうと車のキーを持って誘ってくれたので、万智子は頷く。


 退職してから、あまり出歩かなくなるため、適度なドライブと軽い運動も兼ねての提案は納得しているからだ。



「昼か夜かでいいけど。またハヤシ作っていい?」

「いいけど。あのルゥ買わなくていいやつ?」

「そうそう。ケチャップとウスターソースいい加減使い終わりたいし? 牛肉が今日安いってチラシのアプリで出てたからさ」

「……家計の主夫」

「いや、ハヤシに豚肉もいいけど。出来れば牛肉で食べたいだけ」

「そーなんだ」



 あんまり食にこだわりの薄い万智子にはどれもこれも美味しいので、覚の料理には基本的に文句を言ったことがない。ネームとか下書きには注意をされたときに、少し以上のショックはあるがそれは覚がプロのラノベ作家だから。


 普段はただの料理好き青年でしかないので、プライベートの好き勝手にツッコミを入れたらいいのかとか気にしなくていい。と言ってくれたのは覚本人なので、これまでのSNSのやり取り以上のことを知っていく機会は毎日見ていて新鮮だ。料理男子のこだわり様は昔の彼氏とかにもいなかったから、勉強になることが多いのだ。


 ちなみに、ルゥなしのハヤシライスには小麦粉少々とバター。あとはケチャップとウスターソースに牛乳少々で出来上がってしまう時短レシピ。覚がSNSで見つけたレシピを参考にしているらしい。


 ひとつ違う点は、肉を覚お手製の塩麹に少し漬け込んでから……ひと手間加えるのだ。


 牛肉特有の灰汁取りを、お湯にくぐらせるだけで済ますと言う。



「いや~、この光景毎回見ても科学実験してる気分」

「ほんと……」



 耐熱ボウルの中に、ケトルのお湯をたっぷり入れ。その中に数枚程度牛肉を入れたらしゃぶしゃぶ。ザルに引き上げて置いておくを繰り返したら……お湯が灰汁だらけで嫌な鼠色と白い泡まみれになるのだ。煮込まないだけでもこれだけの灰汁が出るのは、初回のときも万智子は相当驚いた。



「けど、火を通し過ぎる手間も省けるし。肉も柔らかいんだよな~」

「それは最初食べさせてもらったから知ってる」

「だろ?」



 この作業の間に、スライスした玉ねぎと刻んだえのきは深めのフライパンの中でじっくり炒めてある。そこに肉を投入してから、軽く炒め合わせるらしい。調味料は粉から順に入れて炒め、水で少し薄めてとろみが出たら完成。


 少し安いルゥよりコクがあるような気がして、このきのこ入りのハヤシを食べたときに万智子のハヤシライスへの概念が変わったのだ。


 ただ、今回はこれだけじゃないらしく……冷蔵庫から覚が出したのは。



「ん? 卵??」

「昼飯だし、ランチ風にドレスオムにしてあげるよ」

「わー!!」



 オムレツのたんぽぽタイプも憧れるが、覚曰く、それはまだ修行中なので花のように仕上がる薄焼き卵のオムライスにしてくれるらしい。フライパンに卵液を入れ、少し焼けたところからくるくるとドレスのレース部分のように巻いていくのが見ていて楽しかった。


 絵があまり描けないと言った覚でも、料理は別。そんな特技があるのも尊敬の念がまた強くなってしまう。感謝感謝とカトラリーの準備をすることにした。


 スープはこの間まではあったまかないスープはもう食べきったので、今日は普通にお湯で割るカップスープ。しかし、メインはオムハヤシなので文句なし。サラダもカットサラダをドレッシングで合えただけなのも文句は言わない。


 こだわり過ぎて、力の抜き具合を見計らわないと料理も持続しない。それは仕事も同じだが、無理を通し過ぎてまで続けるものもよくないのだと……覚は、付き合っていた頃に言ってくれたのだ。


 ただ束縛が少し激しいロールキャベツ男子だけでなく、きちんと社会人らしい考えも持っている男性としてのアドバイス。旦那にはもったいないくらいなのに、万智子を必要以上に気に入ってくれているのだから……そろそろ、共寝以上の関係になってもいいくらいには絆されてしまっていた。


 結果、まだ風呂以外で肌の見せ合いっこをしていない恋愛初心者のままなのだ。



「「いただきます」」



 出来上がったオムハヤシにスプーンを入れれば、ふわとろに仕上がった卵と手作りハヤシライスの組み合わせは文句なしの逸品だと口に運ぶ。シャキッとしたえのきは今回も味の邪魔をしないくらいに気にならない。玉ねぎの甘さも、下処理をした牛肉のやわらかさも絶品。


 勢いで食べ進めてはおかわりがあっても身体によくないので、サラダとかも挟みつつ咀嚼を繰り返した。



「美味し?」

「おいひい~。しいたけはまだだめだけど、えのきはだいぶ大丈夫になったみたい~」

「慌てなさんな。おかわり全部食べていいから」

「いやいや。さすがにあの量は」

「そ? 遠慮しなくていいのに」

「魅力的だけど。結構満足度高いんだよ、さとくんのご飯」

「そりゃどうも」



 料理男子の魅力にもすっかりドはまりしているが、このあとの約束は忘れていない。近々同人イベントでサークル参加するための新刊の仕上げチェックだ。印刷所とかは決まっているが、まだ提出はしていない。何回も覚の力を借りているが、ほぼ編集作業に等しいところまで関わった作品は今回が初めて。


 その見返りではないが、初夜の提案もしようか悩んだが自棄になってはいかんと考え直した。


 結果、夕飯前に見せた原稿の仕上がりならと承諾をもらい、無事に印刷所へのデータ入稿を果たしたのである。

次回はまた明日〜

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