第四節 襲来、そして覚醒
友出が仰向けで、体育館の陰で寝ころんでいた。
「何だ、ツトム達か……。学校が終わって、眠たくてしょうがないから寝てたんだわ。じゃあな」
友出は立ち上がり、欠伸をするように頭を掻いた後、その場を立ち去ろうとする。
「コガレ君……」
(回想)
2年4組、教室――。主人公の椅子の裏に『学校に来るな』『うざい』『死ね』などの落書きがマジックで書かれている。それを見て呆然とする主人公。その様子を見たクラスメイトの数人が、クスクスと笑っている。そこに近付いて来る友出。主人公に対して口を開く。
「お前が悪いんだからな。」
「!」
主人公は耳を突く言葉にハッとする。
「遊びに誘っても付き合い悪いし、よそよそしいんだよ。なんか真面目ぶってるし……それと、あの時だって……」
「コ、コガレ君……」
何か言おうとする主人公だったが、構わず友出は立ち去って行く。
「じゃあな」
(回想終了)
体育館裏から歩き出す友出だったが――、
「!」
何かに気付く。
「何だ……この生き物は……!」
「……ゾム(なかま、やられた……。にんげん、たおす)」
友出の前方に1匹のゾムビーの姿が――!
「どこから湧いてきやがった!?」
体育館の近くの排水口に、ゾムビーの体液らしきものが滴っている。
「ゾムビーだ……危ない! コガレ君!! 逃げて!!」
友出の身を案じ、叫ぶ主人公。それに対し友出は唖然とし、只々、立ち尽くしている。
「サケル君! 回避の術を使って応戦しよう! コガレ君を助け……」
主人公が逃隠の居る方へ、パっと振り向く。しかしそこに逃隠の姿は無い。
(逃げたぁ!?)
驚愕する主人公。一方で友出はようやく冷静になり、体を動かせるようになっていた。
「化け物め! 喰らいやがれ!!」
ゾムビーに蹴りを入れる。
「ガッ」
ゾムビーの顔面にヒットする。一旦、怯むゾムビー。しかし体勢を整え友出に襲い掛かる。
「ゾムー‼」
「ダメだ! コガレ君、奴が出す体液に触れたらいけない! ゾムビー化してしまう! 逃げて‼」
「うるせぇ! ツトムのクセに俺に指図するな!」
友出は主人公の忠告に、反射的に反論した。
「ゾムバァ!(いまだぁ!)」
「バシャッ」
ゾムビーの口から体液が吐き出される!
「うおっ」
体液を避ける友出。
「バシャッ……ジュウゥゥウウウ」
体液が落ちた地面が軽く溶け出して蒸気を上げている。
(ツトムの言ってることは嘘じゃなさそうだな……)
状況を理解し始めた友出は、軽く額に汗をかく。
(コガレ君を助けないと!)
ポケットに入れていた手袋を取り出す主人公。
「ギュッギュ」
「よし!」
それを手にはめ、指を握る。
「やぁぁああああ‼」
その後主人公は走り出し、両手でゾムビーを突き飛ばそうとする。
「!!」
が、ゾムビーを押し倒すことすらできない。
(重い、病院の時とは違う!)
「ゾム!(くらえ!)」
「ドッ!!」
逆にゾムビーは、右腕で主人公を突き飛ばした!
「うわっ!」
主人公は4,5メートル吹き飛ばされる。幸い、長袖長ズボンの学ランの制服を着ていたので体液は体に付かなかった。そのまま、地面に横たわる。
「はぁ……はぁ……(病院の時のゾムビーとは、パワーが違う!)」
「クソがっ!!」
ここで友出はゾムビーを右脚で2,3発蹴る。しかし今回は両腕でガードされ、ダメージが入らない。
「ゾム!」
一転――、ゾムビーは友出の脚に蹴りを入れる。
「なっ!?」
「すてーん」
派手に転ぶ友出、こちらも地面に横たわる。
「ゾム……ゾム……!(おまえも、なかま……なれ……!)」
牛歩の歩みで、じわじわと不気味に……ゾムビーは友出に近付く。
「逃げて! コガレ君!!」
喉が裂けるような声で主人公は叫ぶ。
「くっ」
しかし、友出は動けない。
「ゾムバァアア!!」
ゾムビーの体液が友出に襲い掛かる。
「コガレ君!!」
(回想)
「俺たち、親友だよな?」
(回想終了)
(嫌だ……絶対に……コガレ君を、死なせない!!)
瞬間――、
片膝を立てていただけの主人公、彼の手袋をはめた両手が光り出す。そして――、
「ブワッ」
謎の光が放たれ、友出に襲い掛かっていた体液ごと、ゾムビーが吹き飛ばされた。
「ガッシャン」
「ゾムァアア!」
そのままゾムビーは敷地内のフェンスまで吹き飛ばされる。
「コガレ君は! 僕が守る!! だって、親友だから!!!!!!」
主人公の両手が更に強さを増して光り出す。
「ハァァァアアアアア‼‼‼」
「ゾムゥウウウウウウウ‼(いたい、やられる!!)」
ゾムビーの体が、中に何かが入り込んだように変形し出す。そして――、
「ゾマァァアアアアア‼」
「パァン‼」
ゾムビーの体が破裂した。フェンスのすぐ下に、ゾムビーの肉片が落ちていく。フェンスには、大きな穴が開いてしまった。
「た、助かった……」
汗をぬぐう友出は、安堵の表情を浮かべる。
「コガレ君……、大丈夫!?」
その友出に、主人公は駆け寄る。
「ああ、お陰様でな」
腰を落としていた友出は、体勢を立て直しながら答える。すると――、
「ツカ……ツカ……ツカ……」
前に主人公が聞いた、あの足音が近付いてきた。
「私が来たからにはもう安心だ、少年……と言いたいところだがこれは一足、いや二足も三足も遅かったかな?」
「スマシさん!」
爆破スマシが現れた。
「タタタタ、ザッ」
遅れて、狩人の隊員も到着した。
「遅いぞ、お前ら!」
「ハイ! 申し訳ありません」
突然の、武装した連中の登場に、友出は唖然とする。
「こいつらは一体?」
「政府公認部隊・狩人の人達だよ。ゾムビーを駆除してくれているんだ」
ぽかんと口を開けていた友出に主人公は優しく答えた。
「フッフッフ。俺様が呼んだんだゼ、ケータイでナ」
逃隠が、自分の手柄とでも言わんばかりな様子で、どこからともなく現れた。
「サケル君! どこに居たんだよ、もう」
「フッフッフ。回避の術の一つ、隠れ蓑の術で身を隠していたのダ! この隠れ蓑の術とは――」
(まるで忍者だ!!)
呆気にとられる主人公。
「ほう……これは…………隊員達! ゾムビーの肉片を処理しろ!」
「ハッ」
ゾムビーの残骸を確認した後、隊員に命令を下す爆破、続けて主人公に話し掛ける。
「少年、君がやったのか?」
「ええ、一応……」
主人公は自信無さげに答えた。
「ふーむ」
どうしたものかと、爆破は腕を組む。
「(見たところ、装備しているのは手袋のみ……か)少年、君の持つ超能力でゾムビーを撃退してくれたのかい?」
「いえ、超能力と言うか……両手がいきなり光り出して……ブワッてなって……僕、必死で」
主人公は身振り手振りを用いながら、曖昧に説明する。
「(自覚症状無し。そしてたった今発現したのか……面白い)少年、まだ名前を聞いていなかったな。名は何と言うのだ?」
「ツトム……。主人公ツトムです」
「うん、いい名前だ。ツトム、来てほしいところがあるんだ」
「? どこにでしょうか」
主人公はキョトンとなり、問う。
「地図を渡そう」
爆破から一枚の紙が手渡された。
「今すぐにとは言わない。丁度良いことに、もうすぐ中学生も夏休みだろう? 夏休みになったら地図の示す場所へ来てくれ。待っている」
爆破はそう一言二言、言っただけで帰ろうとする。
「どうしてですか!?」
主人公は呼び止めるように問う。爆破が顔半分だけ彼の方に振り向き、答えた。
「無理にとは言わない。しかしツトム、君に会わせたい人がそこにいるんだ……」
「僕に……会わせたい人……?」
いきなりの情報過多に、主人公は困惑する。
「では、さらばだ」
爆破はそのままゆっくりと歩き、学校の敷地外に消える。隊員達も後を追うように動き出す。
「……行ったか」
友出がムスッとした表情で口を開く。
「もっと早く来いってんだ。畜生……」
「コガレ君……」
「おいツトム、行く必要はないぜ。あんなふざけた奴の言いなりになんなよ」
友出の言葉に、主人公は俯く。
「ツトム」
口を開いたのは逃隠だった。
「俺はツトムが行くなラ、ついて行くゼ。何せ、あの狩人の誘いだロ? ゾムビー達を駆逐するための、いい情報が貰えるチャンスダ。そこに居る、友出……だったけカ? そいつは気が乗らないらしいがナ」
そのまま彼は、友出の方に視線をやった。
「フン、勝手にしろ!」
友出は少し怒鳴ったように言う。直ぐに後ろを振り返り、立ち去ろうとする。
「俺はもう、おいとまさせてもらうぜ。じゃあな。……それと、ツトム」
「?」
「今日は……ありがとう……な。……助かったぜ。あと、親友ってお前の口から言ってくれて、嬉しかった」
「コガレ君……!」
主人公は顔をほころばせる。
「おいおイ、顔くらい合わせて話してやったらどうなんダ、友出。そんなに礼を言うのが恥ずかしいカ?」
逃隠は顔は真剣に、言葉では茶化している。
「うるせぇ! とにかく! そういうことだからな! 俺は帰る‼」
顔を赤くした友出は歩き出す。
「サケル君、そういうのはちょっと……」
「何が悪いんダ? ツトム。ホントの事を言ったまでだゼ」
「あぁー……」
主人公はたじろぐ様子を見せた。
(それはそうと、スマシさんの誘い、じっくり考えよう。夏休みまであと10日くらいある)
――翌日。2年4組教室の扉前。いつものように主人公が扉を開ける。
「おはよう……」
小さな声で挨拶をしてみた。
(何で挨拶なんかしたんだろう。したところでまだ来てないサケル君くらいしか返してくれないのに……)
ふと顔を上げると、そこには友出の姿が。
「おはよ! ツトム」
友出は挨拶を返した。ぱぁっと明るい表情になる主人公。友出の周りのクラスメイトが口々に言う。
「コガレぇ。お前なんだってツトムなんかに」
「やめとけって」
「ん、別にいいじゃん?」
クラスメイトの意には反して、友出は漂々としている。主人公はしばらく友出を見つめてから、席へ移動する。
「よウ、ツトム! 何ダ? ニヤニヤしちゃっテ」
逃隠が登校してきた。
「別に、何でもないよ」
喜びを隠しきれないまま、主人公は答える。
――10日後、夏休み初日。地図に書いてあった場所に到着する主人公と逃隠。
「ここか」
研究所のような施設を、主人公は見上げていた。
「わくわくするナ、ツトム」
逃隠が話し掛ける。
(ここで何をしているんだろう、狩人の人達は……)
タダならぬ雰囲気で佇む施設の扉が、急に開いた!
「ウィ――ン……」
「ツカ……ツカ……ツカ」
中から足音を立てて爆破が現れる。
「待っていたぞ、ツトム……と誰だ? 付き添いの者か」
「俺の名前は逃隠サケル!!!! 俺の夢……いや、目標は! 世界中のゾムビー共を駆逐することダ!!!!!!」
転校初日の自己紹介の時と同じセリフを、逃隠は言い放った。
「はっはっは。威勢がいいな。よし、気に入った。サケル君、君も超能力を使えるのかい?」
「そういうわけではないガ、逃隠家に代々伝わる奥義、『回避の術』を使えル。ゾムビー退治に一役買える存在になると思うガ?」
爆破の問いに自信満々に答える逃隠。
「ますます気に入った。君もこの、狩人ラボに入るといい。二人とも、こっちだ」
そう案内する爆破の後に、主人公達は続いた。
――、
中に入ると、外観と同じく銀一色の内装で、その壁を時たま信号のような光が伝っていた。
「うおぉぉおオ!! シルバー! シルゥバァー!!」
はしゃぐ逃隠。
「はは、珍しいか? ここはゾムビーの体液では溶解出来ない、特殊な金属でできていてな、壁には様々な通信回路も備わっている」
「俺は感動したゼ――。生まれてきて良かっタ!」
「サケル君、静かにしようよ」
途中、忙しなしに資料や備品を運ぶ職員に出くわした。誰もが爆破にお勤めご苦労様です、と挨拶をするために足を止めていた。
暫く中を進むと、一つの扉の前で、爆破が歩きを止めた。
「さてツトム。君に会わせたい人というのがこの扉の向こうに居る」
そう言うと爆破は扉を開けるスイッチを押した。
「ウィ――ン、ガシャン」
扉が開くとそこは研究室のようなところだった。研究者たちがコンピュータや実験器具の前で作業を行っている。
「こっちだ」
そう言って爆破が指差したその先に、ガラス張りの部屋があった。そこには女性のようなナース服を着たゾムビーが椅子に座っていた。
「あれは……尾坦子さん!?」




