第六節 パンタナルのゾムビー
主人公を含む狩人部隊は、成田空港を立ちパンタナルへ向かった。途中、北米都市及びブラジル国内を乗り継いで、まずはクイアバに辿り着いた。
現地は時差もあり、真夜中になっていた。そこへ――、
『hey! jap』
軽武装のアメリカ人が話し掛けて来た。
「副隊長、この人は?」
「スッ」
主人公の質問、その言葉を遮る様に主人公を右手で制止して、身体は英語で話し出した。
『無理を言って悪かったな、よく来てくれた』
アメリカ人は漂々と答えた。
『なぁに、ゾムビー関連の被害を食い止めるのがhunterの仕事だからな。当たり前のことをするまでだ』
そのアメリカ人はhunterの責任者だった。会話を聞いていた主人公は静かに思いを巡らせる。
(今、hunterって言ったような……どこかの支部のhunterの人……かな?)
『兎に角、今回の任務、宜しく頼むぞ』
『ああ、こちらこそ』
身体とhunterの責任者は熱い握手を交わした。続けて身体は真剣な表情で言う。
『今回の任務では、もう知っているかもしれないが、計5つの石を集めればいい』
それに対し、hunterの責任者は返す。
『ああ、知っているさ。5個だけ集めれば良いようになったのは、我々T州支部を含むhunter部隊が、アメリカ大陸に点在していた15個の石を、ここ数日で集めることに成功したからだ』
『!』
身体はその数の多さに驚きを隠せなかった。
『そんなにも……か……。助かった、礼を言う』
『礼はいい。二回目になるが、これが我々の仕事だからな』
『……分かった。ではバスで移動しよう』
『ラジャー』
「皆!」
身体が今度は日本語で、狩人部隊に大声で呼びかけた。
「これからバスで移動だ! 移動先のロッジに着いたら明日以降に備えてしっかり眠る様に!」
「ハイ!」
「だい!」
「ラジャー」
主人公、逃隠、狩人隊員達はそれぞれ応答した。
バスで走ること、約4時間。途中野生動物の鳴き声や足音を聞きながら遂にロッジに辿り着いた。バスを降りですぐに、身体は主人公と逃隠に話し掛けた。
「ツトムとサケルは同じ部屋だ。体力を消耗しない様、しっかり寝るんだ」
「はい」
「だい!」
主人公は大人しめに、逃隠は元気よく答えた。
ロッジのとある一室にて――、
主人公と逃隠はロッジのベッドに座り、一息ついた様子だ。主人公が逃隠に話し掛ける。
「今日は移動ですごく疲れたね、サケル君」
「そーだナ、でもなツトム、何かワクワクしてこないカ?」
「?」
逃隠の急な言葉に、ハテナ顔の主人公。
「この任務が終わる頃には、ゾムビー達との戦いも終わるんだい。そうしたら――」
「どうしたの? サケル君」
「俺は新しく、犬を飼うんだい」
「!」
逃隠の突然の決意表明を聞き、驚く主人公。
「いいね、でも何で?」
主人公は興味を持って質問してみる。
「俺はかつて、犬をゾムビーに殺されたんだい」
(! そう言えば、サケル君のお父さんから、そんな話を聞いてたんだった)
「だから、今は……ゾムビーが地上に居る今は犬を飼う勇気が湧かないんだい。でも!」
「!?」
「ゾムビー達が地上からいなくなったら、俺の犬が安全に暮らせる時が来たら、犬を飼うんだい」
「サケル君……」
「だい……」
主人公は逃隠への言葉を少しの時間探して、遂には口を開いた。
「そうだね! 明日から頑張って、絶対犬を飼おうね!」
「おウ! それじゃあ寝るんだい!」
一室の灯りは消えた。主人公はベッドの上で横になったが、少しの間、考え事をしていた。
(サケル君は大切なペットを失ったんだ……。僕は……大切な人を、一時は……。ゾムビー達が居なくなったら……尾坦子さんと一緒に、幸せに暮らそう……!)
少し顔を赤らめる主人公であった。
翌朝――、
朝食を食べる一行。これからの探索に備えて、エネルギーを十分に摂取する。
朝一番に、カヌーで探索を開始する。7月に差し掛かる頃のパンタナルは、湿原といっても日本のそれの蒸し暑さは殆どなく、涼しく過ごしやすい気候だった。カヌーで川を進んで行くと、野生動物に出くわした。ワニやカピバラ等である。
ワニは川辺に並んで餌を捕まえようとしている者も居れば、音もたてずにカヌーに近付いて来る者も居た。カピバラは可愛いものだったが、ワニと来れば一定の距離を保たなければ命の危険が伴う。石をかざして周囲に新たな石が無いか確認しつつ、ワニがどこに居るのかも確認しなければならない、そんな探索となった。
川沿いを半日かけて探索したが、石は見つからなかった。
「一旦、終了だ。ロッジで昼食を取るぞ」
身体の号令で、一行はロッジに戻る事となった。
「パクパクパクパク」
凄まじいスピードで昼食を取る逃隠。
「ブラジル料理も旨いんだい!」
一方で主人公は、
「……」
箸が進まない様子だった。
「どうした? ツトム。味が合わなかったか?」
主人公を心配し、声を掛けてくる身体。
「あ、いえ……昼までに、成果が出せなかったので、これから5つの石を、こんなに広い場所で見つけられるのかなって」
力無く思いの丈を言葉にする主人公。
「ツトム……」
「……」
「バッシ!!!」
主人公の背中に平手打ちを喰らわせる身体。
「! ! ! ?」
激痛を食らい、動揺する主人公。
「ツトム……」
身体がおもむろに口を開く。
「まだ探索は始まったばかりだ、気に病むな」
「は……はい(痛ってー)」
昼食を終えて、今度は徒歩で高さ25メートルのモンキータワーに向かった。
モンキータワーの下へ到着すると、数名がモンキータワーに登り、残りの数名がモンキータワーの下で指示を待った。
登った数名はゾムビーや、石をかざして石の光を探した。
「キラッ」
モンキータワーに登った主人公が、石に向かって来る微かな光を見つけた。
「! 副隊長! 2時の方向から、光が差し込んで来ました!」
「了解だ!」
身体が答える。
「3,4名でその方角へ行こう。石はあるな?」
「はい! ここに」
石を確認する身体と狩人隊員。
「よし! この石をかざしながら2時の方向へ行くんだ」
数十メートル進んだだろうか。所持していた石は輝きを増していき、遂にパンタナルに落ちていた石を、狩人隊員は見つけた。
「副隊長! 石を発見しました!!」
「よし! やったな、ツトム!」
身体は主人公に声を掛けた。
「ハイ! 副隊長!」
主人公もはつらつと声掛けに答えた。
――、
気付けば夕暮れ時になっていた。
「今日はここまで、か……皆! 撤収だ」
身体の号令によって、この日の探索は終了した。一行はロッジに帰る。
ロッジの一室、主人公の部屋――。
(ふぅ……一日任務に当たって疲れたけど、1個、石を見つけられた。あと4つ……あと4つだ)
主人公は、意気揚々と石を集めようと思いをはせていた。その時、
「ブーブー」
主人公の携帯が鳴った。
「なんだい? ツトム。こんな所にも携帯を持って来たんだい?」
「あ……うん、ちょっとね」
逃隠に応対しつつ、携帯を手に取る主人公。
「ピッ」
「もしもし……」
「ツトム君? あたしだけど」
「!!!」
電話の相手は尾坦子だった。
「尾坦子……さん……?」
主人公は豆鉄砲を食らったような顔になっていた。
「あのさぁ、ツトム君、また何の相談も無しに海外へ出てっちゃったの? お母さんから聞いたよ?」
不機嫌な表情が伝わってくるように尾坦子は言う。
「あ……あのさっ、心配かけない様に敢えて言わなかっていうか……」
「何にも相談しない方が心配しますぅ!」
「はっ! はひ」
誤魔化す主人公に、きつい口調で言う尾坦子。返す言葉が見つからない主人公。
「……」
「……」
長い沈黙が二人を襲う。
「……これだけは約束して!」
先に口を開いたのは尾坦子だった。
「え!?」
「ケガ……しないでね」
「う、うん……」
「じゃあね! バイバイ!」
「あ……バイバイ」
「プツン、プープープー」
電話は終わった様だった。
「……」
だんまりの主人公。その胸中は?
(心配してもらってる心配してもらってる心配してもらってる心配してもらってる心配してもらってる心配してもらってる!!!!)
赤面する主人公だったが、
「ヒュ―ヒュー、お熱いネー」
冷やかしの言葉を掛ける逃隠。快く無かった様だ。その夜、主人公は興奮の余り中々寝付けなかった。
翌朝――、
「朝食が済んだら、馬に乗って探索をして行くぞ」
身体の声で隊は引き締まる。今日は乗馬しての探索になる様だ。一人ひとり、乗馬して行く。
(馬に乗るなんて、狩人に入隊してからいろんな経験してるなぁ。まぁ、ロケットに乗るよりかは、珍しくないか……)
主人公はそっと、静かに思うのだった。
「おー! 何だか揺れるんだい!」
逃隠は初めての乗馬に、ややはしゃぎ気味だった。
乗馬してでの探索には理由があった。
川とまではいかない浅い水辺の、ぬかるんだ場所での移動手段として、カヌーや徒歩よりもメリットがあるからだ。パンタナルの馬は何百年も人間に飼われてこの環境に順応している為、安心して身を任せることができる。浅い水辺を、乗馬した一行が進んで行く。
すると――、
キラリと光る物体が。例の紫色の石である。手持ちの石をかざして近付いて行く。地面にある石の、すぐ近くまでhunter.T州支部の隊員が近寄った。
「Wow」
隊員が馬から降りて石に手を伸ばした、
瞬間――、
「ゾゾォ!!!」
「ゾォ!!!」
「ゾゾォ!!!」
「ゾムゥ!!!」
地面から、ゾムビーが4体現れた。
「何!?」
「あぁ!」
身体と主人公も完全に虚を突かれた。
「Oh! No!」
ゾムビーに囲まれる隊員。バシャア、と顔面目掛けてゾムビーの体液が襲い掛かる。
「Oh……ゾ……ゾム」
隊員はゾムビー化した。
更に、近くに居た馬も、ゾムビーの体液を足に浴びたらしく、段々とゾムビー化していった。
「ヒヒーン……ヒヒ……ゾヒ……ゾゾ」
(マズい!)
身体は焦った表情を見せながら思いを巡らせる。
(ゾムビーの動きを鈍らせる機器は、ここには移動手段が無く持ち寄れなかった! 相手を捕獲するのは困難を要する! それに!)
「ゾム……」
「ゾゾ……」
(今、ゾムビー化した者達はどうする? 捕獲して、宇宙に送る必要があるのか!?)
「副隊長! 指示を!」
主人公が叫ぶ。
「くっ」
表情を歪ませる身体。
(そうだ!)
ハッと何か思い付く身体。
「ゾムビーの親玉! 聞いているか!? ゾムビー達が攻撃をして来ない様に指示するんじゃあ無かったのか!?」
「……」
身体の呼びかけも虚しく、親玉からの“声”はこちらへ返って来ない。
「今攻撃してきているゾムビーを退治しても良いのか!?」
続けて身体は声を上げる。
しかし、
「……」
またもや、声は返って来ない。
「副隊長! 何を!?」
主人公は無謀とも言える身体の行動を見て動揺した。
「クッ(“声”は届かないのか!? 早くしなければ残りの隊員達も犠牲になってしまう)」
「ゾゾォ……」
「ゾム……」
身体の不安通り、ゾムビー達はこちらへ向かって襲い掛かって来る。そんな中、身体の脳裏に、爆破との記憶が蘇る。
(回想)
「まずは副隊長」
「は、ハイ……」
反応する身体。
「今まで私の右腕として良くついてきてくれたな、ありがとう」
「滅相もございません!」
「私にもしもの事があれば、この部隊を仕切ってくれるのはお前だ。宜しく頼むぞ」
「は……ハイ!!」
(回想終了)
(そうだ……俺は……!)
満を持して身体が口を開く。
「皆! 聞いてくれ! 現時刻を以て、ゾムビー化した者のみを攻撃対象とする。元々ゾムビーだった敵は、特殊素材の袋で捕獲する! 分かったな!?」
「ラジャー!」
狩人部隊は、身体の命令に従い動き出す。ゾムビー化したhunter.T支部の者、並びにその者が乗っていた馬に銃口を向ける。
そして――、
「タタタタタタタタ」
発砲を開始した。
「ゾ……」
「ゾム……」
2体のゾムビーは一瞬にしてハチの巣になった。
「次だ!」
身体の命令で、袋を用意する狩人隊員。二人がかりで袋の両端を持ち、バサッと一気に元々ゾムビーだった1体に被せた。
「ゾゾォ……?」
多少、暴れるゾムビーだったが袋から出てくることは無かった。
「次は紐だ! 括り付けろ!」
紐で袋を括り付ける隊員達。難なく1体のゾムビーを捕獲する事ができた。
「残りの3体も、同様に捕獲するんだ!」
身体がはつらつと命令を下す。
「ラジャー」
答える隊員達。まず近くに居た2体から、先程と同様に1体につき二人がかりで捕獲していく。
この時、1体には狩人部隊、もう1体にはhunter.T州支部の隊員が担当して捕獲に取り掛かった。
狩人部隊は順調に作業をこなしていく。ゾムビーに袋を被せ、紐で括り付けた。身体に報告を行う狩人隊員。
「こちら、捕獲完了しました」
「よし!」
身体も報告に答える。そして英語でT州支部の隊員に問いかけをする。
『そちらはどうだ?』
その瞬間――、
ドッと鈍い音と共にT州支部の隊員一人が吹き飛ばされていった。
「バシャッバシャッ!」
湿った地面を二度三度跳ねるT州支部の隊員。
(このパワーは、まさか……)
咄嗟に、ゾムビーに対して石をサッとかざす身体。すると、ゾムビーの身体の一部から、身体が持っている石と呼応するかのように、紫色の光りが差し込んできた。
(石の……か……!)
『おい! 一人ではゾムビーを捕獲できない! ゾムビー化させられる!』
T州支部の隊員は、恐れおののきながら叫ぶ。それに対し、身体は
『一旦、引いてくれここは俺達に任せろ!』
冷静に言葉を返した。
「サケル、行くぞ……石のゾムビーだ。死なない程度に攻撃するぞ」
「はっ! ……あいあいサー」
身体と逃隠は石のゾムビーを捕獲するべく、言葉を交わした。ダッと地面を蹴り、走り出す二人。先に攻撃を仕掛けるのは身体だった。渾身の力を込めて右ストレートを繰り出す。
が――、
「ドムゥン」
拳は、ゾムビーの輪郭から沈んでいった。
石のゾムビーは、その体質で衝撃をいなした。
「クッ、サケル!」
「だい!」
身体の陰から飛び出てくる逃隠。そこから自分の体の半分よりは長い様に見える一振りの刀で、斬撃を繰り出した!




