第五節 発射
主人公達が乗ったロケットが、今まさに宇宙へと飛び立とうとしていた――。
『発射5秒前……スリー、ツー、ワン……』
「ボッ……ドゴゴゴゴゴゴ!!」
爆音と爆風と共に、ロケットが地上から離れた。
(ホントに宇宙へ行ってしまうなんて……どうしてこんなことに……)
ロケットの先端へ位置する座席で、頭を抱える主人公。
およそ30分前――、
(回想)
(皆、宇宙服に着替えて、準備ができたようだな……)
爆破が周りを見渡していた。
「トントン」
「!」
爆破の肩を叩く者が。振り返る爆破、するとその男は話し掛けてきた。
『日本の部隊の責任者さんか? 俺はhunter.N州支部のエース、名前はコードネームで呼んでくれ。fireって言うんだ、ヨロシク』
握手を求めてくるfire。
『……宜しく』
何か考えながらだが、握手に答える爆破。fireは話を続ける。
『俺は、N州はおろか、アメリカ全土の出動依頼に応えてゾムビー達と戦い、死体の山を築き上げてきた』
(何かと思えば、自慢話か……自尊心の高いヤツだな……)
『だから、今回も俺は活躍できると思うぜ? 何かあったら、俺に頼りな』
去って行くfire。
「火……か……」
何か考え事をしている爆破。少し不満そうだった。
「スマシさん!」
また誰かが爆破に話し掛けた。振り返る爆破。主人公だった。
「あのー、どうしてこうなったかは百歩譲って聞かないにしても、これから、どんな準備が必要かは聞きたいのですが……」
「だい!」
逃隠も横から出て来た。
「……そうだな」
爆破はあごに手をやる。
「ロケットが打ち上げられると、コックピット内ではエンジンや機体からの大きな音が響き、激しい振動が生じる」
「なるほど!」
「だい!」
主人公と逃隠は話に集中している様子だった。
「また、私達は瞬間的に1.6Gの重力で椅子に押し付けられる。これは旅客機の離陸時で感じる時の重力のおよそ5倍になる」
「ご、……5倍……!?」
「だい……」
絶句する主人公と逃隠。
「まぁそれは防ぎようの無い事だ。だから、それに備えての心の準備が必要になる、といった感じかな?」
「わ、分かりました」
「だい……」
「それと、……そうだな、機体が安定するまでは危険だから、宇宙服とヘルメットはしっかりと着用する事だなそれと、ロケットの内部の構造について、基礎知識を少々頭に入れてもらう。まずは……」
(回想終了)
「ドゴゴゴゴゴゴ!!」
(大きな音がするって聞いたけどこんなにも大きいのか……。飛行機とは大違いだ)
爆音の中、主人公は考える。
そして――、
「グググググググ」
乗組員に重力が掛かり始めた。
「クッ」
「だ……だい……」
「うわっ」
爆破、逃隠、そして主人公達に重力が襲い掛かって来る。
「グググ」
「おっ押しつぶされそうだ……!」
弱音を吐く主人公。そこで、
「耐えろツトム。8分後には無重力状態になるからそれにも対応するように!」
爆破が主人公に声を掛ける。
(重力が数倍になった後に、無重力……そんな、殺生なぁー)
困惑する主人公。更に爆破は言う。
「皆、言い忘れていたが、重力は増え続けて、打ち上げられた時のおよそ2倍の、最大3.0Gになるからな……」
「ご――ん」
主人公を、衝撃が襲った。
(今更、そんな情報を……知ってれば気持ちの整理ができたのに……)
「だい……」
逃隠も堪えた様子だった。
数分後――、
「ググググググ」
「はぁ……はぁ……」
更に数分後――、
「ググググ」
「ゼェ……ゼェ……」
更に更に数分後――、
「グググ」
「……」
主人公は精魂尽きた様子だった。
そして――、
「ふわっ」
「!?」
遂に機内は無重力状態になった。
「ホントに浮いてる……重力が、無い」
主人公はふわふわとした、不思議な感覚に陥った。
「ハハ、普通の中学生が体験しえない事を体験しているんだぞ、ツトム。私は過去に1回だけ、副隊長とフライトした事があるから少しだけ馴れているがな」
爆破は笑顔で話していたが、主人公にとってはそれが恐ろしかった。
(英会話もできて、宇宙飛行士の経験もあるなんて……ホント何でもやる人だー!!)
「さて、打ち上げが無事成功した事だし、ミッドデッキに移動するぞ」
ミッドデッキとは、居間や寝室、トイレ、キッチン、倉庫などがあり、乗組員が睡眠や食事、運動などの日常生活を行う空間のことである!
「ふわー」
狩人の数名は浮かびながらミッドデッキを目指した。
「! スマシさん、これは?」
ミッドデッキに辿り着いてすぐに主人公は口を開いた。そこには幾つもの白いボックスがあったからだ。
「これは荷物搭載用ロッカーと言って、生活に必要なものが入っている。食料や飲料水等、様々なモノを収納しているのだ!」
爆破はさらりと答えた。
「た、隊長ォ……身体副隊長のお姿が見えないんだい……」
逃隠も爆破に問う。
「ああ、副隊長なら……」
「サケル、こっちだ」
爆破が答えようとした矢先に、真上から身体が声を発した。
「俺はフライトデッキに居る」
フライトデッキとは機体の操縦を行う場所である。地上との通信や地球観測もここで行われる。
「副隊長ォ! どうしてそこへ!?」
逃隠が身体に問う。
「俺は機体の操縦をする」
「!」
「以前、フライトした経験や、操縦の演習を行ったことがあったからな」
「! ! ! !」
身体からの答えに驚愕する逃隠。そして身体に称賛の言葉を口にする。
「さっ流石でありまス! 副隊長!!」
(副隊長は副隊長でロケットの操縦もできるとは……狩人の隊長と副隊長……やっぱり弱点なし、か……)
二人のスペックの高さに言葉も出ない主人公だった。ひと段落して爆破が話を切り出す。
「さて、ツトム、サケル。そこにキャンバス地の輪っかがあるだろう?」
見渡す二人。輪に気付く。
「そこに足を入れると、体を安定させる事ができる」
爆破は近くにある輪に足を入れて見せた。
「二人もやってみろ」
「はい!」
「うス!」
主人公と逃隠は返事をした後に、足を輪に入れる。
「ホントだ。当たり前だけど、体が固定されて飛んで行く心配がない」
主人公は呟いた。すると爆破は口を開いた。
「何故体を固定したか、だが……」
「ゴクリ」
息を呑む主人公と逃隠。
「またまた、爆破スマシの、人生のイロハ教室、始まり始まりー」
ずっこけそうになる二人。
「腰が抜けましたよ!!」
「だい!」
カンカンな様子の二人。
「まぁまぁ、このままずっと時間が過ぎるのを待つよりは良いだろう? このままだと何もせずに4日間、只々待つだけになるぞ」
「それは……」
「……」
爆破に宥められる主人公と逃隠。
「人生全てが勉強だ!」
「!」
「!?」
「こういう気概で始めようと思う。ジャンルは多岐にわたるぞ?」
どうやら爆破の人生のイロハ教室なるものが始まったらしい。
(今回も為になる話が聞けるかも知れない……!)
(この話、長いんだよナァー)
主人公と逃隠の意見は割れていた。
「これは、誰かが話していた事の受け売りだが、聞いてくれ。犯罪者は何故居るのか? それは悪の証明になるからだ」
「悪……」
「証明だい?」
「悪人、犯罪者が居ることを伝え、教えかけてきているのだ。物事には全てに意味がある。それが良いか悪いかは別として――な。ところで、死んでいい人間は居ると思うか?」
「!!」
「!?」
「エ?」
「今、何て……?」
凍り付く逃隠と主人公。
「悪い、少し残酷な話になるな。死んでいい人間は居ると思うか? と言う問いに関してだが、答えはYESだ。この世から死刑という概念が無くならない限り、YESとしか捉えようがない」
「……!」
「……」
爆破は話を続ける。
「少し話は変わるがいいか? 世の中で収まりを見せない、戦争についてだ。世界の神が戦争を生み、戦争を許し、戦争を続けさせた。神様でさえリジェクトの餌食にしなくてはならないのかな?」
「……!」
少しだけ冗談を交える爆破。主人公はそれを聴いてたじろぐ。
「それと、戦争とは終戦宣言されてすぐに終わるわけではない。命令や宣言が行き届いていない兵士たちは人を殺し続ける。手を叩いてハイ終わり! というわけにはいかないのだ。この戦いも同じく、ハイ終わりという風にはいきそうにない」
「!」
逃隠も、話に集中し始めた。
「さて、私は様々なゾムビーを倒してきた。時には同胞さえも……しかし、他の方法があったのではないかと、時々、思うんだ」
「あ……」
(回想)
(……本質を見極めろ、爆破スマシよ。そして迷うな、一遍の迷いもなく攻撃しろ。奴はもう、人間じゃない……!)
「バースト!!」
「ボンッ!! ボンッ!!」
抜刀の刀、次いで右腕が弾け飛んだ。
「! 許せ……」
「ボッ! ボッ! ボン!」
抜刀セツナは木端微塵になっていく。最後は頭が弾け飛び、抜刀の命は尽きた。
(回想終了)
「フ――。さて、今日はこの辺にしておくか? 時差ボケで体内時間を調整するのも大変だろう。そのまま足を固定して眠るといい」
「あっ、ハイ。……お休みなさい」
「寝るんだい」
爆破は静かに言い、暫く虚空を見つめていた。
どこまでもどこまでも、闇が続いていた。
主人公と逃隠は就寝前の挨拶をして、眠りについた。
翌日――、
「皆、朝だ……起きろ」
「ん?」
主人公達は、爆破の一声で目覚めを迎えることとなった。
「これが朝食だ、今から作り方を教える」
爆破はフリーズドライのご飯を用意した。宇宙食のご飯はお湯を加えてからよく混ぜ、出来上がるまで30分程かかる。
「まだなんだい?」
しびれを切らす逃隠。
(これから5日間? くらい宇宙食か……実家のご飯が恋しいよ……)
主人公は心の中で弱音を吐く。
30分後――、
「パクッ」
宇宙食を食べる主人公。
「う……」
一口目で固まる。
「……美味い」
「パクパクパク……おかわりだい!」
逃隠も宇宙食が気に入ったようだ。
「はは、見た目でマズいと思ってたのか? 宇宙食もここ最近、進化してきたのでな栄養はもちろんの事、味もなかなかだぞ? 因みにカレーやラーメン、寿司もメニューにある」
「!」
「!!」
爆破の言葉に極端に反応する主人公と逃隠。
「マジですか!?」
「まぢスか!?」
声を揃える二人。
「っはは。そんなにがっつくなよ。少し冷静になれ」
朗らかな表情で爆破は話す。
「ご飯だけが楽しみではないぞ? 窓を見てみろ。美しい光景が広がっているし、地球の大きさだって目の当たりにできる」
窓から外の景色を見る主人公と逃隠。
「おっきい……」
「地球は青いんだい」
二人は口々に言う。
「さて!」
爆破が両手を叩く。
「ご飯が済んだら昨日の続きだ。人生のイロハをお前達に伝授する!! だが、すぐにとは言わない。宇宙食だが味わって食べるといい」
――、
20分が経過しただろうか。主人公達は朝ごはんを食べ終わった。
「よし! 食って寝るだけでは体力も落ちるしな。始めよう」
爆破が昨日と同じく人生のイロハを教える様だ。
「以前も話したかな? 裏切られたと感じる時に、人は鬼になってしまう。そして愛する人の為にも、人は鬼になってしまうものだ。覚えているか?」
爆破は問う。
「……」
「だい……」
主人公、逃隠の二人は考え込む。
「そうか、その様子だと覚えていないな?」
「ごめんなさい」
「すいませン」
2人はペコリと頭を下げた。
「いいんだ、中学生の記憶力では、難しい部分も多かったと思う。愛から連想して、それに関連してかしないかは別として、恋愛について少しだけ、話そう」
「!」
爆破の言葉に反応する主人公。
(これだ! この話を基に、尾坦子さんとももっと仲良くなれたら……!)
「恋とは十人十色だ。そして男女間の友情は成立しない。行き過ぎるとムフフな事になるからな」
ずっこける主人公と逃隠。
「自分で言って、よく笑いませんね」
主人公の言葉にも、冷静でいる爆破。
「これは誰かが言っていた言葉だが、男は社会を作り、女は感情を知る、どうやらそういう事らしい。恋愛についての話は以上だ。少々実用性に欠けていたかな?」
(うーん、恋は十人十色で、男女間の友情は成立しない。それと、男は社会を作り、女は感情を知る、か……確かに実用性に欠けているかも……特に最後のは、実践向けではないかな)
「そうだ、お菓子があったな小腹も空いてきた頃だし食べるか?」
「あっ、いただきます」
「いただくんだい!」
爆破の提案に乗って、お菓子を食べ始める主人公と逃隠。
「乾パンというヤツだな。さて、話題を変えるか……私は自分のしている事に疑問を持ち始めたんだ。ここ数年の事になるがな」
爆破はそう言って話を切り出した。
「さて、昨日も話した通り、私は様々なゾムビーを倒してきた。しかし他の方法があったのではないかと、今では時々そう思う。それでも上の人間はゾムビーを殺せ、滅ぼせと指示を出してばかりだ。だから、世界がおかしいのか、自分がおかしいのか分からなくなっている。お菓子だけにな、なんちゃって」
そう言ってお菓子を食べる爆破。主人公達は苦笑いする。
「ホント自分で言ってよく笑いませんね」
と、主人公。
「私は笑いのツボが深いからな」
少しだけ微笑みながら爆破は返した。
「そうだ、ツトム。お前も何か言ってみてはどうだ?」
「何をですか?」
急な爆破の問いかけに、戸惑う主人公。
「何か……ギャグだ……」
「!! !! !! !!」
爆破の発言に驚愕する主人公。
「どうだ? 言ってみないか……?」
「ちょ、ちょっと待って下さい! いきなり過ぎて……」
顔の前で、手をサササッと動かしまくっている主人公。
「何でもいいんだぞ? ほら、言ってみるんだ」
爆破は催促する。
「じゃ、じゃあ……ボク、ぼくねんじん」
「……」
「……?」
主人公のギャグで、機内は静寂に包まれた。
「……つまらんな」
「だから言いたくなかったのにぃ!」
爆破の辛辣な言葉に、発狂寸前の主人公。
「もう一度チャンスをやろう、ツトム」
「いいですよ……」
爆破の提案にもむすっとした様子の主人公。
「そうか、それならいい。この事は深入りするな、不快になるからな」
「もうなってます!」
主人公は完全に機嫌を損ねてしまったようだ。
「ハハハ、まぁそう怒るな。人生全てが勉強だ」
「!」
爆破の言葉に主人公は反応した。
(またこの言葉だ……オヤジギャグの様なこの会話にも意味が……勉強になるのだろうか……でもまぁ)
フーと溜息をつく主人公。
(隊長だけは敵に回したくないな、色んな意味で……)
「? ツトム、私の顔に何か付いているのか?」
「何でもありませんよ!」
主人公は笑顔で言った。




