第七節 隊長
スパッと縦に切りつけられる石のゾムビー。体の断面から例の石が顔を覗かせている。
「! サケル!」
「だい!」
身体の呼びかけに、答える逃隠。逃隠は刀の剣先でピッと石をゾムビーの体から取り出した。
『今だ! 掛かれ!!』
『ラジャー』
hunter.T州支部の隊員に指示を出す身体と、それに答えるT州支部の隊員。特殊素材の袋を、二人がかりで石を失ったゾムビーに被せる。石が無くなってしまえばこっちのモノと、手早く捕獲を行う隊員。紐で括り付け、捕獲は完了した。
『あと1体だ』
意気揚々と最後のゾムビーに向かって行くT州支部の隊員。
『待て! 石のゾムビーの可能性もあるぞ!』
冷静な身体。T州支部の隊員へ注意を呼び掛ける。
『へ……?』
「ゾゾォ!!」
突然巨大化したゾムビーは体液を吐いて来た。バシャバシャっと、一名また一名と体液の餌食になる隊員達。
「ゾ……」
「ゾム……」
「まさか……」
身体は一抹の不安を持って例の石をかざす。カッと輝くゾムビーの体。身体の不安は的中する。光った個所は2カ所。このゾムビーは壁のゾムビーだった。
「ゾ……ゾム……」
不気味な呻き声を上げるゾムビー。
「副隊長! どうすれば!?」
必死になって身体に指示を仰ぐ主人公。
「! ……まずはゾムビー化した奴らの処理だ。狙撃用意!」
カチャっと銃器を構える狩人部隊。
「!……」
中には、構えに迷いがある者もいた。
先程まで同じ作戦をおこなっていた人間を殺す。それが頭に過る。
しかし、日本での経験がその一念を掻き消した。
「……撃てぇえ!!!!」
「タタタタタタタタ!!」
身体の号令でゾムビー化した元、hunter.T州支部の隊員を狙撃する狩人部隊。
(さて、どうしたものか……)
身体は次の指示を冷静に考える。すると、またもや爆破の言葉が脳裏を過ぎる。
(回想)
「私にもしもの事があれば、この部隊を仕切ってくれるのはお前だ。宜しく頼むぞ」
(回想終了)
暫くの間だんまりだった身体、遂に口を開く。
「ツトム! あの壁のゾムビーを倒すぞ!!」
「いいんですか!?」
主人公は動揺を隠せない。
「今、ゾムビー達と和解の道を歩もうとしているのに、倒してしまって。本当にいいのですか!?」
数秒だけ間を置いた身体は主人公に語り掛ける。
「……構わん。全責任は俺が取る。グングニルでアイツを倒すんだ!!」
「! 分かりました!!」
壁のゾムビーの前に立ち塞がる主人公。両手を構える。
「グングニル!! ハッ!!!」
主人公の両手は虹色に輝き、周囲を光で包み込んだ。更に両手から虹色の矢が出て来て、それは壁のゾムビーに向かって行った。
「ゾゾォ……」
矢はゾムビーに襲い掛かる。すると、ブワッとゾムビー自身も虹色に輝き始め、その体はどんどん小さくなっていった。
「ゾォオ……」
壁のゾムビーは更に小さくなっていき、遂にはその姿は消え去ってしまった。
「ポチャン」
壁のゾムビーから出て来た石2つは湿った地面に落ちていった。
「やりましたね」
そう言って主人公は地面に落ちていた石3つを拾い上げた。
「ああ、やったな。ツトム」
身体は主人公に労いの言葉を掛ける。
「昨日の1つと合わせて、コレで全部だい!」
逃隠は石のゾムビーから奪った石を見せびらかしながら元気よく言った。
「でも、本当に良かったのですか? 壁のゾムビーは元々ゾムビーだった個体で、それを倒してしまった。これで和解と言えるのでしょうか?」
主人公は顔をしかめながら身体に問う。身体は堂々と答える。
「なぁに、もしもの事があっても俺が全責任を取る。どんな罰でも受け入れよう」
その時――、
『……ァ……ヤァ人間達』
「!」
「!?」
「!!」
例の“声”が聞こえて来た。
『石ヲ良クゾ集メテクレタ。感謝スル……』
「……ひとつ、いいか?」
身体が神妙な面持ちで、ゾムビーの親玉の声を遮る様に言う。
「さっき、ゾムビーを一体、葬ってしまった。和解と言っておきながら、悪かった」
ゾムビーの親玉は返す。
『制御ノ効カナクナッタゾムビーダナ。謝ルノハコチラノ方ダ。ゾムビーニ攻撃シナイヨウ、命令シタガ届カナカッタ。始メハ月ノ軌道上ニ居タ為、距離ガ足リナカッタノダ。今ハ月ノ軌道上ヨリモ地球寄リニ移動シタ』
「成程。だから、今は声も届くのだな?」
『ソウダ。ソシテ、コレデ全テノ石ガ揃ッタトイウ訳ダ。期限ヨリ大幅ニ早ク、石ヲ集メテクレタナ、礼ヲ言ウ』
「では、後は石とゾムビー達を宇宙に飛ばすだけだな?」
『ソウダ。宜シク頼ム。デハ、サラバダ』
身体とゾムビーの親玉との会話は終わった。
(ふう……ひと山超えたな。…………爆破スマシ隊長……俺は貴女の様な働きができましたか? 貴女に少しでも近付く事ができましたか?)
身体が物思いにふけっているそんな中、主人公が話し掛けて来た。
「やりましたね! 身体……隊長!」
「! 隊長だ……と……?」
思ってもみない言葉に動揺する身体。
「だい!」
逃隠も、身体の事を改めて認め、声を掛けた。主人公は続けて言う。
「そうですよ! 的確な指示があったから、日本の狩人部隊は一人としてケガ人すら居ませんよ?」
「……そう……だな」
暫く間を置いて、身体は口を開く。
「向こう側には悪いが、ゾムビー化したのはhunterの隊員達だけだからな」
「流石は身体隊長だい!」
「よせ、サケル」
逃隠は大喜びの様子だった。身体は少しだけこっぱずかしい様子だ。
「隊長!」
「!」
再び主人公が身体に話し掛ける。
「この後は、どうするのですか?」
身体は答える。
「恐らくだが、これからN州支部まで石とゾムビーを運ぶ。その後、そいつらをロケットに乗せて発射させる。それで、完全にゾムビー達との戦いが終わる」
「成程、どうして恐らく、なのでしょうか?」
「まだあちらには連絡をしていないからな。これから連絡だ」
そう主人公に言った身体はおもむろに通信器を持ち出した。英語で話し始める身体。
『もしもし、俺だ。石とゾムビーの回収が終わった。そちらで宇宙に飛ばしてもらうが良いか?』
『……』
『……分かった』
通信を切る身体。主人公が問い掛ける。
「どうでしたか?」
「GOサインが出た。明日はhunter.N州支部にもう一度行くぞ!」
hunter.N州支部でロケットを発射する予定が決定した。
「これからロッジに戻って一晩過ごすぞ、皆」
「はい!」
「だい!」
(ん?)
主人公はとある事実に気が付いた。
(一晩泊まるんなら……ゾムビーを一晩寝かせるコトになる――!!)
ロッジに戻り、一晩過ごす一行。ゾムビーも、ロッジの外で一晩過ごした。
翌日――、
クイアバへ向けて、早朝からバスで移動する一行。約四時間後、クイアバに着いたら、空港で飛行機に乗る。ラスベガスへの長旅である。
この一年で何度も飛行機に乗ることとなった主人公は、慣れた様子で飛行機の窓から空を少しの間眺めて、すぐに眠りについた。一方の逃隠はやや興奮気味に窓の外を見て雲の様子を観察し、写真を撮っていた。身体は落ち着いた様子で、一睡もせずにただただ、飛行機の椅子に座っていた。何か思う事がある様だった。
ラスベガスへ着いた頃には夕暮れ時になっていた。
「皆居るか!? 点呼をとるぞ!」
身体が点呼をとり、人数が確認された。ラスベガスから軍用車両で二時間半ほど走った先に、hunter.N州支部が存在している。
――、
「着いたか……」
軍用車両から身体が顔を出す。一行はhunter.N州支部に到着した。
(また、来てしまった……)
(回想)
「スマシさん、これからどうするのですか?」
主人公は問う。
「これから宇宙へ飛ぶんだ」
「え?」
(回想終了)
(あんなコトがあったから、多分一生忘れられない場所になるんだろうなぁ)
主人公は思いをはせる。そこで、
「ウィーン」
ラボの扉が開く。
『ようこそ! お待ちしておりました』
使いの者が、英語で話し掛けてくる。
『済まない。ロケット発射の準備は出来ているか?』
身体は問う。すると、使いの者は首を縦に振った。
『当然。さあ、奥へどうぞ』
ラボ内を歩く一行。依然と同じく、ラボ内は日本では見たことの無い金属でできている。狩人関東支部とは違い、ゾムビーの侵入を、一切許さないつくりになっているのが分かった。
『こちらです』
一行はとある会議室のような場所へ招かれた。
「ウィーン」
部屋の扉が開く。
『さあ、座って下さい』
(今、Please sit downって言ってたような)
(何を話しているのかさっぱりだい)
主人公と逃隠の意見はやっぱり割れていた。
身体、狩人隊員達が順に座っていくのを見て、主人公、逃隠もその部屋の椅子に座った。部屋にはモニターがあった。そこでモニターに映像が映る。
『さて、今回の作戦について話したいと思います』
使いの者が説明を始めた。
『今回、小型のロケットを使って宇宙ヘと石とゾムビーを送り出したいと思っています。小型ロケットの先端に……』
(やっぱりだけど、中学生の英語レベルじゃあ全くついていけない……サケル君は……)
主人公は逃隠に目をやる。
「スピー……スピー……」
(寝てる!? 会話が分かんないからって……! 随分と肝が据わってる……)
一方で身体はコクリと何回か頷きながら話を聞いていた。
『……と、いう事ですが』
瞬間――、
ザザッとモニターに砂嵐が!
「!」
「!?」
「!!」
周囲に衝撃が走る。そして、
『御機嫌ヨウ、諸君』
例の何度も耳にしたあの声がこだました。ゾムビーの親玉の声である。
『これは……一体……』
使いの者は動揺する。
「何をしに来た!?」
ガタッと椅子から立ち上がり、身体は言う。
『ヨクゾ、地球上ニ存在シテイタ石トゾムビー達ヲ回収シテクレタナ。congratulationト、イッタ所カ?』
「何が言いたい!?」
身体は続けた。
『石ノ返還ニツイテダ。石ノ返還方法ダガ、手渡シ、トイウノハドウダロウカ?』
「何故だ!」
『特ニ意味ハ無イ。ダガ、完全ニ和解スルニ当タッテ景気ヅケニドウダ? 手渡シノ方ガ箔ガ付クダロウ?』
「……まあいい、要求を呑もう」
身体は大人しくなり、椅子に座った。
『……』
使いの者は通信機を使ってどこかに連絡をしている。どうやら、日本語でも英語にも聞き取れるらしく、使いの者は親玉の声を理解し、ラボ内のロケットを制御している場所へ連絡をしている様子だった。
『……』
ピッと通信機の通話を切ってこちらを向く使いの者。
『ふぅ。どうやら、作戦変更になる様ですね。4名くらいになるでしょうか? ロケットに搭乗してもらうコトになりそうです』
『よし、俺が行こう。こちらの、逃隠サケルと主人公ツトムも搭乗してもらう』
(今、僕とサケル君の名前が挙がったような……)
身体の英語での発言に、不安を覚える主人公。
『そうですね……後の一人はパイロットとしてこちらの隊の者を一人送りましょう。では、ここで待ってて下さい。では』
使いの者は部屋から出て行った。
シーンと静まり返った室内で、主人公が口を開く。
「隊長、まさか……また、宇宙へ……?」
「その、まさかだ」
(! ! ! !)
衝撃を受ける主人公。
「隊長! 誰が乗るんだい!?」
逃隠の問いに答える身体。
「俺とサケル、そしてツトムとhunterの隊員一人だ」
「! また全米を泣かせるんだい!」
(だから、サケル君……縁起が悪いって)
そっと思う主人公であった。
――、
『中型のロケットだ! 急いで!』
『機体チェックはどうなってる!?』
『冷却水、散水設備は!?』
慌しくなるhunterラボ。発射されるロケットの変更で発射準備が新たに行われる。
そして――、
遂には移動発射台に中型のロケットが載せられて、発射場に運び込まれてきた。発射準備開始から数時間後――、主人公達も別室で宇宙服に着替えて、発射に備える。
(これで二回目だ……中学生にして、二回も宇宙へ飛ぶとは……)
ブルーな気持ちになる主人公。
そこへ――、
「ツトム!」
身体がやって来た。
「隊長……」
「手渡しで石を相手に渡すと言ったが、その役を務めるのはツトム、お前だ」
「! え!? な……何で……?」
ふーと溜め息をつく身体。
「超能力を使えるからだ。リジェクトで、宇宙空間を移動してもらう」
「でもっ! あれは……リジェクトはまだ出せるかどうか試してなくて……」
「なら今試すんだ……試せ」
「(! 身体隊長、ホントにスマシさんに似て来たなぁ……)ハイ、ワカリマシタ」
硬くなる主人公。そして、
(拒絶……嫌なコト……今回の任務に、失敗したく……ない!)
カッと両手が光り輝く。
「リジェクト!!」
ドッという音と共に近くにあったゴミ箱が吹き飛んだ。
「……いけるじゃないか、ツトム」
「は……はい! 良かったです(何言ってるんだろう……僕)」
『搭乗準備、やや不安ではありますができましたよ!!』
hunterの職員が部屋に入って来て言う。
『“やや不安”、とは?』
『急ピッチでやった確認作業なため、9割の信頼性しかない、といったところです。こんな短時間にしては頑張った方だと思うけどね』
『分かった、行こう』
身体は搭乗に向かう。主人公、逃隠もまた、身体に手で促されて搭乗に向かった。
コックピットに座る、hunter隊員を含む4人。
(そういえば、前の時には心の準備についてとか、スマシさんに教えてもらってたっけ)
(回想)
口を開く爆破。
「私達は瞬間的に1.6Gの重力で椅子に押し付けられる。これは旅客機の離陸時で感じる時の重力のおよそ5倍になる」
「ご、……5倍……!?」
「だい……」
絶句する主人公と逃隠。
「まぁそれは防ぎようの無い事だ。だから、それに備えての心の準備が必要になる、といった感じかな?」
(回想終了)
(もう……スマシさんは居ないんだ……新たに隊長となった、身体隊長の下で任務を行っていく。その任務も、今回が最後。これで……すべてが終わる)
手袋をはめた右手を見つめる主人公。強く拳を握る。
(終わらせるんだ……自分達の力で……!)
『発射5秒前……スリー、ツー、ワン……』
轟音と共に、ロケットは発射された。主人公達を重力が襲う。
「クッ」
重力を耐え抜く事数分、
「ふわっ」
ロケット内は無重力空間となった。
(ゾムビーの親玉……待ってろ……!)




