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回避とサイコとツトム改~ゾムビー~  作者: 時田総司(いぶさん)
第五章 殺戮の終焉

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第六節 酸素

「さあ、話の続きだ」


 人生のイロハ教室はまだ続くようだ。


「強さと自己中心さとは表裏一体だ。甘やかしと優しさとも――な。要はバランスが問題なのだ。これについてどう思うツトム、サケル」


 爆破の問いに、まずは主人公が答える。


「そ……その通りだと思います。(強さと自己中心さについて、まるでスマシさんみたいだなんて口が裂けても言えない……)」


「そうか、それは嬉しい限りだ。サケルはどうだ?」


「……」


 爆破は問うが、うつむいたままの逃隠。


「どうした? 具合でも悪いのか?」


「……表裏一体とは何だい……?」


 ずっこける爆破。


「お、……お母さんにでも聞いてくれ。きっと優しく答えてくれるだろう」


「分かったんだい……」


 涙目の逃隠。


 少し間を置いて、爆破が口を開く。


「そうだ、優しさと言えば、あの看護師の女性のお陰でと研究の成果で、ゾムビーの動きを鈍らせる電波が完成したんだ。このロケットにも搭載しているだろう」



「!!」



 主人公は目を見開いた。


「どうした? ツトム」


「はい……ちゃんと、研究の成果が出たんだと……尾坦子さんのしてきたことは意味があったのかと思うと、嬉しくて……」


 爆破の問いに答える主人公。涙腺を刺激するものがあったようだ。爆破は口を開く。


「そう言えばツトムも他の生体実験に参加させられたのだったな。辛かったろう?」


「はい……まぁ、いい気分ではなありませんでした」


 主人公は少しうつむいて答える。フーと溜息をつき、爆破は返した。


「そうだろう? しかし上は命令してばかりだ。自分達の身の安全を確保し、常に安全地帯に居る。例えるならこれが今の日本の風刺画(縮図)だ。現場を体験すらしたことない連中が全ての決め事を扱う世の中なのだ」


「はい……」


 下を向く主人公。


「暗い話ばかりしてすまない。しかし、これが現実なんだ。社会に出ていきなりそれを体験するよりは、始めから知っておいた方が対処できるだろう?」


「……そうですね」


 ここで爆破がパンと手を叩く。


「さて、……生きるとは苦難に満ちている。飢え、老い、病気と様々な苦難がある。しかし、生きているからこそ私達は巡り合えた。生きてきた結果だ。この縁を大事に、これからも生きて行こうと思う。そして、皆もそう生きていってくれ」



「はい!」

「合点だい!」



 爆破の投げ掛けた言葉に、元気良く答える主人公と逃隠。


「午前中の話は、これで終わりだ! 昼食を食べよう」


 爆破の一声でランチタイムが始まった。


(今日はカレーか……。宇宙でカレーを食べるなんて、想像もしなかった)


「美味いんだい」


 主人公はそっと思い、逃隠は明るく言った。



 ――、


 ランチタイムは手短に終わったようだった。


「皆、ご飯を食べたら、これから筋力トレーニングをする!」



「!」

「!?」



 爆破の言葉に、反応する主人公と逃隠。


「部屋を移動するぞ。こっちだ」


 促されるままに機内のほとんどのパイロットが部屋を移動した。


(確か聞いたコトがある。宇宙飛行士は無重力空間で筋力が落ちていってしまうって……)


 想いを巡らせる主人公に、逃隠が話し掛ける。


「何で宇宙で筋力トレーニングするんだい!?」


「……」


「無視すんナ!」


 余りにも無知な逃隠に対して、相手をしていられない主人公だった。爆破は部屋に移ってから口を開く。


「皆居るな? まずは上半身からだ」



 特製の機器を使いトレーニングしていく。


「かはっ……つ、辛い……」

「じょ、上半身は苦手だい……」


 主人公、逃隠ともに音を上げていた。


「地球へ帰還した時に体調不良になってはいけないからな、しっかり鍛えるんだ!」


 爆破は強く言う。


「次、下半身!!」


 下半身のトレーニングも、特殊な機器を使って行った。


「つ……辛い……」

「下半身は得意だい!」


 相変わらず音を上げている主人公と、一転して得意気になっている逃隠。


「よし! ココで休憩を挟むぞ」



「はい……」

「合点だい!」



 爆破の一声で休憩時間になった。


「ここでも少々話をするとしよう」


(なるべく長い話になりますように)


 精魂尽き果てそうな主人公は、少しでも長く休憩が欲しいようだ。


「今はロケットに乗って移動しているが、移動手段についてだ。一番金が掛からない移動手段は何か……分かるか? ツトム」


 爆破が問い掛ける。


「徒歩……ですかね?」


 主人公は答えた。


「正解だ。徒歩で歩いているとよっぽどの事が無い限り、事故にも遭わない、地面に立っているのだからな」


「?」


 爆破の説明が何の意味を持つのか、分かり兼ねる主人公。


「次に金が掛からないのは、自転車だ。しかしこれは、足が地面から浮いていて、こける可能性がある」


「ああ、はい……」


 話は飛躍していく。


「次が自動車。起こり得る危険として、アクセルの踏み過ぎ等による事故が考えられるな」


(……何の話なのだろう?)


 爆破の話は続くが、余り話の意味が理解できていない様子の主人公。


「次は……そうだな、船についてだ。これは地面から離れ、水上に居る。自転車や自動車と違い、転覆する可能性があるな」


(! 確かに。移動手段とそれによるリスクについての話かな?)


「転覆した時、事故現場が陸に近ければ、泳いで陸を目指せる。助かる見込みはあるんだ」


「なるほど!」

「だい!」


「その次は飛行機だ。離陸中に事故が起きれば大惨事だな。緊急脱出は一般人には難しいだろう……海に不時着すれば助かるかも知れないがな。どうだ? 金をかける移動手段になるにつれて、どんどんリスクが増えていくぞ、まだここまでなら安全圏もあるがな」


「な、何が言いたいんですか……?」


 ついに質問する主人公。右手を上げてそれを制止する爆破


「今はロケットの中に居る、つまり……宇宙に逃げ場は、無い」




「!!!!!?」




 場面は移り、地上――。


 hunter.N州支部の宇宙通信所。


『こちら宇宙通信所、こちら宇宙通信所……打ち上げられたロケットの現在の状況を近辺の人工衛星から確認中。! これは……!?』



 ――、


 舞台は再び宇宙空間のロケット内へ戻る。


「な、何言ってるんですかぁ? 物騒な」


 主人公は爆破の先程の言葉に怯えていた。


「いやぁ、済まない。まぁ、それだけ覚悟して緊張感を保っておけという事だ」


「もうー」


 爆破は主人公を宥めながら思った。


(何故だ……何故私は、いたずらにツトムや隊員達を不安にさせる言葉を……妙だな、胸騒ぎがする……)




「warning!! warning!!」




 瞬間――、


 警報が鳴った。


『パイロットは全員、コックピットへ集合せよ!!!!!!』


 英語で緊急連絡が入る。


(!? 今パイロットとか、コックピットって言ったような……)


 主人公達は動揺していた。


「!! ……全員に告ぐ、筋力トレーニングは中止だ、今からコックピットへ戻るぞ!!」



『ラジャー!!』



 爆破の命令に応じる隊員達。隊員を含むパイロット達はコックピットへ移動した。


『何があった?』


 爆破は英語でフライトデッキに居るパイロットに聞いた。パイロットは答える。


『宇宙通信所からの情報によると、こちらへ向かって来る謎の紫色の物体が確認された、という事です』



『何? ……紫色だと……?』



 宇宙――。


 紫色の物体がロケットへ向けて進んできている。


 そう、紫色の物体が――である。



 舞台は変わり、ロケット内――。


 爆破は英語で宇宙通信所へ問う。


『紫色の物体の拡大写真を送ってくれ。大至急だ!』


『ラジャー』


 時計の針を気にする爆破。刻一刻と時間は過ぎて行く。すると、


『発見した、これを見てくれ』


 通信所から連絡が届く。


「!」

「!!」

「!?」


『これは……』


 届いたのは画像。そしてその画像は宿敵、ゾムビーが数十いや、百数十体くらい群れを成して進んでくる正にその瞬間を捕らえたものだった。


「スマシさん、あんなにたくさんのゾムビーが……」


「分かっている、ツトム」


 爆破は主人公を制止して更に問う。


『このゾムビーの群れは私達が乗っているロケットから見てどのくらいの距離に居る?  こちらのロケットまで到達する時間は?』


『いっぺんに聞かれても……時間はあと45分といったところかと……』


(! 今、forty-five minutesって……もしかして……!)


 主人公に不安が襲う。


『何!?』


(……止むを得ん!)


 顔を渋らせる爆破。


「ツトム、こっちに酸素ボンベがある、行くぞ」


 主人公の手を引き、移動しようとする爆破。


「え? ちょ、スマシさん! 何を……?」


 戸惑いを隠せない主人公。


「宇宙空間で効率よく動けるのは、爆発を操れる超能力を持つ私か、衝撃波を操れる超能力を持つツトムだけだ……」


 爆破は淡々と言う。


「だからって二人だけで……?」


 困惑する主人公。


『おおっと、俺を忘れては困るな』


 fireが立ちはだかった。


『N州支部のエースで、300体のゾムビーを()()()()()()()この俺様が、今回も直々に戦ってやろう』


『……好きにしろ』


 爆破は冷たく言った。



 ――、


 重たい機器を持ち上げながら、主人公は不安そうにしている。


「酸素ボンベなんて、初めて付けますよ……」


「安心しろ……私が付けてやる」


 酸素ボンベを主人公に付ける爆破。


「喉元過ぎれば熱さを忘れる、という言葉を知っているか? ツトム」


「何ですか、それは?」


「どんなに高く険しい壁の様な困難でも、終わってみたら忘れてしまう程たやすい問題だったという意味だ」


「でも、あんなに大勢のゾムビーを、しかも宇宙空間で対峙するなんて……」


「そう……だな」


 爆破は戦果報告の時間を思い出す。



(回想)


「何を言うか!! この小娘が!!」


「我々がこの施設に出資した恩を忘れたのか!?」


「言い掛かりは止したまえ」


(回想終了)



(私もまた、過ちを犯すのか? 人類の発展を謳い文句に横暴な行為を繰り返す、あの様な者どもと同じく)


「ツトム」


 爆破は暫く考えた後、口を開く。


「何度も言うようだが聞いてくれ。ツトムにもしもの事があったら、私が命に代えても守る」


「そんな……」


 主人公は笑いながら返す。


「一緒に生き残りましょうよ、いつもみたいに」


「……そう……だな」



「コツン」



 二人は握り拳を交わす。


「後は、これが必要だ」


 トランシーバーを見せる爆破。


「コレは……?」


「ロケットの乗組員や戦闘を行う私達と連絡を取るための物だ。あのfireとか言うヤツも持っていたな……これで連絡を取り合いながら戦う、よっと」


 爆破は自分用の酸素ボンベも取り付てみせた。


「私が前線へ出て戦う。援護を頼む……」


 うつむく主人公。


「そんな顔をするな、ツトム。そう言えば全てのゾムビーを倒すとサケルは言っていたな、それは理想論だ。これから先もゾムビー達との闘いは続くだろう。だが、今回の戦いでも、勝利しなくてはならない……行けるな……?」


「はい……頑張ります」


 依然としてうつむいたままの主人公。




『お先に行かせてもらうぜ?』




 fireが内部ハッチを開けた。



「!」



 主人公がそれに反応する。


『好きにしろ』


「バタン」


 内部ハッチが閉じられた。fireに言葉を返した後、主人公を見る爆破


「さて……ツトム、お前の好きな……お前の大好きな家族、友人、そして恋人を助けるために、戦ってくれるか?」



 父、母、友出、逃隠、そして尾坦子の顔が浮かぶ。



 主人公の目に光が戻った。


「はい! やります!!」


 主人公は、はつらつと声を上げるのだった。



 ――、


 先程fireが出ていった場所で、爆破が手解きをする。


「ここは内部ハッチといって、吹き飛ばされないためにあるんだ」


「はい」



「ガチャ」



 内部ハッチが開く。


「!」


 主人公は外部ハッチに気が付いた。


「ここにもハッチがあるのは吹き飛ばないためですね?」


「そうだ。察しが良いな、ツトムは。……さて、ここからは遂に外に出る。外に出れば、理論上少しの力だけで等速直線運動してしまう。慣性の法則というヤツだ」


「あ、……授業で習いました」


「それなら話が早い。リジェクトを強く打ちすぎると、どうなるか分かるな?」


「はい、ものすごいスピードで飛んで行ってしまいます」


「そうだ。慎重に且つ、冷静にリジェクトを放つんだ」



「ガチャン」



 そう言って爆破は外部ハッチを開いた。


「さあ、……行くぞ」


 爆破と主人公は遂に宇宙空間に出た。



『遅かったな、二人共!』



「!!」


「!?(英語だから、何言ってるか分かんないや)」


 fireのトランシーバーからの言葉に反応する爆破と主人公。


『やっこさん達、もうすぐそこまで来ているぞ』


「!?」


 爆破は驚愕し、百数十メートル先を見た。


 そこには何体ものゾムビーが群れを成していた。


「ツトム……」


 爆破もトランシーバーを使って主人公に話し掛ける。


「アレを見ろ……」


「ッハ!!」


 主人公もゾムビーの群れを確認する。


「もう……こんなにも近付いていたなんて……!」


 躊躇する主人公。


『そんじゃ、お先に行かせてもらうぜ(ワープ、サイコキネシス……ボディアーマー、あの世で見てろよ。俺の……活躍を!)』


 fireが手のひらを見せて小型のジェット機の様なモノで飛んで行く。


「……」


 爆破は無言のままだった。何か思うものがある様だった。すると、突如として一体のゾムビーが高速で向かってきた。


『ヒュー。やっこさん、向こうからお出ましとはご機嫌だぜ。これでも、喰らいな!』


 手をかざすfire。


 しかし、




「シーン」




 何も起こらない。


『しまったぁ! 宇宙には酸素が!! 無い!!!!!!』


 そのまま高速でやってきたゾムビーに体液を吐かれるfire。



「ゾムバァ!!」

「バシャアア」



「アホウが」


 それを見ていた爆破は呟いた。



 ドロドロと体液により溶け始めるfireの宇宙服。


『うわぁぁぁぁぁぁぁ!! あぁぁ!! ……ゾム』


 fireだった者はゾムビー化した。そこで爆破は口を開く。


「フライトデッキの身体副隊長! 聞こえているか!? 宇宙通信所に伝えてくれ。fireとか言うヤツを攻撃対象として良いか問え!」


「そんな! グングニルがあれば助かる可能性が……」


 主人公が口を挟む。



「サッ」



 爆破は片手を上げてそれを制止する。


「ヤツにあの女性の様な気質が備わっているとは思わん、それに前にも見せただろう? 氷漬けにしたゾムビーでは元の人間には戻らなかった。貴重な体力を使うのは惜しい、グングニルは使うな」


「――」


 不服そうな主人公。身体が通知を出す。


「隊長。先程の件ですが、宇宙通信所に連絡が付きました。今はN州支部に連絡を引き継いでいるところです……連絡が帰って来ました。……OKですGOサインが出ました!」


「だ、そうだ。ツトム! 私は行くぞ!!」


 爆破は身構える。

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