第三節 旅路
3人は主人公宅に集まった。
指は、迷っていた。
(――!)
迷いを捨て、インターフォンを推す主人公。
「ピンポーン」
中からドタドタと歩く音が聞こえる。母が、ドアを開けた。
「はーい。あら、ツトム。学校はどうしたの? この人達は?」
「……母さん……」
言わなきゃと、心では分かっていても言葉が出てこない。少し沈黙の時間が続く。
「お母さん……」
見かねた爆破が横から口を開く。
「! 待って下さい!! 自分で……自分の言葉で伝えたいんです」
「……」
主人公は、爆破の出かかった言葉を止めた。爆破は、顔の角度を少しだけ下げた。
「……そうか、なら良い。自分の口で、伝えろ。しかし、後悔したり、お母さんを心配させてはいけないからな」
そして、少しだけ釘をさしておく。
「はい……」
「? どうしたの、ツトム。改まっちゃって。それにこの人達は……?」
かしこまる様子の三人に、はてな顔の母。
「母さん、僕……また家を留守にします……」
「!」
「またなの? 何処に行こうって言うの!? 危ないコト、するんじゃないでしょうね!」
「場所は……言えない」
「何で!?」
母は眉間にしわを寄せながら問い質す。
「心配……かけるから」
「!」
母が表情を変えた。
「でも! 絶対生きて帰るし、ケガもしないように、母さんからもらったこの身体、傷つけないようにするから……だから……!」
「もういいわ」
主人公の言葉を遮る母。
「誰に似たのかしらね。大人しくて、優しいだけの子が、こんなにも強く意見するなんて……やって来なさい、自分が決めた事なら……お母さんも今は応援してるよ」
「母さん……!!」
母からの意外な言葉に感動する主人公。
「……分かったよ、母さん。じゃあ行ってくる」
右手を上げ、軽く振る母。
「決まり、だな」
爆破は息を吐いた。
「何かあったら、スマシさんに助けてもらうから! じゃあね! 母さん!!」
母は主人公が小さくなるまで手を振って見送った。
「よし、じゃあパスポートを作るぞ。パスポートセンターへ行く」
「あ、そうか海外へ行くから……」
「パスポート? 何だい?」
口々に言う爆破に、主人公と逃隠。
「費用は狩人が受け持つ」
「ほっ、よかった」
逃隠を無視して会話する爆破と主人公。
「無視かこラ――!!」
「結構高いですからね」
「そうだな、中学生の小遣いから出せるものではなさそうだな」
「……泣くぞこラ(俺、帰ってもいい?)」
強がる逃隠であった。
――、
パスポートセンターへ着いた。
「そうだな、ここで証明写真を撮ってもらう」
「そうか……証明写真を撮るのか……」
爆破と主人公は落ち着いた様子だ。
しかし、逃隠は……
「タ……タマシイが……抜き取られるんだい……」
戦前の思考だった。
「パシャッ」
写真を撮る主人公が、写真の出来具合を見る。
(あ……目ぇつむってる)
横から覗く爆破。
「撮り直しだな」
「……はい」
その横で――
「嫌だい! 嫌だい! タマシイ抜き取られるんだい!!」
逃隠が暴れていた。
「こら! サケル!!」
爆破が怒鳴る。
「!?」
「ゾムビー達を駆逐するのではなかったのか?」
「!――」
逃隠は、下を向き、フルフルと震えた。
「……写真、撮ります……」
「よろしい!」
(なんかすごくシュールな会話だぁああ!)
心の奥底でツッコミを入れる主人公であった。
パスポートを作り終える。(未来の話なので将来、パスポートも即日で作り終えられると捉えてもらいたい)
「キュルルルル、キュ」
身体スグルが、移送車で登場した。
「お待たせしました、隊長」
「ご苦労」
爆破は返す。
「さて、……」
爆破は続けて口を開く。
「事は急を要すると言ったが、ツトム達の負担を考えて余裕を持ったスケジュールを組んである。本日は一旦、サンフランシスコで宿をとる事とする!」
「サンフランシスこぉおお!?」
逃隠が飛び上がる。
(! 本格的にアメリカ行きが実現化してきた気がする)
主人公もその言葉に身構える。
ここで爆破が更に伝える。
「これから二日かけて目的地に向かう! そうだな、今回はあちらの時間で深夜2時くらいにホテルに着くことになるだろう」
数十分後――、羽田空港にて。
(修学旅行以来だなぁ)
主人公はそっと思う。
「飛行機カ……何も起きなければいいのだガ……」
逃隠は意味深な言葉を発する。
「こらこら、普通の飛行機だぞ? 他の搭乗者に失礼だろうが」
爆破は呆れ果てていた。
「隊長。ツトム、サケル、この私、そして爆破隊長とその他隊員の計20名、無事、羽田空港に到着しております」
報告をしたのは身体副隊長だった。
「ご苦労、では出発するとしよう」
搭乗していく一行。
(飛行機に、約9時間も乗るんだよな、寝ていいのかな? 任務中だけど……よし、聞こう)
爆破に一声掛けようとする主人公。
「あのっ……」
「ツトム、サケル!」
遮るように口を開いたのは爆破だった。
「フライトは長い時間かかる。そこで私の人生のイロハを授けようと思う。戯れ言の様に聞こえるかも知れないが聞いてはくれないだろうか?」
「合点承知の助だい!」
「ハッ……ハイ!(とほほ、寝られない)」
元気よく答えた逃隠に、半ば不満をもって答える主人公であった。
――、
飛行機の座席に座ったところで、爆破は口を開く。
「何の脈絡もないが、聞いてくれ。噂というモノは『ここだけの話』というものをキーワードに次々に伝染していくものだ」
「はぁ(何のことだろう)」
「はイ。メモメも」
話半ばな主人公に、きびきびとメモを取る逃隠。
「そして、裏切られたと感じる時に、人は鬼になってしまう」
「え?」
爆破の一言に、虚を突かれる主人公。
「いや、今のは何でもない……まぁいいだろう。そして愛する人の為にも、人は鬼になってしまうものだ」
「えっ、いきなり何を?」
突然のことに、動揺する主人公。
(回想)
『此処の支部長や隊長は?』
爆破が英語で聞く。
『こちらの支部、つまりN州の支部長、並びに隊長は近くのゾムビー発生現場を調査していマース。つまり、双方不在デース』
「!?」
目を見開く爆破。
(調査!? ゾムビー事件の現場対応ならまだしも、調査程度でこの話を直接聞かないという選択肢を取っただと……舐められたものだな……)
数日後、
『こんばんは、hunter.N州支部の方だろうか?』
『そうだ! そちらで言うところの、副隊長を務めさせてもらっている者だ。何だあの石は!? アレの所為でこちらの支部の基地はゾムビーだらけだ! 隊員達も数十名やられた。どうしてくれるんだ!!』
(回想終了)
「フー(……)」
機体が風を受け、揺れていた。聞こえるエンジン音が、少し遠い。
「一つ目のイロハは以上だ。二人共、何か質問はあるか?」
「ハイ! ハイハい」
元気よく逃隠が手を上げた。
「何だ?」
「イロハって何なんだい?」
「……ググれ」
「が――ン」
爆破の心無い一言で、逃隠は口を大きく開いたまま閉じなくなった。
「今のはサケルが悪い」
身体も手厳しい。
「そうだな、ツトム。ところであの女性との仲はどうなんだ?」
爆破が話をふる。
「え……まぁ、上手くやってます。そうだ、連絡しておこう」
急な展開に驚くが、淡々と返す主人公。尾坦子に何か連絡する様だ。
「急でゴメン、狩人の任務で、アメリカに行きます、と」
「ツトム」
「ハッ!!」
急に主人公に顔を寄せる爆破。
「馬鹿正直は馬鹿を見るぞ」
「えっ?」
「それと、カッコつけないと格好悪いんだ」
「は……ハイ。覚えておきます」
知らぬ間に離陸していた飛行機は、アメリカ・サンフランシスコへ飛ぶ。
――、
「本日はこの飛行機をご利用いただき、誠にありがとうございます」
機内アナウンスが聞こえる。
(ああ、日本が離れていく。本当にアメリカへ行くんだ……)
頭を抱える主人公。
「おオ! 雲より上にいるんだい!!」
逃隠がはしゃいでいる。
「サケル君、修学旅行の時と同じことを……」
主人公は呆れながら軽くツッコむ。
「ハハ、サケルは元気が良いな。私や副隊長は任務で乗る事も多いので、もう慣れている」
機嫌良く話す爆破が、人差し指を立てた。
「さて、ここでもう一つ」
『?』
爆破の突然の言葉に虚を突かれる主人公と逃隠。
「世間は狭くて、世界は広いんだ」
『せっ……世間? 世界?』
主人公と逃隠は声をそろえて問う。
「そうだ。世間は人で、世界はモノだ。この前、とある日の夜に、コンビニでセツナに似た人物に出会ってな」
「!!」
「その時思ったんだ。この国でもまだ行った事の無い場所がある。しかしそんな場所でも、似たような人間に出くわすのかもな、と……もっとも、この国の外にだって行った事の無い場所で溢れていて、どの様な出会いが待っているかも分からないのだがな」
「アイつ……」
「セツナさん……」
感傷に浸る逃隠と主人公。続けて爆破は言う。
「なぁツトム。人は忘れてしまう動物か、若しくは忘れることができる動物なのか、どちらだと思う?」
「えっと、それは……」
たじろぐ主人公。
「私は後者だと思う」
「!」
「お通夜等で親族が死んだのに大人たちが笑いながら酒を飲んでいるのは恐らく、その人が死んでしまったという悲しみを忘れて、楽しかった時だけを思い出せているからなのだと、私は考える」
「な、なるほど!(そんなコト、考えもしなかった。このフライト中のお話で、得るものは大きいかも……)」
ツトムは静かに思う。
「あ、アイつとの楽しかった思い出なんて、無いんだい!」
強がる逃隠。優しく笑いながら爆破は言う。
「そうか? 大阪で一緒に呑んだ時は、二人は楽しそうだったぞ?」
「ソ……そんなコト無いんだい!」
逃隠はそっぽを向いた。
「そうか……それにしても、副隊長は一言も話さんな。具合でも悪いのか……?」
どーんと構える身体。それを見る一同。
「ぷっ、ふふ」
「ハハ!」
「あはハ!」
『ハハハハハハハ!!』
主人公、爆破、逃隠と順に笑い、笑いに包まれる一同。腕を組みながら身体は言う。
「特に、体調に不具合はありません」
「ハハ! もう、よせ! 副隊長は相変わらず堅物だな」
「フ、副隊長、腹筋が痛いんだい!」
爆破、逃隠は言いながら笑う。
「はは……」
主人公もつられて頬が緩んだ。
誰もがこの時は知らなかった。
この旅が、どんなモノになるかなど――。
窓の外では、雲海が夕焼けに染まり始めている。穏やかな景色とは裏腹に、爆破の表情だけが、どこか硬い。
「さて、今回の旅についてだが、――危ない橋と言った具合になりそうだな。果たして渡り切れるだろうか……」
「え……?」
主人公は呆気に取られる。
「スマシさん。今、何て?」
「いや、悪い。何でもない」
明らかに動揺している爆破。それを見る身体は思う。
(隊長……もしもの事があれば――私が……)
気配を消していたように、キャビンアテンダントが現れた。一行はそれほど話に身が入っていた。
温められた食事の匂いが漂い始める中、爆破だけはどこか落ち着かない様子だった。
「fish or chicken?」
「!!」
爆破に戦慄が走る。主人公が口を開く。
「それじゃあ、チキン……」
「待て」
ずいっと爆破が身を乗り出す。
「気を付けろ、魚しか頼めない場合もあるぞ」
「え? ……そんなコトって」
主人公は疑問に思う。
『please enjoy! お召し上がりください』
鶏肉が差し出された。
「ほら、スマシさん。普通に出て来ましたよ?」
「ああ、そうか。それならいいのだが」
平然としている主人公に、焦り気味の爆破。
(アレは何だったのだろうか……?)
爆破は一人、疑問に思う。一行は食事を始めた。身体は魚を食べていた。それに気付く爆破。
「ほう、副隊長は魚を選んだんだな」
「はい……肉よりも好きでして……」
爆破に返す身体。ここで爆破が話を始めた。
「ここで小話でもするかな。肉や魚になぜ筋や骨があるのか、食事というキーワードを基にひも解いてみよう」
「え?」
「何だ何ダ?」
虚を突かれる主人公と逃隠。話を続ける爆破。
「それら筋や骨が入っていたら取り除かなければ食べられない。そこで箸が止まる。高級レストランでは箸が止まる事がない。何故なら、出てくる料理は最初から筋や骨が取り除いているからだ」
「あぁ……」
「ホぅー」
「そこでだ、老舗の料理店ではたまに筋や骨を料理に残している場合がある。何故か分かるか?」
「はーいはーイ!」
逃隠が手を上げる。
「サケル、分かったのか?」
「意味が分からないんだい!」
「……」
「……」
窓の外では、雲海を日の光が照らしていた。
「まぁいい、話を続けるぞ」
気を取り直して話を続ける爆破。
「何度も言うが、それら筋や骨を取り除いている時に箸が止まる。それは、箸が止まるようにしている理由が、会話をするためだからではないだろうか?」
「あ!」
「!」
「高級料理店では筋や骨を取り除く時間はないが、同時に会話している時間も少ない。しかし、先ほど言った様な老舗の料理店ではそれら二つを取り除く時間があり、箸が止まった分、会話する時間が生まれる。そして人は食事を摂りながら会話をするのではないだろうか?」
「いつもながら、素晴らしい考察です」
身体は爆破に称賛の言葉を発する。
「なぁに、それ程の事では無いさ」
爆破はあっけらかんとしていた。
(なるほど! 少し難しい話だったけど、的を射る、面白い話だ……! 今回の旅ではこんな形で色々な話が聞けるかも知れない!)
「流石だい! 隊長!!(サッパリだったけど、副隊長が褒めているんだから正しい話のハズだい!)」
主人公は理解し、興味を持った。
逃隠は理解せず、お世辞を並べた。
「おっと、話している内に食べるのが遅くなってしまっているな。ここからは話を止めて、食べる方に集中だ」
一行はそれぞれに食事に集中し、全員が食事をし終わった。
「隊長、腹ごしらえが済んだので、ツトムとサケルに仮眠を摂らせようと思うのですが、いかがでしょうか?」
「そうだな、そうするか」
身体の申し出に答える爆破。
(あー良かった。9時間もどう過ごすのかと思ってたよ)
安堵の表情を見せる主人公。
「待てよ」
「ゴソゴソ」
爆破が持っていたポーチから何かを持ち出す。
「あった。これだ」
それはアイマスクだった。
「人数分用意してある。各々で使え」
さらりと言う爆破。
(準備良すぎでしょ、スマシさん……。てか、全部あのポーチに入れるとか……中身どうなっているんだろうか……?)
主人公は疑問に思う。一行は全員、アイマスクを付けて仮眠を摂り始めた。7時間が過ぎただろうか――、爆破は目を覚ました。
(周りに寝ている客もいるな。それなら……)
爆破は隣にいる隊員や主人公達をゆすって起こした。そして、起きたら自分の隣に居る隊員を起こす様指示を出した。そうこうしているうちに、狩人一行は全員目を覚ました。
「よし、二度目の食事を済ましたら、着陸の準備をするように!」
爆破は指示を出す。
『ラジャー』
隊員達も答える。二度目の食事を摂る一行。
「USA! USA!」
ノリノリな逃隠。
(ああ、あと数時間でアメリカに……この旅って一体どうなってしまうんだろうか……)
一人、不安を募らせる主人公であった。




