第四節 展望
身体が口を開いた。
「ゾムビーの親玉が大体の場所を、通信器を使って教えてくれるようだ。随分とご丁寧に――、な」
「それなら願ったり叶ったりじゃないですか!」
主人公が口を開いた。主人公の言葉とは裏腹に、身体は俯いた様子だった。
「俺としては複雑なんだ」
身体が話し始める。
「倒すべき敵、隊長の仇と、和解など、俺は心から望んではいない。しかし上の者も、亡くなった隊長自身も、和解の道を望んでいる。ジレンマというヤツだな……上の者と隊長の意志と、自分自身の願いとの板挟みにあっている」
「バッ!!!!!!」
逃隠が手を素早く上げた。
「ジレンマ、板挟みとは何だい?」
「……」
「……」
周囲は静寂に包まれる。
「ハハ、サケルは能天気で良いな。少し心のもやもやが晴れた気がする」
身体は少しだけ心が穏やかになった。
(サ……サケル君……本当に中学生なの……? ボキャブラリーが小学生並だ……)
一方で愕然とする主人公だった。
「そうだ、ツトム」
身体が口を開く。
「グングニルが少しだけ使える様になったんだったな?」
「何!? それは本当なんだい?」
間髪入れずに逃隠が食いつく。
「あ、はい。少しだけですが……」
主人公はやや自信なさげに答える。
「なら、第2訓練場に移動だ! ツトムの状態を見ておきたい」
3人は第2訓練場に移動した。
移動する最中、主人公の心中は、
(もし力が戻らなかったら、僕は、もう……)
不安と戦っていた。
――、
訓練場に着いた。
「さあツトム、やってみるんだ」
身体は主人公に言う。
「ハ、ハイ!」
「ギュッギュッ」
作り直した手袋を手にはめ、集中し始める主人公。
(皆を……守る……皆を……守り抜く)
「グングニル!」
「ブワッ」
主人公の両手が見えなくなる程度の、虹色の光が発生した。
(こ……この前よりも大きな光だ……!)
少し集中力が途切れる主人公。
そして――、
「シュゥウウン」
光りは消えていった。
「最後に気を抜いたな? ツトム」
身体は見抜いていた。
「あ……はい、ごめんなさい」
主人公は申し訳なさそうにする。
「まぁいい、ギリギリ合格だ」
「! ! !」
身体の言葉に喜びを隠しきれずにいる主人公。
「よし……や、やった!!」
喜びを言葉にする主人公。
「へへ、やったんだい」
逃隠は鼻をこすりながら言った。
「さて、二人とも。ここで重大な話がある」
「!!」
「!?」
身体の突然の言葉に、驚く主人公と逃隠。
「これからの対ゾムビーの対応だが……」
(そ……そうだ。石を集める時にゾムビーと遭遇したら、どうするんだろう……?)
主人公は疑問を抱く。身体は口を開く。
「捕獲……」
「!!」
「!?」
「捕獲しろ、と……hunter側から指示があった」
主人公は問う。
「捕獲って……どうやって捕獲するんですか!? それに! 捕獲してどうするんですか?」
身体は答える。
「どうやって……方法はまだ、決め兼ねている状態だ。捕獲した後は……石同様、ロケットで宇宙に飛ばすそうだ」
「! 倒すよりも難しいじゃないですか!?」
主人公は強く言う。
「そうだな……だが、石は返す、しかしゾムビーは倒す、では和解とは言えないのではないか?」
「! そ……それは……」
「だい……」
身体の言葉に、何も言い返せない主人公と逃隠だった。
「しかしな、二人とも」
身体が再び口を開く。
「今回の作戦が完全に遂行された時、ゾムビー達との戦いも完全に決着がつく、と俺は考えている」
「ゾムビー達との戦いが……」
「完全ニ……」
主人公と逃隠は口々に言う。
「そうだ。ゾムビーの脅威が無くなり、平和が訪れる」
「平和ガ……」
(回想)
「あはははハ!!」
ダッヂと一緒に、緑生い茂る野原を走り回る幼き頃の逃隠。
「ははハ!!」
「ワン!!」
今度は野原に寝転び、じゃれ合う二人。
「ペロペロ」
「こラッ! くすぐったいゾ、ダッヂ!」
ダッヂは逃隠の頬を舐めている。
「くかァ――」
「ぐぅぅうう」
(回想終了)
(ダッヂ……!)
グッと拳を握る逃隠。
「平和……」
(回想)
「よし!」
急に立ち上がる尾坦子。
「?」
続いて笑顔で言う。
「好きです、付き合って下さい」
「ひしっ」
尾坦子は急に主人公を抱きしめた。
「えへへ。ずっとこれがしたかったの」
「尾坦子さん……」
主人公は涙を拭いそれに応えた。
「?」
不意に顔を近付ける尾坦子。
そして――
二人の唇は重なった。
「! ! !? ! ! !?」
ゆでだこ状態の主人公。
「えへへ。ゾムビーじゃなくなったから、こんなコトもできちゃう。ありがと、ツトム君」
(回想終了)
(尾坦子さん……もう二度とゾムビーの被害者にさせない……!! いや、もはや誰一人として、ゾムビーの被害者にはさせない!!)
主人公も決意を新たに拳を握る。
「さて、ゾムビー捕獲の方法について考えてみよう。まず、ゾムビーを弱らせる電波が送れる機械を使おうと思う」
(尾坦子さんが被験体となって研究された、あの電波を……!)
身体の言葉に、思いを巡らせる主人公。
「その次だ。電波で弱らせた後、どうするか……」
「は――イ! ハイは――イ!」
身体に対して、手を上げて反応する逃隠。
「どうした? サケル」
「コレだい!」
逃隠は、自身の着ている特殊スーツを指差した。
「ん?」
顔をしかめる主人公。
「スーツ……そうか!」
と、ここで身体は何かに気が付く。
「ゾムビーの体液を防ぐスーツの素材を使い、ゾムビーを覆うか何かして捕獲するんだ!」
「だい!」
「! (サケル君にしては名案だ! だいぶ失礼だけど……)」
主人公は気を使いつつ思う。
「そうと決まれば、製造ラインに連絡だ! 特殊スーツと同じ素材の紐と、ゾムビー1体包めるくらいの袋を、大量生産させよう!!」
――、
即座に連絡は行き渡り、製造ラインは紐と袋を生産し始めた。
「さて、N州支部へ、今後の活動方針を連絡しよう」
「ピピピッ」
身体は携帯を使って連絡する様だ。
『もしもし、狩人、副隊長だ』
『oh! どうしマシタか?』
N州支部の者が電話に応対した。
『ゾムビー捕獲の件だが、こちらの活動方針を伝える。まずゾムビーを弱体化させる電波を使う。そしてゾムビーの体液を防ぐ素材で紐や袋を作り、それで捕獲して行く事と決めた』
『そうデスね。こちらも同じ様な策を考えてマシタ。マサカ、そちらがこの方法を思いつかないとは思いませんデシタので、敢えて連絡は送りませんデシタが』
『! (……いちいち癇に障るヤツだ)分かった。今言った方針で活動を行っていく』
身体は怒りを抑えて、冷静に応じた。
『了解デス。要件は以上デスか?』
『ああ、以上だ。それでは』
『goodbye』
「ピッ」
身体は電話を切った。
「ふぅ、向こうの承諾も得た様だし、あとは紐や袋が揃ったら再び向こうへ連絡し、一番近くにある石を入手しよう!」
「ハイ!」
「だい!」
身体に受け答える主人公と逃隠。
「さて、今日はもう帰っていいぞ? 特殊な素材のモノだ。数時間で揃うものではないからな」
「分かりました」
「了解だい!」
――、
「ウィ――ン」
主人公は狩人ラボを出る。
(捕獲……困難なミッションになるだろうけど、スマシさんの為にもやるぞ……僕はやるんだ)
主人公は決意を新たに、戦いへ臨む。
――、
身体が製造ラインに連絡を入れてから、3日が経とうとしていた。
平々凡々中学校、主人公のクラス――、
「ブー、ブー」
主人公の携帯が鳴った。
(! 副隊長からだ、任務か!?)
メールが届いていた。
(『このメールに気付いたら、即座にラボに向かえ』……任務だ!)
「バッ」
突然手を上げる主人公。
「先生!」
「なんだ? ツトム」
「体が熱っぽいので、早退します……」
仮病を使う主人公。
「……」
「……?」
「仕方ないな、帰っていいぞ」
「はい……(よし!)」
主人公は狩人に入隊してから、戦闘能力だけでなく、演技も上達していた。
「ダッダッダッダッダ」
廊下を走る主人公。
「ツトム!」
振り返ると逃隠の姿が。
「サケル君!」
「お前もメールを見たんだナ!」
「うん! 今からラボに向かうところなんだ」
逃隠と主人公は会話を交わす。
「ダッダッダッダッダ……ザッ」
校庭に出る。すると、狩人の移送用の車が用意されていた。
「早く乗るんだ……!」
狩人隊員が促す。
「ブロー……」
主人公と逃隠を乗せて、車は走り出す。
車内――、
「副隊長はどこだい?」
逃隠が隊員に問う。
「身体副隊長は、現在別ルートから現場に向かっている。後20分程で合流できるだろう」
「ガッテンだい!」
「あのう……」
主人公が落ち着かない様子だ。
「これからどこへ行くのでしょうか……?」
「これからか? これからN県のとある湿原へ向かうんだ」
『し……湿原!?』
主人公と逃隠は口をそろえて言う。
(! 以前、K県では沼地を調査していた……ゾムビーは湿った場所が好みだという特性もある……)
主人公は思いを巡らせる。
「湿った場所にゾムビー在り、かな? 今回は、その湿原にゾムビーの石があるとアメリカの方から連絡があったんで、それを入手しに行くんだ」
(! やっぱり、湿った場所だ……)
隊員の言葉に、主人公は黙考する。
「それで、今回『石』を使って、回収する方の石を光らせてから入手する方法を執る」
「ブロロー」
主人公達が乗った車に、並走する車が。
「石は2つ。2、3日前にアメリカから送られてて来た。そいつを使う」
「ウイーン」
並走する車の窓が開く。身体が居た。
「パカッ」
何かケースを開ける。
そこには例の『石』が入っていた。
「副隊長ォオオ!」
歓喜の声を上げる逃隠。
「ウイーン」
並走する車の窓は閉まった。
「オォォオオ! ノォオオオオオ!!」
叫ぶ逃隠だった。
車に乗って3時間半ほどが経過した――。
「キキッ」
タイヤはブレーキで止まる。
「着いたぞ」
狩人隊員が言う。そこは、のどかな風景が広がる湿原だった。
「ここに、あの石が……」
主人公は口を開く。
「そうだ」
「!」
身体が車から出てきて言う。
「副隊長ォオオ! 今回の任務はどの様に進めていくのですカ?」
逃隠が上機嫌で言う。身体は返す。
「石が二つあるので、二手に分かれよう。俺の組と、ツトム、サケルの組に分かれて、それぞれ均等になる様に隊員達は別れてくれ」
「ご――――ん(身体副隊長と……別の組……)」
逃隠はショックを隠し切れずにいた。
「石を見つけ次第、若しくは2時間後、ここに集合してくれ」
身体が今回の作戦の指揮を執った。
湿原での探索が始まった。
身体、主人公がそれぞれ例の石を持ってどこかに眠っている石を捜索して行く。湿原だけあって、周囲は湿度で蒸し暑い中での探索になった。だらだらと汗を流す狩人隊員一行。指定されていた2時間が過ぎようとしていた。
「おーい! そちらの組は見つかったか?」
身体が遠くから大きな声で問う。
「まだです! 見つかっていません!」
「だい!」
主人公と逃隠が答える。すると、
「キラッ」
主人公が紫色の光を発見した。
「あっ」
「どうした!? ツトム!」
身体が問う。
「ちょっと待って下さい!」
ぬかるんだ道を進んで行く主人公。光は大きくなっていった。
「! あったか!? ツトム」
その光は身体が目視できるまでに大きくなっていた。光のする場所へと辿り着く主人公。
「ベチョ」
光のする地面を手で拾い上げる主人公。
「!」
そこには、探していた石が存在していた。
「ありました! 副隊長!!」
歓喜の声を上げる主人公。身体は答える。
「よし! やったな、ツトム。それじゃあ皆、今日はこれで撤収しよう。さて、ツトム、サケル。込み入って話がある。こちらの車に搭乗してくれ」
「あいあいサー!」
「は、はい(何の話なんだろう……?)」
元気良く答える逃隠に、少し困惑気味の主人公。
――、
エンジンを入れる隊員。車両は走り出す。
身体が口を開いた。
「さて、話を始めよう。この前生産を始めた特殊素材の紐と袋だが、そろそろ完成する」
「!」
「!?」
主人公と逃隠は驚愕した。
「もう、何個かできていたんですか!?」
主人公が問う。
「そうだ。今回だって、この車両の後ろに積んである」
身体は右手を後方に向けた。
「スゴイ……もうできていたなんて……」
「だい……」
主人公と逃隠は驚きを隠しきれずにいた。
「それに伴ってだが」
身体は話を進める。
「ゾムビーの捕獲を、これからやっていく事となる。今回は発生しなかったが、『石』の近くには大概、ゾムビーが生息しているだろう。捕獲はゾムビー撃退よりもはるかに難しいぞ? これからの任務を遂行する覚悟はあるか?」
「は、ハイ!!」
「だい!!」
主人公、逃隠は答える。
「よし、いい返事だ。これからの任務、頼んだぞ」
主人公達を乗せた車は、K県某所へ帰って来た。
――、
「ブロロロロロロ」
主人公と逃隠は車から降り、身体を見送った。
「捕獲の任務、難しそうだね」
「だい」
「学校、もう間に合わないね」
「だい」
「て言うか、体が汗でびしょびしょだよ、帰ってシャワー浴びないと」
「……だい」
二人は家路を辿った。
狩人ラボ、身体自室――、
「何!? それは本当か……分かった、そこへ向かおう」
何者かと電話をしている身体。
「ああ、分かった。それじゃあ、な」
「ガチャ」
電話を切る身体。
(次の目的地は……やや遠いな……)
翌日――、
「ホントですか!?」
「だい!?」
「ああ、大マジだ」
主人公、逃隠に答える身体。
「……分かりました」
「……だい」
羽田空港へ向かう一行。
(くー、また飛行機に乗る事になるなんて……)
もどかしい主人公だった。行き先は!?
およそ2時間半後――、
一行は那覇空港に着いていた。
行き先は、そう、沖縄だった。
身体が口を開く。
「確かツトム達が、ここ沖縄に修学旅行に来た時も、ゾムビーが現れたそうだな?」
「は……はい、海の方からやって来ました」
「だい」
主人公、逃隠が答える。
「そうか。今回も沖縄の海岸沿いにゾムビーが出たとの目撃情報があってな、真偽を確かめに行くところだ」
(もし居なかったら、この2時間半はどうなってしまうんだろうか……)
主人公は静かに考える。
「こちら方向の海だ。行くぞ」
身体の指示で、部隊は歩き始める。十数分程で海岸に着いた。
「! 目撃情報を信じて正解だったな」
身体の視線の先には、ゾムビーの姿があった。
「ゾゾォ」
「ゾム……ゾム……」
「皆! 今回の任務は撃退ではなく、捕獲だ! 必要以上にゾムビーを傷つけるなよ!」
「ラジャー」
身体の指示で、狩人部隊は動き始める。




